二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

コールドタイフーン

INDEX|2ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 





「理由はそこまで込み入ったことじゃないんだ。でも立ち話もどうかと思うし…」
「…………」
「あ、ありがとうございますにいさま。…骸、そこのソファに座って?俺、お茶淹れてくるよ」
「はい、ではお言葉に甘えて」
骸が座り、お茶を淹れようと綱吉が身動いでも、恭弥は彼女を腕の中に閉じこめたまま離そうとしなかった。
それでも綱吉は恭弥を無理に振り払うことをせず、腰に回されたままの左手に自分の手をぽんと載せて、「にいさまも少し休憩しましょう?」と促し、一緒に立ち上がらせた。
「ねえ骸、今お茶請けがバタークッキーしかないんだけど、紅茶で良いかな。アールグレイとダージリン、どっちにする?それともコーヒーが良い?」
「でしたら、ダージリンを」
「わかった。にいさまも、ダージリンで良かったですよね?」
「…………」
「はい、俺も今日はダージリンが飲みたいので。…じゃあ、行きましょう?」
肩越しに振り返り、恭弥が頷いたのを確認すると、綱吉はそのまますたすたと危なげなく給湯室の方へ歩いていく。
恭弥を背中に張り付かせたままで。
(まさか…あのまま姫君はお茶の用意を?)
思わず骸が給湯室の方に体を向けると、綱吉は相変わらず恭弥の腕にすっぽり収まったままで紅茶の用意をしていた。
「にいさま、上の棚からクッキーの箱を取って貰えますか?…はい、そこのお皿も。ありがとうございます」
ガスレンジにかけた薬缶でお湯を沸かす傍ら、電気ポットから注いだお湯でティーポットとカップを温めている綱吉を片腕で抱いたまま、恭弥は無言で彼女の指示に従う。
(…そういえば、さっきから恭弥君がひとことも喋っていないような…)
「ああっ、だめですよ恭弥にいさま!片手でそんなに雑に出したら、クッキーが割れちゃいます!」
「…………」
「そりゃあ、割れたって味に変わりはないですよ?だけど、せっかく綺麗な形してるのに、割れちゃったらなんだか勿体ないじゃないですか」
「…………」
「お菓子もお料理もお茶も、いちばん大事なのは作った人の気持ちと味ですけど、見た目だって大切ですよ」
「…………」
言い含められたらしい恭弥は、片手のままそろりそろりと皿の上にクッキーの個包装を並べていく。
「はい、このくらいあれば大丈夫だと思います。ありがとうございます」
片方だけが喋り、もう片方は喋るどころか唇を動かす気配すらない。
(なぜ姫君と恭弥君は、会話が成立してるんでしょうか…)
うっかり観察している骸の疑問を余所に、一仕事終えた恭弥は綱吉が用意したトレイの上に皿を置くと、きゅう、と彼女を両腕で抱きすくめて、細い肩口に頬を擦り寄せる。
緩やかなウェーブのかかった長い金茶色の髪に鼻先を埋めたその仕草は、まるで子供が母親のぬくもりを求めて甘えているかのようだ。
「…お湯、そろそろ沸きますね。にいさま、ポットの中のお湯だけ、先に捨ててもらってもいいですか?」
こく、と頷いた恭弥が、右手でシンクにティーポットの中のお湯を捨てる。左手は綱吉の華奢な腰に回されたままだ。
「ええと、まずは骸のために一杯。それから、恭弥にいさまのために一杯。あとは俺のために一杯と…ポットのために、もう一杯」
うたうようにしながら綱吉が茶漉しをセットしたティーポットに茶葉を入れると、恭弥が続けて薬缶から沸騰したお湯を注ぎ入れる。これも綱吉の腰に左手を回したままで。
「よし、これで時間を計って…と」
傍にあった砂時計をひっくり返して茶葉を蒸らす間、綱吉はくるりと体の向きを変えると、すかさず縋り付いてきた恭弥の頭をよしよしと撫でてやる。
あれはまだ骸達が里で生活していた頃、よく何もないところで転んだりしては泣いていた綱吉に恭弥がやっていたのと同じ仕草だ。
「…今日はいつもと反対ですね、にいさま。普段は俺が、にいさまにこうやってもらっているのに」
穏やかな声で綱吉が言うと、微かに恭弥は頷いたらしい。
「だけど、どんな恭弥にいさまでも、俺はだいすきですよ」
「…………」
「えへへ、ありがとうございます。嬉しいです」
少し照れたように笑って、綱吉は言う。
「…え?…あ、ほんとだ。じゃあにいさま、カップの方のお湯も捨ててもらえますか」
砂時計の砂が落ちきったことを教えられたのか、恭弥の頭を撫でていた手を止めて綱吉がまたくるりと体の向きを変える。
言われるままに恭弥がカップのお湯を捨てて、ソーサーと一緒にトレイに並べている間に、綱吉が茶漉しと茶葉の処理をする。
そうしてポットもトレイの上に載せて、綱吉がそれを両手で持つと、恭弥は彼女の両肩にぽん、と手を置いた。
さすがに綱吉がトレイを持っているからか、先程のように背中にべったり張り付く事はしないらしい。
「ごめんね、お待たせ骸」
「いえ」
それでも離れようとしないところは、なんだか背後霊かおんぶお化けみたいだ。




作品名:コールドタイフーン 作家名:新澤やひろ