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すずきたなか
すずきたなか
novelistID. 3201
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インザスムースエアー

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おいおい来なくてもよかったってな、委員会顧問の先生が言う言葉じゃねえだろ。つられて視線を動かした俺は、そこで凄まじいものを見た。おお、美少年だ。何か凄い綺麗な顔してるぞ。あんな顔が公立共学校にいていいのか?
「あ、いえ……」
「まあいいか、お前今プラス15くらいになっちゃってるからな~」
「…………」
美少年は口下手なのかちょくちょく言い淀んでは口ごもる。この暑いのにボタンを上まで留めてきちんとネクタイまでしている。それでいて汗はかいてないわ髪はさらさらだわ成績は優秀っぽいわ顔はいいわ。世の中には何でも与えられた人間ってのがいるもんだな。俺の学年で見かけた記憶はないので、多分ひとつ下だろう。先輩って雰囲気じゃないし。
俺が目をやっているのに気付いたらしく、美少年は律儀に会釈をしてきた。俺は少しきょどりつつニコニコしてみたりして、隣のイヴァンの裾を引っ張る。お前知ってる?同学年?
「知るか!引っ張んな!」
「ジャン、お前は知ってるだろ。ジュリオは四月の委員会にもきちんと出席したぞ」
イヴァンのコレはただのやっかみで知らないふりをしているだけだ。住む世界が違ってそうだしな。せんせいは会議を始める様子もなくわざわざ教えてくれる。へえそう。そういえばいたような。あの時の記憶はもうほとんどないんだけど、こんな美少年を忘れるくらい物忘れが酷かったかな、俺。
「よっし、二人来ないけど始めるぞ。まずはな、夏休み前の校内風紀の乱れについてだが、これは朝校門前での呼びかけと校内掲示ポスターで……」
「せんせえぇえ~、海行こうぜ海~、せんせいのフェラーリでぇ~」
「え、あんたの車フェラーリ?モデルなに?」
「そんなわけないだろ!話の腰を折るな!」
嘘だァ、俺この前家帰った時見たからね。住宅街に似合わない高級車がお隣りさんに停まってんの。せんせいの両親は高級車に興味なさそうだしせんせいが買ったに決まってるもん。
「へえ、すげえな」
「適当なことを言うなジャン!ルキーノはこう見えて口が軽いからな!変なこと口走った日には大変な目に」
「いやいや、あんたの車が何かなんて興味あんの、同じ教師連中だけだろ。生徒には意味ない情報だよ」
「え、そういうもんなのか?」
えええ、オルトラーニせんせえ、教師が生徒に言い含められて納得しちゃ駄目でしょうに。話がどんどんずれてるのも気付いてないっしょ?俺は記憶の淵から四月の会議を引っ張り出す。なるほど、あの時はせんせいが黙ってたから話がうまいこと進んでいったんだな。
「……ってか車とかどうでもいいだろ、早く進めて終わらせろよ」
「はっ、そうだった、ありがとうイヴァン。当番はここにいるお前らと今日来なかった二人がまず決定で……」
ちっ、余計なことをしやがって。最後まで借りてきた猫状態でいればいいものを。イヴァンは何だかんだでせんせいが好きなんだな。昔遊んだ記憶が残っているのかもしれない。あの頃は年上というだけで物凄く大人に感じたし力があるように思えたし尊敬だって集められた。幼少時の刷り込みは長く続くからな、本人に直す気がなければ余計そうだ。
まあ、いくらイヴァンちゃんがせんせいライクであろうとも、俺はこの時間をこの暑苦しい狭い汚い物置小屋で過ごすのは嫌だった。不毛っぽい会議に費やすのも勘弁だ。ばたりと机に寝そべり、バタバタ足を鳴らす。
「当番ならせんせいの車の中で決めようぜ~海~う~み~死~ぬ」
「ガキかお前。ガキか。いや、アホか」
「そんなけ言わないでも……」
数学教師でなくルキーノに馬鹿にされる。というか呆れられた。降ってくる視線が痛い。
「………………そうか」
随分長い沈黙のあと、せんせいはぽつりと呟いた。今日の授業の時みたいに、その場の全員がせんせいに視線を向ける。眼鏡と長髪が顔にかかって、表情がよく分からない。
「行くぞ」
「どこに」
「海」
ハイ?あんた今マジで言ったわけ?
せんせいはむすっとした顔をしていた。不機嫌そうではあったが真面目だった。





だが。
「軽じゃん!!」
「だからでたらめを言うなと言っただろうが」
「騙された!!」
そう、軽だったのです。妙に張り切るせんせいの後ろに続いて、職員用の駐車場に向かった俺達が見たもの。それは高級車でも何でもない国産の軽自動車だったのだ!お、俺が見たあの車はどこへ行ったんだ…。
「ちなみに中古だぞ。エアコンの効きが微妙」
「乗りたくねえ!!」
陰険眼鏡教師は知りたくもない情報をいちいち喋る。ドアを全部開けて、早く乗れと俺達を促した。これに五人乗るの、無理じゃね?
「……えっと、俺だけご一緒してやるよ、他は、帰れば?」
「ふざけるなジャン。委員会なんだから全員一緒に決まってるだろ。早く乗れ」
バンバン車体を叩く。俺以下、付いてきた奴らは言葉を失って車を見ていたが、意外にも赤毛のせんぱいが先に動く。助手席だ。
「ここ以外座れなさそうだからな」
「おお……せんぱいに国産車似合わなすぎだわ……」
「まあな」
ため息。ルッキーノせんぱいは助手席ですら実に窮屈そうだ。まあ、確かにおっしゃる通り、後ろはわりと細めの俺らですらかなり狭そうではある。俺は美少年に顔を向けて、
「ええっと、君、帰っちゃえば?大丈夫だと思うけど」
と声をかけた。真上からの直射日光を浴びながら平然と立つ美少年はふるふると首を振る。
「いえ……ご一緒、します……」
「マジで?そうか、何かごめんな、俺とあの変な数学教師のせいだから」
「ジャン、マイナス30」
既に運転席に座ったせんせいからそんな声が聞こえる。ほんっとあの陰険眼鏡!自分の悪口に敏感すぎだろ!美少年は再び首を振る。身長も低くない、モデル体型のイケメンだが、首を律儀に振る様子は仔犬のようだ。
じゃあ仕方ない。
「じゃあなイヴァン。また今度」
「なんっで俺がじゃあねなだよ!」
「仕方ねえじゃん三人乗れねえんだもん」
「何でそいつじゃなくて俺を置いてく話になるんだよッ!」
「イヴァンちゃんももうお留守番くらいできる年でしょう?全く仕方のないお子ちゃまねェ」
「だからその口調やめろすんげえ腹立つぶっ殺すぞ!!」
「うるさい馬鹿ども、早く乗れ。ジュリオ以外成績マイナス50付けんぞ」
せんせいの声が低くなる。イヴァンがしゅんと大人しくなり、美少年は最初から大人しく、車の後部座席に向かう。ん~、何か嫌な予感するんだけど。このいっこ下コンビ絶対仲悪いよね?何でか知んないけど絶対険悪だよね?ってことは絶対隣り合っては乗らないよね?つまり俺が真ん中で押し潰される役目ってこと?
……帰らせて下さい。
「狭いきつい暑い肌キモい潰されて死ぬ!!」
「怒鳴るなうるせえ喉に舌詰め込んで死ね!!」
「………………」
無理でした☆
軽自動車に男五人とかほんときっついんですけど。とりあえずここが海に近くてよかった。海岸線には近いので、砂浜に出る程度なら歩いても三十分かからない。車なら十分だ。でもその十分で俺は圧死する。
「っていうかせんせい、運転荒くね?」
「ハハハハハ気のせいじゃないか?」
「いや荒いってじゃなきゃこんなに遠心力かからなげばばばば」
「ハハハハハジャンが何かおかしなこと言ってるなあハハハハハ」