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【けいおん!続編!!】 水の螺旋!!! (第二章・疑惑)

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「そうだ。制限酵素にもさまざまな種類があり、切断される回文配列も酵素によって違う。実際、プラスミド中にもさまざまな認識配列があるからね。ところで、今回の目的とするプローブのもととなる配列の両端には、AviIという制限酵素の認識配列がある。よって、AviIでプラスミドを切断したら、目的のプローブのもととなる配列が切り出されてくるわけだ」

「なるほど。ここまでがその作業だったわけですね」

「そうだね。そして今、溶液の環境を制限酵素が活性しやすい温度に保つために、ウォーターバスで2時間ほどインキュベートするわけだ。まあ、実際は2時間もいらないと思うが、それだけ置いておけば、制限酵素は十分に働いてくれるだろう」

「分かりました。それで、その後目的配列をどうやって取り出すんですか?」

 和は訊いた。

「いい質問だ。それには、これを使う」

 その院生は、ウォーターバスの近くにあった別の院生の机に置かれている電気泳動槽を指さした。

「まず、切り出したプラスミドの溶液を、アガロースゲルで電気泳動するんだ。溶液には原理的に目的の配列となるDNAと目的配列が切り取られたプラスミドのDNAが存在する。もっとも、制限酵素の効きが悪くて、目的の配列が切り取られなかったプラスミドDNAがある可能性も否定できないが。とにかく、これらの3種類の大きさのDNAが溶液の中には含まれている可能性が考えられる。それらのDNAを電気泳動すると、その泳動速度はそれぞれの分子の大きさで異なる。つまり、しばらく泳動して見てやれば、ゲルの違う部位にそれらは存在することになる。それらのDNAの分子の大きさを調べて、目的DNAに対応する大きさのDNAをゲルごと切り出せば、プローブのもととなるDNAは回収できるわけだ。あとは、ゲルからそのDNAを抽出して、サンプルとして保存してやればいい」

「なるほど。よく分かりました」

 和がすました顔で答えると、院生は苦笑いを浮かべた。

「もう分かったのか。まだ2年生なのに、これだけの説明ですべて理解できるとは、やっぱり君は相当アタマがいいな。卒研生でも、この倍は時間をかけて説明しないと分かってくれない。石山先生が君を雇いたくなった理由が分かるよ」

「いえ、そんな…」

「そういえば、もうすぐ授業だったな。もう今日は上がっていいよ。あとのDNAを抽出してサンプルにするまでの作業は、僕がやっておくから」

「はい。ありがとうございました」


 和は研究室を出て、講義室へと向かった。キャンパスを歩きながらふと横を見ると、ある建物の入り口付近に、大きな立て看板が立てかけてある。看板に大きな字で何か訴えてある。不当に解雇された職員を復職させろ、というような趣旨の文だ。このようにデモみたいな運動を大っぴらにやるのも、わが校の特色だと思う。

 かと思えば、雪の降る朝に大学に来たら、キャンパスに学生が作ったらしい大きな雪だるまがいくつも転がっていたりするし、あと、聞いた話では、とある研究棟の一角にある男子トイレの扉には、訳の分からない落書きが大量に書かれているそうだ。

 デモのような運動以外にも、このような一見ふざけたことを平然とやってしまうのも、ここの学生の大きな特色だと思う。少なくとも、自分の友人たちの通う大学については、そのような話は聞かない。

 あっ、と和は思い立った。“友人たち”といえば、唯は大丈夫なんだろうか。

 半月ほど前、唯がいなくなったという話は、当然彼女の幼なじみである和の耳にも入っていた。唯はすぐに帰ってきたというが、帰ってきてからも様子がおかしいといって憂は今でも心配している。

 自分も心配になり、唯の様子をうかがいに行こうと思ったが、何せ唯は下宿中であり、互いの大学の場所も違う。おまけに、自分は自分で大学での授業や研究補助のアルバイトに追われ、なかなかその機会が作れずにいた。

 カバンからケータイを取り出し、メールや着信がないかチェックする。自分が研究室にいる間に、憂からまたメールが来ていた。

『和ちゃん、お姉ちゃんますます苦しそうだよ。どうしよう…』

 ここのところ、憂から唯を心配するメールが頻繁に来ていた。和は歩きながら、返信用のメールを打った。

『憂、落ち着いて。あなたまでおろおろしてたら、唯があなたを頼りたいと思ってもできないでしょ?気をしっかり持って』

 送信ボタンを押す。送信中の画面に切り替わってほんのしばらく後、『送信完了』の表示が出た。

 できることなら、自分も唯に会って、何があったのか直接聞いてみたいと思う。聞けないにしても、唯の心の支えになってあげたいと思う。けれど、それができないのでは、その役を他の人間に任せるしかない。憂や軽音部の友人たちだ。特に、憂は家族として、誰よりも、自分よりも唯より近いところにいる。

 やっぱり、憂が適任だわ。和は思った。唯に悩みがあるのなら、それを解決できる可能性が一番ある人間は、憂をおいて他にはない。だが、憂は憂で落ち込んでしまっている。これでは駄目だ。憂は前向きでいなくてはならない。そうでなければ、これからも唯は立ち上がれない。

 平沢姉妹と幼いころから付き合っている、和だから分かることであった。

 今日は研究補助のバイトも終わったし、授業も次の時間で終わりなので、早く帰れる。帰ったら、憂の様子を見に行こうかしら。和はそう思った。



 4



「お疲れさまでした」

 といって、姫子はカフェを後にした。
 歩きながら、姫子は大きなため息をついた。今日はあの人に何も話せなかった…。
 今日もあの人は店にやって来た。

 姫子は、昨日の一件が気にかかり、自分でもぎこちないと思える態度を彼に対してとってしまった。
 向こうも、何となく落ち着かないように見える。
 もしかしたら、失くしたあの紙切れが気になるのだろうか。
 姫子は、よっぽどあの人に紙切れを返そうと思った。しかし、そうは思っても、二の足を踏んでしまい、なかなか渡しに行けない。
 そうこうしているうちに、あの人は店から出て行ってしまったのだった。

 いくじなしだな、私。
 姫子は後悔と自己嫌悪をその足で引きずりながら、夜道を歩いていた。


 一方、大学の近くにある音楽スタジオ、『アドリブ』にて、放課後ティータイムのメンバーは練習をしていた。ライブが近いので、今のうちからしっかり合わせておかなくてはいけない。

 ライブの候補曲を、一曲一曲、演奏していく。梓と合わせるのは本当に久しぶりだが、高校時代から演奏していた曲が殆どなので、時間のブランクはそれほど気にならず、普通に合わせることができた。

 ただ、別にメンバーには気掛かりなことがあった。
 唯のギターだ。
 唯の演奏に、いつものような躍動感がみられないことだ。