Hey Mr.travellin' Man
取り合えず、具体的なことは先頭車輌にいる人に聞いてくれとのお勧めで、エドワードは機関車車輌の手前まで来ていた。動き回っているのを見られない方が良いというので、わざわざ上から回ってきたのだが。炭水車に降りる前に一瞬考える。
・・・先頭車両にいる人って誰だ。あの口ぶりでは他にも誰か乗り込んでるってことだろうけど。
「おーい、たいしょー」
さっきのアレを考えたら、機関士でもやってるっていうことか?
「大将ってばー」
ああ、外になると途端蒸気機関の音がうるさくて、何か変な呼び声まで聞こえ…
「…トンネル入るからそこじゃ危ないぞー」
「うわわわッ!」
ギリセーフ。
頭のてっぺん、というかアンテナに何か触れたような気がする。というかこれが危ないで済むか!
「よー、お疲れー。何かさっき中尉に聞いたけど、ホントに乗ってきたんだな、お前ら」
入る前に逃げ込んだおかげで、弾かれる事はなかったが。・・・気楽な挨拶の前に、まずこの中から出してくれませんかね、そこのかまたきやってる少尉さん。
「機関助士って言ってくれる?」
どっちでもいいって。つか、機関車は禁煙だよこんちくしょう。
「・・・今日ほんっとサイアク・・・」
大佐に捕まり、脅されついでのただ働き、列車の天井走りの大道芸に炭水車にダイブまでして。
これをサイアクと言わず何という。
「まーまー、これも巡り会わせって事で」
しかし、煤だらけになりながら、がっくりと座り込む小さいののアタマを気軽にぽんぽんと叩きつつ、ハボックはでも正直助かったって、と笑った。
何せブツがブツだ。今まで怪我人は出ていないくらいの威力の爆薬とはいえ、次回もそうだとは限らない。
なのに、もしかしたら標的かもしれない人は現場出るって聞かないし。
「面が割れてるかもしれない大佐がチョロチョロするとややこしい事になるしな」
「・・・それさ、」
さっきからちょっと気になってたんだけど。
まだ多少ダメージが残っているために、機関室の隅っこに蹲ったままのエドワードは、不審そうな表情だ。
「今まで列車事故、つーか爆破のあった列車って、ダミーだったんだよな?」
「そう。大佐がどっか行くときに、適当に大佐の名前で予約入れて、そのうちのどれかに乗る。よくあるカムフラージュだろ」
あの人、お偉いさんの自覚薄いからそれすらしないこともあるんだけど。
「ま、そりゃいいんだけど。仮にさ、本当に大佐狙いなんだったら、何が狙いなのかわからなくて」
「…あー…」
命が狙いなら爆弾の威力が子供騙しだし、身柄を確保したいならわざわざ列車にしなくても、他に手段はままあるように思うのに。
嫌な話だが、テロというのは無差別に市民を巻き込んで脅迫の手段にする、というのが定番な気がするのだ。
なのに何故わざわざそんなとこを。
「十中八九、大佐に恨みがあるだけだろ」
「身も蓋もねーなぁ」
ま、冗談はさておき、とハボックは続けた。
スパ、と指摘してきたエドワードの意見は、これまでの打ち合わせの中でも散々に言われた事でもあるので。
「しかし大佐を拉致りたいなら東部では難しいと思うぞー。チェック厳しいし、あの人はそんな隙を見せるほどサービス精神旺盛じゃないからな」
「…隙だらけに見えんのに反則じゃん」
「そこはオレらも頑張ってるってことで。で、今回の件だが、どーも前回の事件の残党の計画っぽいんだよな」
「前回?」
「ほら、前にお前らが捕まえた奴らがいたろ?」
「トレインジャックで?」
「ああ」
「・・・どれだっけ?」
記憶にございません。
と顔に書いてある。こき、と首を傾げれば、えーとかあーとか言いながら、ハボックも同じ方へ首を傾げた。
「何か名前に色付いてたよーな…」
「あれ?東部なんとか戦線じゃなかったっけ?」
「まぁとりあえずそんな感じの奴なんだが」
「…もしかして名前覚えてないんじゃねーの?」
や、そんな胡乱気な目で見られましても。
「だってお前、東部で活動中・潜伏中要注意なんかの組織数えたらどんだけあると思ってんだよ。それに潰してった奴なんかいちいち覚えてられねーや」
適当かつ微妙にやる気を感じられない言い方だが、言ってる内容はテロリストの皆さんからすれば激昂間違いなしだろう。
「・・・何か少尉、大佐に似てきたんじゃね?」
そういってやれば、火のついていないタバコの先がヘコリと下がった。
「それはマジありえねぇ…!頼むから、んな怖い事言うな。…って、えーと何処まで言ったっけ」
「何とか団とかいう奴の話」
「…そんなん付いたっけ?…ま、いいや。あん時はさ、お前さんがたまたま乗り合わせなけりゃ、あれ結構イイセンいってたと思うわけよ」
軍の高官本人、およびその家族、列車に乗り合わせた乗客、と人質には事欠かない。もし、あの列車が完全に制圧されたままイーストシティの駅に篭られたら、きっと厄介なことになっただろう。それぐらいのオオゴトではあった。
「でもお前さんがいたお陰でイレギュラーが発生しただけだ。現に他の地方だっていつまでもおさまらねぇ。トレインジャックは仕掛ける方も大掛かりになるが、成功する可能性が高いんだ。単純に強盗目的だけなら、どこかで列車止めてさっさとトンズラすりゃいいだけだしな」
お陰で毎度一定期間を置いて、似たような事件があちこちで起こってるし。
だからまた同じことして、今度は対象を大佐に絞ってきたって見方も出来るわけだ。
「ちなみに本人はそれには否定的だけど」
「あ、そうなんだ」
「オレはただ単に外に出にくくなるから嫌がってるんだと思うんだけど」
「ああ・・・」
「ただ、今回のこの一連の事件、大佐はただの誘い水なんじゃないかって言ってた」
「誘い水?」
「適当にいくつか軽い事件起こして、油断してる所にデカイのをボン、て」
「笑えねぇなぁ。だからさっさと自分囮にしておびき出そうって?」
「捕まえなきゃなんねー奴、一杯いるんだよ、この事件にはな」
実行犯、計画犯、背後に何か組織がいるならそれも。そして――――肝心の爆弾魔。
「結構長丁場になりそうだからな。なるべく早く1コづつ潰していかねーと」
「・・・何かさぁ、そうしてるとちゃんと仕事してるみたいに見えるよな」
「・・・そりゃねーだろ、大将・・・」
作品名:Hey Mr.travellin' Man 作家名:みとなんこ@紺