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【けいおん!続編!!】 水の螺旋!!! (第二章・疑惑)

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 唯のギターは、いわば放課後ティータイムのムードメイカーのようなものだった。演奏を心から楽しんでいることが伝わるように、ひとつひとつの音の粒を輝かせながら演奏するのが、唯の大きな魅力であった。その魅力があればこそ、メンバーもより演奏を楽しむことができ、それがバンドの一体感を生み、さらに観客へ自分たちの音楽を伝えるための大きなアイテムにもなっていた。

 しかし、今の唯の奏でる音には輝きがない。ストロークには張りがなく、アルペジオでは輪郭のぼやけた弱々しい音になる。かと思えば、たまに聴き手を刺すような、鋭く尖った音になったりもする。いつもの唯の演奏とはまったく違っていた。
 演奏中、梓は横にいる唯を見た。唯の横顔は暗い影を落としており、心なしか顔色も悪く見える。

 演奏中、誰が間違えたわけではないし、息が合わなかったというわけでもない。なのに、これだけ心が躍らないのは初めての経験だった。

 練習の時間終わり、メンバーはスタジオの外に出た。みんなの顔は晴れない。

 ムギは努めて明るい声を出した。

「これからどうする?またお茶でもして帰る?」

 律がまた明るい声でそれに続く。

「そうだな。みんなも行くよな」

「ああ。私もいいよ」

「そうですね」

 さらに、澪と梓が便乗した。そんな中、

「ごめん。私ちょっとこれから用事があるんだ」

と云ったのは唯だった。

「じゃあ、またね」

 唯はそそくさと帰って行った。明らかに様子がおかしい。

「唯先輩、どうしちゃったんでしょうね」

 梓が心配そうに呟いた。

「…後を尾けよう」

 澪の第一声。

「そうね。尾けましょう」

 ムギの第二声。

「おっ、尾行か。よし、やるか!」

 律の第三声。

「ちょっと…、みなさん!?」

と梓は云ったが、すでに多数決は成立している。それに、自分も唯先輩のことが心配だ。

 四人は、唯の歩いて行った方向に向かって歩き出した。


 唯との距離を数十メートルにキープしながら、四人は唯のあとを尾ける。唯が赤信号で立ち止まったので、四人は近くの電信柱に身を潜めた。

「唯先輩どこに行くんでしょうか」

「さあ。まさかこのまま家に帰るってことはないだろうな」

「用事があるって云ってたからな。どこかで誰かと待ち合わせとか」

「あっ、唯ちゃん歩き出したわ」

 唯は道なりに歩いている。と、前から歩いてくる人をばったり出くわして、ふたりは立ち止まった。ふたりは驚いたような声をあげて、何か話している。あれは誰だろう。澪たちにも、知っている人のような気がした。しかし、この距離からでは、相手の顔までははっきりと判別できない。


 前から歩いてきた人を見るなり、姫子は「あっ」という声をあげて立ち止まった。
目の前の女性は、何だろうという風に俯き加減でうつろにしていた目をあげた。すぐさま、向こうも「あっ」と声をあげて、驚きの顔を作った。

「唯?あなた、唯じゃない!?」

「えっ、もしかして、姫子ちゃん?」

 姫子は驚いた。まさか、こんなに早くに唯に会えるなんて。

「唯、久しぶりね~。元気してた?」

「え、うん。まあまあかな…?」

「ギター、まだ続けてるのね」

「うん。さっきもみんなとスタジオで合わせてきたんだ」

「みんな…?そういえば、軽音部のみんなも唯と同じ大学に行ったんだっけ。まだあのメ
ンバーでバンドやってるの?」

「うん。今度もまたライブやるんだよ」

「へぇ~、頑張ってるのね。あ、そう云えば唯、今ってヒマ?」

 姫子はそう切り出した。唯にはぜひとも聞きたいことがある。

「え、う~ん、特に予定はないけど…」

「せっかく会えたんだし、どこかで少し話してかない?」

「うーん、そうだなぁ…。まあ、いいよ」

 唯と姫子は、繁華街のほうへと歩いて行った。



5



「唯、お酒とかって飲む?」

 姫子は唯に尋ねた。

「えっ、私まだ未成年だよ。飲めないよ」

「大丈夫、大丈夫。今年で私たちも20才になるんだし。それに、唯もコンパとかで飲んだこととかあるでしょ?」

「うん。まぁ、まったく飲めないってことはないけど」

「じゃあ、決まりね」

 ふたりは、とあるショット・バーに入った。姫子を見るなり、マスターが話しかけてきた。

「おっ、姫子ちゃん、いらっしゃい。お隣はお友達かい?」

「ええ。高校時代の同級生なの」

 そう云いながら、姫子はテーブルについた。唯も姫子の向かいに座る。

「私、カルアミルク。唯は?」

「あ、え、私!?」

 唯はあわててメニューを手にとって眺めた。だが、メニューの種類が多く、おまけにこういうお店は初めてであり、何を選んだらいいのかよく分からない。

 クスリと姫子は笑った。

「この子、こういうお店初めてみたいで。唯、私が適当に決めていい?」

「あ、うん。ごめん」

「じゃあ、この子には、カシスオレンジを」

 注文を終え、マスターがカウンターへ帰っていった。唯は店内を見回した。こういうお店に入るのは初めてだ。何となく、店の色々なところへ目がいってしまう。

「唯は今大学生だっけ。どこ行ってるの?」

 辺りをキョロキョロしていた唯は、姫子が話しかけられたことに気づき、少しあたふたしたように答えた。

「あ、えっと…、N女子大だよ。姫子ちゃんは?」

「私は専門学校。…でも唯が大学行くなんて、ちょっと意外だったなぁ」

「そう?」

「うん、正直ね。勉強も苦手そうだったし、高校卒業してからも勉強続けるなんて思わなかった」

「それは成り行きというか、何というか…」

 唯は照れるように答えた。

「因みに、今はどんな勉強してるの?」

「生命理学だよ」

「せいめいりがく…?」

 どうやら姫子には、この辺の分野の知識はないらしい。唯は生命理学について説明しようと思ったが、どのように説明すればいいのかよく分からず、授業で習った言葉しか思い浮かんでこない。仕方がないので、唯は思い浮かんだことをそのまま伝えた。

「えっと…、ヌクレオチド、とか」

「…?」

「あ、えっと…、脂質二分子膜、とか!」

「…??」

「ううん、と…、突然変異、とか!」

「あ…、ア、アポトーシス、とか!」

「トランスポゾンとか!ミトコンドリアとか!!」

 姫子には唯の発する単語がさっぱり理解できなかった。いくつかは、高校の生物の授業で習った言葉のような気もするが、当時習ったことなど、まったく忘れてしまっている。そもそも姫子自身も、何気なく聞いただけのことで、どうしても聞きたかった話ではない。それなのに、自分の勉強している内容について説明しようと、必死になっている唯が少し可哀想に思えた。

 姫子は苦笑いして、「唯、もういいよ」と云おうとした。

 その時、唯の口から発せられた言葉。

「えっと、遺伝子とか、DNAとか!!」

 瞬間、姫子の身体は硬直した。“遺伝子”“DNA”というキーワード…。昨日、店に来たあの男性が読んでいた本に書いてあった言葉だ。

 そこへ、マスターが注文したお酒を運んできた。