二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
みっふー♪
みっふー♪
novelistID. 21864
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

かぐたんのよせなべ雑炊記

INDEX|12ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

「……、」
しばらく考え込んでいた少年が、鼻を啜って口を開いた。
「……なんか、ちょっとあんまり、全然関係ないっぽい話なんですけど……、」
「話してみて下さい」
にっこり笑って先生が促した。少年は秘密を打ち開けるように話し始めた。
「――ボク……、恥ずかしながら少々ふぁざこんをこじらせてまして……、」
「なるほど、」
先生が相槌を打った。前のめりに少年は続けた。
「それであの、ここんとこちょっと、素性もよくわかんないおじさんに現を抜かしてのぼせあがっていたといいますか、いろんな感情がごっちゃに盛り合わせになってですね……、」
「君くらいの年頃にはよくあることです」
微笑を浮かべて先生が言った。マスターは横を向いて聞こえなかったふりをした。
「……で、それがここに来て急に冷めちゃったっていうか、逆におじさんの様子がヘン?ってゆーか素が出たってゆーか……、」
「具体的にはどう様子が変わったのですか?」
(……。)
――しかし食い付くなー先生も、カウンターの向こうでマスターは思った。
「……、」
少年はクラシカルな銀縁眼鏡を押さえて溜め息をついた。
「前はもっとこう、背中に見えない影背負った感じで、たまに見せる笑顔もフッとニヒルで寂しげで、お酒勧めてもイヤイヤ私は、エンリョしてすみっこでちびちびウーロン茶嘗めてるみたいな、それが突然ある日を境に一升瓶抱えて毎晩ヒャッハー!って、……そっ、そんな人じゃなかったのに、酔うとバンバンきっつい下ネタ絡めてくるし、極めつけだったのが何かの拍子に土下座して頼む踏んでくれ踏んでくれって、そんでかぐらちゃん……あっ、ボクの友達の女のコなんですけど、その子にカンフーシューズで後頭部げしげし踏まれてイヤッフー!って、正直僕もうついていけませんっ……!」
少年はがっくり法被の肩を落とした。
「それはゲンメツしても仕方ありませんね」
一も二もなく先生が言った。
「そのおじさんのことはざっくり忘れて、今はこの写真の彼女がセンターに立てるよう、めいっぱい応援するのがいちばんじゃないでしょうか」
先生は少年の前に写真ホルダーを広げた。
「本当にそれでいいんでしょうか?」
手元の写真と先生を見比べながら、戸惑いがちに少年が訊ねた。
「そんなことくらいでおじさん見限るなんて、ボク、あんまり薄情な気がして……」
「いいんです、君はまだ若いんですから」
先生は勇気付けるように少年の肩をぽんと叩いた。
「若さとは、決して振り返らないことです」
――キリッ!
(……。)
――そのフレーズ、なんかどっかで聞いたことあんなァー……、先生ノリノリだけど、マスターはぼんやり思った。
「……実はボク、あんだけ悩んでたわりに今日の上映会が思いのほか楽しかったもんで」
先生から受け取ったイタ袋を肩に抱えて立ち上がり際、照れ臭そうに少年が言った。
「でも、おじさんだっていい大人なんだし、僕の心変わりもわかってくれますよねっ!」
「……」
先生が力強く頷いた。お辞儀して店を出ていく少年の足取りは、何やら憑き物でも落ちたように軽かった。
「……先生、本当はアイツの気持ちなんかわかってないでしょう」
少年の後ろ姿を見送ってマスターがぼそりと言った。
「えっ?」
先生が振り向いた。マスターは溜め息をついた。
「いーんです、俺は永遠に二番目の男で」
「……拗ねてるんですか?」
マスターを見て先生が笑った。
「そりゃ拗ねたくもなりますよ、」
マスターは肩を竦めた。戸棚の前に踵を返したマスターの背中に、含み笑いで先生が言った、
「おまじないの続き、しますか?」
「へっ」
虚を突かれた間抜け面にマスターが振り向いた。カウンター席に腰掛けた先生の髪が肩先にくすくす揺れる。
「……、」
マスターは短く息を吐いた。カウンターの跳ね上げからフロア側へ出る。椅子に座ってマスターを見上げていた先生が目を閉じた。
「――、」
ごっくん、マスターは喉元の空気の塊を飲み込んだ。先生の白い着物の肩にそっと手を置く……、
「うぇーい! うぇいうぇいうぇいっ!」
――じゃすたぁもめんっ!! カウンター席の奥まった暗がりから、突如上がった制止の声が店内に響いた。マスターはぎょっとした。ライトも差さない末席にひっそりと肩を寄せ合うように陣取った二人(?)連れの客、ひとりは佇まいからあからさまに胡散臭い黒髪ロンゲのにーちゃん、もう一人(?)はゆるキャラの着ぐるみオバケであった。
「いたんですか?」
目を開けた先生がしれっと言った。
「いましたよっ!」
ロンゲのにーちゃんがフンガイしてカウンターを叩いた。はずみで小皿に盛られたピーナッツ(柿ピーのあまりもの)かなんかがごそっとこぼれた。
「つか、描写割愛されてただけで最初からずーっとココにいたじゃないですかっ!」
「……、」
着ぐるみオバケも眉を顰めて頷いた。先生はエヘヘと笑うとコツンと小さく頭をぶつフリをした、
「そーでした、すみませんうっかり失念してました、」
(……。)
――あっるぇ〜? いまいち事情を把握できていないマスターは首を捻った。つか、そんな後付け設定アリなんかいっ! いーからとにかく一回おまじないさせろおまじない(←いい加減連呼すんのも恥ずかしくなってきた)っ!
「……」
――だーもーだから何なんだよチックショぉぉぉぉ!!!!! 天パを掻き毟り、やり場のない怒りを腹に溜めまくる哀れなマスターであった……。


+++++