Hey Mr.travellin' Man
「――――ックシ」
凭れ掛かるようにして目を閉じていた男の身体が小さく跳ねた。
寒いのかな、と思ったが、この人もその副官も、そういったことが表情に出ない人たちなので、どうかわからないけれど。
大佐は身体を起こすと首を回して、あくびを一つ。
「ただ待つというのも退屈なものだね」
「何かしていないと気になりますか?」
「いや。…ただ何故かな、こうして揺られていると眠くなるね」
「兄さんも、同じこと言ってました。汽車に乗るとすぐ寝ちゃうんですよ」
「…エドワード君の場合、寝不足もあるんじゃないかしら」
「そうなんですよ、目を離すとすぐ徹夜とかするんです。何とかならないかっていつも思うんですけど」
全然言うこと聞いてくれないんですよね。
「我が道を行くタイプだからな」
アナタがそれを言いますか。
という目で2人は上官を見たのだが、視線を窓の外へ投げていた男は気付いてはくれなかった。
基本的に都合の悪いことは聞いてないフリなのだ、この人も。
そういうところ何か似てるんだよね、なんて。本人たちには決して言えないが。
それから会話が途切れて、何となく車輪の音に耳を澄ましていると、ふと何かが意識の隅に引っ掛かった。
「・・・あれ?」
転輪音に紛れて、聞こえるはずもない音が天井から。何があったのかは知らないが、かすかな足音は前方の機関車車輌に向かっているようだが。
・・・何してんのかな、兄さん。
「――――アルフォンス君」
「え、あ、はい!」
「あとでちょっとお使いを頼むと思うんだが、よろしく頼むよ」
それだけ言って、彼はまた目を閉じてしまった。
中尉もたぶん気付いただろうが、2人ともそ知らぬふりをしている。だったら今はまだいいんだな、と判断して、アルフォンスもまた思考を沈めた。
作品名:Hey Mr.travellin' Man 作家名:みとなんこ@紺