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コールドタイフーン

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「実を言うとね」
スプーンで濃いオレンジ色の液体をくるくるとかき混ぜながら、彼女は口を開いた。
「にいさま、一昨日から熱が出てるんだ」
「熱、ですか?」
「うん。おまけに喉も結構腫れてて、今朝は全然声が出なかったんだよ。咳と頭痛が出てないだけ、まだマシかなあ」
「ということはつまり、恭弥君はいま風邪を引いている、と?」
尋ねれば、恭弥が小さく頷く。
そういえば今日は普段より、執務室の空調が高めの温度に設定されているような気がする。
「ホントはちゃんとお休みしてないといけないんだけど、今日は草壁さんもいないし、どうしてもやっておきたい仕事があるからって聞いて貰えなくて。だから午前中だけっていう条件付きで、お仕事してるんだ」
「ですが、それと姫君がそこにいるのとは、一体どういう関係が?」
「俺はね、にいさまの湯たんぽ」
しっかり蜂蜜を溶かした紅茶を恭弥に手渡し、綱吉はあっけらかんとして言う。
「…湯たんぽ?」
「うん、湯たんぽ」
予想の斜め上を行った回答に、思わず骸は鸚鵡返しになる。
「…俺、小さい頃はすごく体が弱くて、外で遊んで帰ってくるついでにうっかり病気にかかってたりもしたけど、にいさまから感染されたことだけは一度もなくて。だからにいさまが熱を出したりしたときには、いつも湯たんぽになってたんだ」
猫舌な綱吉は、ミルクと蜂蜜を落とした紅茶をふうふうと冷ましてからくぴりと一口飲んだ。
「感染らなかった、というのは、単なる偶然だったのでは?」
「にいさまって里にいた頃、半年に一度くらいの割合で酷い風邪を引いてたけど、俺その風邪だっていちども感染されたことないよ?」
「……クフフ。懐かしいですね、思い出しましたよ『酷い風邪』。僕も何度かあれを引いて、大変な目に遭いました」
恭弥の引く『酷い風邪』というのは、要は『貰い風邪』をこじらせてしまった状態のものを指すのだが、引いてしまうともれなく頭痛高熱関節痛と喉の腫れプラス酷い咳に襲われる、所謂インフルエンザに近い症状が起きる上に、割と他人への感染力も高かったので、特に子供達の間では自己防衛のために『恭弥君が酷い風邪を引いたら彼の半径3メートル以内に近づかないようにしましょう』という暗黙のルールまでできていたほどだ。
幸い死に至った者は誰もいないが、うっかりその風邪を貰ってしまえば、大人でも三日、子供なら一週間は先に述べた症状によってベッドの住人と化す。
それは巫女姫の神官と守護者という肩書きを加えられた幼馴染み達も例外ではなく、骸は六日間、元気を絵に描いたようなあの武でさえも五日間寝込ませたほどの威力。
そんな『酷い風邪』を体の弱い凪や隼人に感染すわけにはいかず、彼らは寝込んでいた間ずっと、他の子供達どころか見舞いに来てくれた可愛い従妹や幼馴染みとも顔を合わせる事ができなかった。
多分、恭弥が必要以上に群れることを嫌うようになったのも、おそらくこのとんでもない威力の風邪が原因の一つだろう───どれだけ対策を練っていても引いてしまっていたあの風邪に、他人を巻き込まないようにしようとした彼の、試行錯誤の結果。
「恭弥君は『酷い風邪』を引くと、いつもきっちり十日間寝込んでましたよね。…では姫君はその間、恭弥君の『湯たんぽ』になっていた、と?」
「うん」
(あの『ルール』発動の時季は…大抵が、夏真っ盛りと冬真っ盛りの頃でしたね)
───ちなみに今は、紅葉の便りがちらほらと届き始める、秋の時季である。
「…それでね、症状が長引いてるところから考えると、今回もその『酷い風邪』なんじゃないかと思うんだ」
「そうですか。それは災難ですねぇ恭弥君…」
(ああでも、たまに時期が早まったりした事もありましたっけ?僕が恭弥君から『酷い風邪』を感染されていたのは、決まってその早い時期のもので…)
「…って、ちょっと待ってください姫君!」
のほほん、と思い出に浸っていた数秒前の自分を、骸は叱り飛ばしてやりたくなった。
「いま恭弥君があの『酷い風邪』を引いてるってことは、まさか僕にも感染ってしまうんじゃ…」
普通の風邪ならともかく、相手はあの『酷い風邪』なのだ。
自分だけ苦しむならまだしも、骸の傍には体の弱い凪がいるし、万が一千種や犬にまで感染して彼らが倒れてしまったら、黒曜の街を仕切る者が誰もいなくなってしまう。
黒曜には武もいるのだが、彼には未だ書類の整理方法まで教えきっていないし、元来彼は体を動かすことの方が性に合っているので、書類整理などのデスクワークは向いていない。組織の構成員を連れて、街中の巡回を頼むのが関の山だろう。





作品名:コールドタイフーン 作家名:新澤やひろ