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「……××くん」

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 何故かその頃から彼の母親が彼に話かけるようになっていた。帝人はその空気に違和感を感じとっていたが、これは夢であり、口に出せることではなかったので黙ってみているしかなかった。もし、ここで彼と本当にコンタクトがとれないのか、あらゆる手を尽くさなかったのか。模索していればよかったと後悔することになる。現在では、彼とは筆談できることを帝人は知っている。寝る前に手にペンを持っていれば、それで紙に文字を書き込むことができたのだ。
 それは冬の夜に起こった。彼の妹と父親が三人で旅行にいった冬休みのことだった。
 母親が突然彼の部屋に押し入ってきて。それは一方的に彼を犯した。
「今まで愛してあげなくてごめんなさい。私は貴方を愛してたのよ。ずっと、ずっと、愛していたの」
「かあ……さっ、んっ……俺も、愛してる!愛してる!」
 吐きそうだった。こんなのは愛なんかじゃない。性的虐待じゃないか!
 愛を知らなかった彼がこれは愛だと提示されれば泣いて受け取るしかないじゃないか。彼は案の定それを愛だと喜んで受け取った。やっと愛された!俺は愛されることができた!
 その次の朝が悲惨だった。
 彼は、帰ってきた父親に、今までに無いくらいに、殴られた。美しい顔だけはそのままに、それ以外の場所を青くなるくらいに殴られた。彼は痛いよりも先に困惑しているようだった。
 昨日の母親の行動は、言葉は、愛じゃなかったのかと……
 当然だあんなのは愛じゃない。ただの性欲処理だ。美しく育った息子を利用してあの女は性欲処理をしたんだ。なんて気持ちが悪いんだ!
 困惑する彼をみて帝人はどうしても彼と話たくなった。
 今まで無駄だと思って閉ざし続けてきた口を開き、何度も何度も彼に声をかけ続けた。しかし、声はやはり届くことはなかった。そんなある日、勉強をしたまま眠りこけた帝人の手にはボールペンが握られていた。今までになかったことだ。
 いつものように勉強するためにノートを開いていた彼のノートに帝人はペンを滑らせた。
『はじめまして』
 ノートにはボールペンで書き記した言葉が浮かび上がった。
「……なんだ、これ……」
 突然浮かび上がった文字に彼は困惑の声をあげる。
『私は、神様です』
 焦ってとんでもないことを書いてしまった。まさか本当に成功するだなんて思っていなかったから。
「かみさま……?本当に、神様なんですか?」
 予想以上に彼は純粋だったらしく、すんなりと帝人の嘘を信じた。
 今更嘘ですなんて言うわけにもいかず、帝人は『私は貴方だけの神様です』とつづった。貴方だけの神様。なかなか、上手く言ったと思う。
「神様なんて……本当にいたんですね……」
 呆然とする彼は、そのまま、母親のこと、父親のこと、愛とは何かをポツポツと口にした。やはり、彼の中にはそれが残っているのだ。
 猛烈に怒りが湧き上がってきた。
『あんなのは愛じゃない!』
 帝人は荒々しい文字で書きなぐった。
「あれは、あれは愛です!」
 彼も必死だった。どこかで愛ではないのかもしれないと理解していながらも、初めて受け取った愛を突き放すことなんて彼にはできなかった。
『愛じゃない。あれは愛じゃないんだ』
「なら、愛ってなんなんですか?」
 それは……、文字にできなかった。何も浮かんでこなかった。帝人にとって、愛とは当たり前に存在するもので言葉にすることは無い。愛していると言われれば愛なのだろうか……そう一瞬考えたが、それが愛ならあの女のそれも愛になってしまう。
「やっぱり、あれが、愛じゃないですか」
 あれは愛じゃない。それだけは分かっているのに、言い返す言葉がないことがこんなにももどかしい。
「俺は、あのとき初めて愛されたんです……だから、その愛を、否定しないでください」
 彼は泣きそうな、弱弱しい声でそういった。
(僕がここにいて、この人をちゃんと愛してあげることができればよかったのに……そうしたら)
「僕が愛するよ」
 帝人は届かないと分かっていながら言った。
 もう泣きそうだった。
 酷い仕打ちを受ける彼を見ているしかできない自分がずっと許せなかった。
 目覚める度に罪悪感に苛まれ、彼はこの世に存在しないのかと、学校を見て回った。それでも覚えていない顔と一致する者などいるはずもなく結局何もできなかった。
 彼には何もしてあげることができないんだと。そう思っていて、やっと、筆談という手段を見つけたのに、結局。
「僕はずっと、君を見てた。君が何度も何度も殴られるのを見ながら、それでも両親を愛そうとする姿をずっと見てた。僕は、そんな優しい君が、たまらなく愛おしいよ。ねぇ、きっと。これって、愛って、言うんだ。ねぇ、僕は君をちゃんと愛してるよ!僕は君を愛してるんだ!こんなに、近いのに、僕には君がちゃんと見えているのに、なんで、なんで、こんなに、遠いの!神様なんていやしないんだ!僕にずっと君を見せるだけ!僕は無力な人間だと、いつのまにか頭から離れなくなってた君を救うことすらできないんだって、ずっと嘲笑ってばっかりで……僕は、どうしたらいいんだ!」
 涙が止まらなくなった。泣きたいのは彼だってわかってるのに、悲しくて,哀しくて、帝人はその場に蹲って大声で泣いた。
「……なんで、泣いてるんだよ」
「え?」
 頭上から声が降ってきて、頭を上げると真上から、自分を見下ろす彼がいた。
「君は、神様なんだろ?」
「な……んで……」
「さぁね。俺だって知らないよ。僕はずっと見てたなんてストーカー宣言を始めたのは君だろう」
 そこには先ほどまでの今にも崩れそうな彼の姿はなかった。ただ、嬉しそうな笑みを浮かべてずっと、帝人を見下ろしている。
「今の、聞こえて……」
「聞こえてたよ」
 顔から火が出そうだった。帝人は、スクッと立ち上がりなんでもないような顔をしてそっぽを向く。
「今のは、神様の、言葉、だから……」
「なんだよそれ、君が神様って……ないだろっ」
 彼は腹を抱えて笑い出した。今までに彼のそんな姿は一度も見たことがなくて、ただ口をポカンと空けて見つめている他なかった。
「アハハ、おかしいな、君は。本当はさ、いくら愛を知らないからって言って、あの人の行動が愛じゃないことくらい俺だって分かってたよ」
「……そっか」
 笑い終わって、どこか安らかに彼は話始めた。
「でも、愛じゃなかったなんて思いたくないだろう。普通。だからさ、無理矢理信じようと思ったんだ。あの人の言う愛を。でもさ、止めたよ」
 彼はニコリと笑うと帝人としっかりと目を合わせて、吸いつくように帝人の唇に自分の唇を押し当てた。
「……え?」
「君は可愛いなぁ!俺、男を好きになる趣味なんてないんだけど。君ならちゃんと愛せそうだよ」
 彼の言う言葉の意味を理解して、彼の赤い瞳を見つめたまま赤くなってしまう。
 そういえば、今までぼやけていた彼の顔を初めて明確に見た気がする……でも、思っていた通りの、綺麗な顔だ。
「うん。僕も、君を愛するよ」
 気づけばポロリと言葉が漏れていた。
 目の前に真っ赤な瞳が驚愕に見開かれる。
「だって、僕、すごく、君を愛してる気がする。ねぇ、君の名前は?」
「……おりはら いざや」
「僕の名前は――」
作品名:「……××くん」 作家名:mario