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みとなんこ@紺
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Hey Mr.travellin' Man

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男は懐中時計を取り出し、時間を確認した。
そろそろ、最後の給水ポイントが近付いている。
このポイントを過ぎれば東部を出る。出来れば、それまでに動いて貰いたいものだが。
この列車の何処かに仕掛け人が乗っているのは疑っていなかった。流れはどうあれ、最終的にアレからの情報は違っていた事はない。
この給水ポイントの停車を過ぎれば、次の停車駅までは遠い。一連の事件は何処かに停車してからの30分前後に起こっている。
それぞれの車輌を探っているだろう面々から連絡はない。
伝言でも頼まれたのか、単に目立たないようにと言われたらそれしか思いつかなかったのか、鋼の錬金術師は先程天井伝いに前方車両、ハボックの所へ行っているはずだ。
…しかしもうやってしまった事なので言っても詮無い事だろうが。目立つ真似はするな、と危ない事をするな、の両立は出来ないのか、あの子供は。
溜め息を付きたくなる心境は同じなのか、アルフォンスは小声ですいませんと小さな息を付く。…もう諦めていると言ったのはこちらではあるのだが、今度君がちゃんと言っておいてくれ、と鎧の膝をポンと叩いた。

コツ、と注意を喚起する音がする。
見れば、また一人、荷物を持ったまま席を立つ男が。
残留物から、ものは恐らく辞典くらいの大きさだと割れている。時計を使った簡単な時限式の装置が取り付けられている事も。持ち運びは恐らくトランクだろう。そんな大きさのものを持ち歩いて不自然でない旅行者は限られる。
ただし、商人の一人旅ともなれば、大事な商売のネタが詰まっているだろうトランクは手放せない。先程から用足しにでも立っている面々は必ず片手に荷物を持っている。
そうなるとダミーが大量にあるようなもので。
「…あの」
「ん?」
「マークしてる人、とかはいるんですよね?」
空洞に響く声を気にしてか、途中からあまり口を開かなかったアルフォンスは、橋を渡る音に紛れてそっと問い掛けてきた。
「おおよそは」
「決め手って何ですか?」

「顔かな」

「・・・・・・。」
そんな複雑そうな目で見られても。
最近、アルフォンスの鎧の面でも、何となく考えていることがわかるようになってきたように思う。
微妙に不審そうな彼に、何か企んでいる者は、多かれ少なかれ不要な緊張感を纏っているものだよ、と告げれば、今度は素直になるほどと頷いた。
だが正直な所、そうして数人の目星は付けてはいるが、それぞれ似たような動きをしている。定期的に通りすがりにメモを落として報告してくるのを見れば、他の車輌でも同じようなものらしい。
適度に怪しい者数名有り。
…これは、次のポイントでおかしな動きをみせる者を抑えるしかないようだ。
そうこうしているうちにあと15分足らず。・・・さてどうするか。


「あら」


背後の方で、年配の女性の声がした。

「探し物は見つかりまして?」
「えっ…あ、大丈夫でしたよ、マダム。気にかけていただいてありがとうございます」
「それは良かった。…随分焦っておられたようだから、大事なものなのでしょう?」
「…ええ、まぁ…」


背後の会話に耳を澄ましていると、ホークアイが席を立った。
会話を交わしている2人の側を一旦通り抜け、何か思い出した事があるように、足早に戻ってくる。

「・・・乗車時に2つ持っていたはずのトランクが片方ありません」

ハンドバックを手に取りながら、そっとそれだけ耳打ちしてまた車輌の前へと向かう。


「あらご免なさいね。お邪魔になってしまうわ」
「いいえ。…揺れますのでお気を付けて」
「ありがとう」


それでは、と女性は座席を支えにしながら、後部車輌へ向かおうとしている。
次は、すっと男が席を立った。
先に扉を開け、彼女へさり気なく手を伸べて。

「まぁ。ありがとう、親切な方ね」
「危ないですよ。よろしければお送りしましょう。どちらの車輌まで?」

余所行き顔でニコリと微笑む男に、女性はすっかりご機嫌だ。
最後に視線を交わした男に、アルフォンスは僅かに頷いて見せた。
やがて、しばらくしてホークアイが席に戻ってきた。
「さっきの、女の人を送っていきました」
「そう」
目線で問われた事に短く答える。
やがて戻ってきた男は、席に戻ると「定刻通り、ポイントに到着するようだよ」と告げた。
短い会話の中に含みを持たせているが、表面上は何も変わりなく。
だが、事は水面下で動いている。…アルフォンスにとっては、長い10分のように感じられた。




作品名:Hey Mr.travellin' Man 作家名:みとなんこ@紺