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消えなかった結果がコレだよ/ex

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 日は変わって、オーストリア国内某所に佇むとある屋敷。
 全盛期には政務業務が行われていたこともある屋敷だが、今やその部屋の殆どを鍵で閉ざし、母屋の一部のみがひっそりと開放されていた。
 その一区画、いわゆる台所で朝も早くからローデリヒは世話しなく動き回っていた。
 換気扇を全開に回してもなお充満する甘い匂い。さらにそれに負けない焦げ臭さの中でローデリヒは平然と作業に集中する。
 荒熱のとれた林檎のフィリングを、薄く伸ばした生地に広げ、丁寧に丸め込むよう包む。
 天板にオーブンシートを敷き、崩れないよう生地をそっと移動させ、溶かしバターをたっぷりと塗りこんだ。それを焦げ跡真新しいオーブンにいれる。
 この後、数十分間の焼きと何故か発生する爆発を経れば、ローデリヒお手製のアプフェル・シュトゥルーデルが出来上がるのだ。
 そこまでの工程が終わってようやく、ローデリヒは一息ついた。
 エプロンを外し、丁寧に捲くり上げていた袖を元に戻す。出来てしまった皺を伸ばしながら窓の外へ目を向ければ、ガーデンテーブルに伏せているエリザベータが見えた。

 結局あの後、ルートヴィッヒとは連絡が取れなかった。既に移動を始めているのだとしたら、向こうから連絡がない限りどうしようもない。
 再びエリザベータに電話をかけその旨を告げると、彼女も予想していたのだろう、一度「そうですか…」とだけ答えて後は交通便の細かな話になった。
 彼女を迎え一晩経ったが、やはり未だに知らせ一つない状態が続いている。
 いつもと変わらぬようエリザベータは振舞っていたが、うっすらとした目の下の隈が彼女の憔悴を物語っていたのは明白で。
 ルートヴィッヒが来るまで好きな曲を弾こうかと提案したものの、ローデリヒに気を遣わせまいとしてエリザベータは庭に出てしまった。
 そっとしておいてやりたいが放ってもおけず、結局、ローデリヒは彼女の様子が伺える台所で菓子作りをすることにしたのだ。
 楽しい話にせよ、そうでないにせよ、何かしら茶の伴があったほうがいいだろう。そんな考えもあって作業をしていたら、もう昼の時間にさしかかろうとしていた。
 よく考えたら朝からずっと作り続けていて、アプフェル・シュトゥルーデルの前にも二つケーキを焼き上げてしまっている。オーブンも午前中だけで随分くたびれてしまった。
 それもこれもルートヴィッヒが言うだけ言って電話を切ったせいである。後でオーブンも直させよう。
 全く…とごちていると、来客を知らせるベルが聞こえた。
 弾かれた様に振り返り、脱いであったいつもの藍のコートを引っ掴むと、ローデリヒは彼なりに足を速めて玄関に向かった。