二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
みっふー♪
みっふー♪
novelistID. 21864
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

かぐたんのよせなべ雑炊記

INDEX|18ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

付録・センセイのてつがくかふぇへようこそ☆+(プラス)After



その日てつがくかふぇは定休日だった。
雇われマスターは、昼前からカウンターの陰に息を潜めていた。
このところ、そう、あの愉快なおさげにーちゃんが店に現れてからだ、先生の様子があからさまにおかしかった。
コソコソ隠れて日に何通も矢文の交換しているし、今日だってほら、わざわざ休みの店の扉を回って表に出ようとしている。
「……先生、」
マスターは屈んでいたカウンターの下から立ち上がった。
「――、」
先生が驚いたようにマスターを見た。自分では気が付いていなかったが、そのときのマスターは迷子センターに預けられた迷子が泣きたいのを必死に堪えて踏ん張っている顔をしていたという。
「どこに行くんですか」
薄暗い店内で、低いトーンにマスターが訊ねた。
「……ぇ、」
先生が明らかに動揺しているのがわかった。マスターはひとつ短い息をついた。
「俺に言えないトコですか、」
いくら気持ちを押さえようとしたところで、どうやったってきつい詰問口調になってしまう、――ダメだ、こんなやり方逆効果でしかないと、頭ではわかりきっているのに。
「……、」
小袖に羽織姿の先生は唇を結んで俯いた。
「……私が信用できないんですか?」
目を上げた先生は、こちらもやっぱり今にも泣き出しそうなのを健気に耐える絶妙の表情に見えたという。(マスター・後談)
「……えっ……、イヤ……、」
今度はマスターがたじろいだ。すかさず裾を捌いて足を進めた先生が、マスターの両手をガバと握り締めた。
「じゃあ、信じてくれますねっ」
「――、」
先生の熱い眼差しと勢いに押されてマスターはつい頷いてしまった、
「……ハイ」
「行ってきますっ」
先生はばびゅんとロケットスタートで店を出て行った。♪カララン、マスターの空っぽの心に扉のベルだけが虚しく響く。
「……」
マスターは厨房の床にがくりと膝をついた。……先生、アナタのやり方はどーしていつもそーわかりやすいんですかっ? そして俺はどーしてこうも律儀に毎度毎度見え透いた同じワナに引っ掛かってしまうんですかァァァ!!!!(こたえ:愛の目隠し。)


+++

出がけの問答で思わぬ時間を食ってしまったが、幸い大遅刻は免れたようだ。待ち合わせた美術館前の石畳に、
「陽ちゃーんっ!」
明るく手を振る詰襟姿のおさげにーちゃんが見えた。飛び級飛び級でのんびり学生気分を楽しむ余裕もなかった先生のこと、この演出にはうっかりキュンときてしまった。先生も小さく手を振り返す。おじさま趣味にかまけて、なるほど自分に欠けていたのはこういう初々しさだったのか、いまさらながらに痛感する。
「すいませ……」
――お待たせしちゃって、小走りに駆け寄り、しかしニコニコ余裕顔のにーちゃんに向けて続くはずだった先生の言葉は、思わぬ光景に途切れてしまった。
「……あっ、こりゃどうも、」
にーちゃんの後ろにうっそりと立っていたマントの大男が、瞬きもせず自分をガン見している先生にぺこりと頭を下げた。――おまはんその体格ならラグビー部でも入っとったら良かったんや、大方の予想を裏切ってこれで美術部OBでした、告白したところで「武術部?」さらに聞き返されること請け合いの、幅広の肩に掛かる無頼のボヘミアン長髪がかえってどっちの雰囲気にも取れるからまた余計ややこしい。
「陽ちゃ……」
――ダスッ! へらへら笑顔で歩み寄ろうとしたにーちゃんを押しのけて先生はつんのめるように前に出た。
「はじめましてっ! ……えっと、」
先生はおさげにーちゃんの方にさっと視線を泳がせた。――えええちょっと待ってなんで? 突き飛ばされて呆然としているにーちゃんの頭に、他己紹介なんて発想が出るはずもなかった。状況を察して美術部OB(以下OBさん)が自ら発言した。
「ああ、申し遅れまして、団長の部下その1です。私ここの年間パス持ってましてね、一緒に入れば同行者の入館料も割引されるからオマエも来い!って、いちおうオフだったんですけど団長命令でね、」
説明セリフを言わされながら、職権乱用も困ったもんです、鷹揚に笑ってOBさんはロンゲを掻いた。
「それは素敵なぐーぜんですねっ」
先生が前髪に隠れた目をキラキラさせながら言った。
「あのさぁ陽ちゃん、中入ったらこいつは別行動で……」
かろうじて持ち直したおさげにーちゃんが二人の間に割り込むと貼り付いた笑顔に言った。が、もはや先生の耳には届いていなかった。
「ぜひご一緒したいですっ」
先生はにーちゃんをスルーしてさらにずずいっと前に出た。
「はぁ……」
OBさんは苦笑いしている。
「……」
棒立ちに俯いたにーちゃんの周囲にどす黒い靄のようなものが立ち込めた。偽りの仮面の笑顔が、ドットを剥がして振り落とされる。
「――あーあー、そーかいそーかい、」
編んだ赤毛を垂らした肩がくっくっと小刻みに震えた。
「……そんなにおっさんが好きなら、そいつとふたりで回ったったらエエねんや、」
――けどな、おさげを跳ねてにーちゃんがキッと顔を上げた。コレだけは言うといたる、嫉妬に燃える菫色の瞳がギラリと鋭い眼光を放つ。
「そいつイガイに見た目より若いぞ!」
――後で吠え面かかんよう、せいぜい気ィつけなはれや! 捨て台詞を残すとおさげにーちゃんは美術館前の石畳通りを脱兎の如く消え去った。
「……」
ぴょんこぴょんこ、跳ねるおさげの後姿を見送って先生が、――やれやれ、諦め顔のOBさんを振り向いた。
「そういやあの子、いくつなんですか?」
「さぁ?」
OBさんが片腕を竦めた。
「ウチの組織、そこらへんあんまこだわらないんでね、互いのプライベートに関してはほぼブラックボックスなんですよ」
「そうですか」
顎に手を当てて先生が頷いた。
「……いやね、外見通り十代ならまぁそういう時期だしねーで済まされますけど、あれでハタチ超えてたらさすがにキツイかなって」
「こりゃ、いきなりフォローしにくいとこズバッと突いてきますなー」
――はっはっは、一本取られましたな、なお鷹揚に笑ってOBさんは返した。
てなカンジですっかり意気投合した二人はそのまま主宰抜きで美術館巡りを楽しみ、じっくり一回りしたあとは併設のオープンかふぇ(ちゃんとしたオサレ空間)でまったりエスプレッソなどをシバきつつアート談義に花を咲かせていたのであった。