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かぐたんのよせなべ雑炊記

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特別寄稿(二)マ夕゛オさんと僕



偶然の再開を果たした僕とマ夕゛オさんの間に流れる空気はぎこちないままだった。三日経ち一週間が経ち、そろそろ十日が過ぎようとしてもそれは変わらなかった。
――しょうがない、なんせ事情が事情だもの、多少時間がかかるのは折り込み済みじゃないか、落ち込みがちの気分を奮い立たせて自分に言い聞かせていたところ、――いんやそういうことじゃない、問題の根幹はもっと他のところにあるのではないか、ネ申楽ちゃんの指摘に僕ははっとした。
ネ申楽ちゃんは僕に質した、――そもそも二人の関係性はどーなってんの、1.なんちゃって疑似親子なの、あるいは2.ク○ントさん的行きずりの男と少年のイッツァスモールパーフェクトワールド・タマシイの交流なの、それとも3.ぱっつんのガチ枯れセン路線なの、
――かっ、枯れてるってのはどうなのかなァ、
傍で聞いていたマ夕゛オさんが若干不満げにグラサンを曇らせた。せめてヒゲ専とかグラ専とかにしといて欲しい、ということらしかった。
(……。)
どっちでも構わないけど、実際僕はどちらでもない。強いて言うなら他の誰でもないマ夕゛オさんせ……、――わぁっ!! いっ、いまっ何を口走ろうとしたんだボクはっ! あくまで流れ上とはいえオソロシイっ!! んもー、第三のセンは削除だ削除、するとまぁまず無難なのは1の疑似親子だよなぁ……年齢的にも辻褄が合うし……、けどなァ、僕はいまいち気が進まなかった。
疑似ファミリーっつってすでにネ申楽ちゃんと銀さんとカブるしそこにマ夕゛オさんってなんかいまさらだし、父さん枠譲って銀さん長男扱いにしたところであんま面白くも発展性もないし、だけど面白さ(?)を追及して母さんが実はオトコだったり血の繋がらない妹に加えて父親が家庭内に二人平然平行同居してたりするフクザツな家庭環境だったりするのは僕はもうウンザリなんだっ、フツウがいいよォ、フツウがいちばん! それに、よく考えると2のセンの方がなんか無条件にカッコいい気がする。
――ヨシ、やっぱ2のセンで行きます!
僕は思い切って宣言した。が、それから先具体的に何をどう詰めていけばいいものやら、さっぱり設定が見えてこない。ま、1にしちゃしたところで、父さん父さんつって肩揉んであげたりお茶入れてあげたり、あげく――父さんなんか鬱陶しいよ! 憎まれ口叩いて家飛び出して黄昏た公園で壊れかけのブランコ漕いでさぁどーする?的な展開で躓いてたとは思うんだけどね。
――じゃあさぁ、もーコーチはコーチの役でイイじゃん、
ネ申楽ちゃんがくきわかめをもむもむしながら言った。この際だからボクシング映画のっかってさァ、立ち食いソバ屋でバイトしながら明日のスーパースターを夢見る少年の栄光と挫折のストーリー、ってコトでさ、
――ちょっと待ってよ、
僕は強引に話をまとめようとしていたネ申楽ちゃんの言葉を遮った、
――立ち食いソバ屋ってそれバイト必要? カウンターとおやっさんとで空間成立してんじゃないの? 裏方でもいいけど、それじゃ画面があんまり地味だよ、
「……。」
ネ申楽ちゃんがメンドくさそうな顔をして僕を見た。フォローしてくれるかと一縷の期待を抱いたマ夕゛オさんは横を向いてグラサンを押さえたままだった。――ええい、ままよ、破れかぶれで僕は叫んだ、
「ボクっ、バイトするならブーランジェリーがいいっ!」
「……。」
二人があんぐり口を開けて僕を見た。無理からぬことだ、地味キャラ極まりないこの僕の口から“ブーランジェリー”なるおよそ似つかわしくない華々しき西洋のエスプリを纏わせた言葉が突如飛び出してきたのであるからして。
「……、」
マ夕゛オさんが片手にクイとグラサンを持ち上げた。もう片方の手で肘を支える例のポジションだ。それから、重々しく口を開く。
「なるほど、ブーランジェリーか。アリかもしれないぞ」
「えー、ソバ屋がいいアル。けんさんだったら間違いなくソバ屋一択アル、」
この際ネ申楽ちゃんが固執する好みはどうだっていい。つーか、僕のことさんざファザコン呼ばわりするわりに、実は自分こそシブい年上好み、おやっさんフェチだったりするのではないかとこの頃僕は睨んでいる。だってぜったいにあやしい、あの膨大なけんさんブロマイドコレクションからは任侠好きというだけでは到底誤魔化しきれない深層の熱を感じる。現役の2.5次元ヲタである僕が言うのだから間違いない。
――すちゃ、僕は眼鏡を掛け直し、心に思い描いたストーリーを述べた。
「僕はブーランジェリーのシェフ(って言うんだろうか)見習い、マ夕゛オさんは宿無しの世捨て人で、僕は毎日、バイト帰りにマ夕゛オさんが座っているベンチの片隅にそっとパンを置いて去るんだ」
「……え」
マ夕゛オさんがやや拍子抜けの表情を浮かべた。いまやグラサンの光沢加減ひとつで、マ夕゛オさんの考えていることが(おおよそ)手に取るようにわかるのだ僕は。
――まぁ聞いて下さいよ、鼻息も荒く僕は続けた。
「……僕は毎日パン屋(ブーランジェリー設定だけどなんかもうどーでもよくなってきた)のおやっさんにどやされてばかり、すっかり自信を失いかけるんだけど、そんなある日、一度も言葉を交わしたことのなかったマ夕゛オさんから不意に話しかけられるんだ」
「えー、そいつパンのお礼も言わないヤツあるか」
妙なところで仁義にうるさいネ申楽ちゃんがブータレた。
「……」
――そりゃあんまりだよ、マ夕゛オさんはいよいよ切なそうな表情を浮かべた。もうちょっとで見せ場ですから、僕も心を鬼にして話を進めた。
「マ夕゛オさんは僕に言うんだ、大丈夫だ、毎日君のパンを食べている私だからわかる、間違いなく君は成長している、おやっさんも君に期待しているからこそキツいことも言うのさ、ってね。それを聞いて僕は……」
「……なーんかベタすぎるアル」
ネ申楽ちゃんが白けた目をして言った。「パンの味なんて作った本人がいちばんわかってるね、もっともらしぶって、そいつ1コも実のあるコト言ってないアル」
「そっそうかい?」「な?」
僕とマ夕゛オさんの反論のトーンは語尾以外タイミングからしてまったく同じだった。僕たちは思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
「……」
ネ申楽ちゃんはくきわかめを口いっぱいに押し込んだ。無言の抵抗ってやつだろうか、目線で譲り合った結果、マ夕゛オさんがエホンと咳払いして、諭すようにネ申楽ちゃんに言った、
「世の中、君みたいに自分の味覚に絶対の自信がある人間ばっかじゃないんだよ、そういうやつは、悲しいけれど、――本当にこの味でいいんだろうか、迷いもするし悩みもする、ときに道を見失って立ち竦みもする」
「……」
――フーン、ごっくん、くきわかめを飲み下してネ申楽ちゃんが頷いた。