バベルタワー
待ちに待った栄口の誕生日は朝からとても晴れていて、それなのに傘を持って歩く自分は誰かにそう言われなくとも滑稽だった。
案の定、栄口はありがとうという言葉と共にすんなりと傘を受け取ってくれたが、この澄み切った青空が美しい日に傘をプレゼントするなんて、余計な荷物が増えるだった。水谷は久しぶりに思い通りになった髪形をくしゃりと掴み、置き傘にして、と付け加えた。部室や傘立てに置きっ放しは少し悲しいけれど、栄口の邪魔になるならそのほうがいい、と思った。
「誰かに盗られたりしたら嫌だから、ちゃんと持って帰るよ」
またそうやって俺を試す。ちりりとひとつまみ、砂を崩す。
そこで水谷は、黄緑色の傘にまつわる自分の妄想をつらつらと吐き出し、勢いに任せ砂をたくさん取ってしまった。若干興奮気味の水谷に、栄口は少し引いたような表情で返事だけつぶやいた。
その素っ気無い態度で水谷はようやく気づかされた。棒がぐらついていたのは自分が一方的に砂をかき集めていたからだと。己の斜面に付け加え、栄口側の砂ですら取り尽くしていたのだ。栄口は最初からこのゲームに参加しておらず、ただ水谷ひとりだけが砂の取り方ひとつで悩んだり焦ったり、そしてそれを恋としていたのだ。
自分の思い込みの激しさに愕然とし、なし崩しに自分の教室へと帰った。