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みとなんこ@紺
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Hey Mr.travellin' Man

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そもそもの始まりは何だったかと言えば、ほんの数刻前に戻る。

東部にほど近い片田舎に隠居する好事家がコレクションしていると噂の、貴重な資料を見せて貰った帰りの話だ。
思っていた方向とは違う物ではあったけれど、噂で流れるほどの貴重な資料と言うだけあって、面白い目線で書かれたそれは満足する物ではあった。
そしてその中から拾い上げた事を、中央図書館で纏めていこうという話の流れになったのが始まりだ。
小さな駅ではあったけれど分岐の中継地になっていたことが幸いして、数時間後の中央行きの特別急行を捕まえるまでは順風満帆。ここまで良かったはず。


その後、乗り込んだ車輌で、いきなり見知った顔にさえ出会わなければ。


空いてるかなー、と乗り込んだ車輌で。いきなり傍らの座席に座った男から「やぁ」とか何とか胡散臭い笑顔に出迎えられるなどと誰が思うか。いや思うまい。
カク、と顎が落ちたような気がして固まったその隙に肩を押して前の座席に座らされ、続いて入ってきた弟も、固まっている隙に手を引いてちゃっかり自分の横に座らせてしまった。
そうして一瞬の間を生かした男は、ご自分の手並みにご満悦のようだ。普段より3割増しに(胡散臭い)笑顔を振りまきながらうんうんとか頷いている。むかつく。
「よくよく縁があるということだな」
「ありえねー…」
せめて対岸辺りにいたのなら、気付いた瞬間そ知らぬ顔して他の車輌に移ったのに。何だ、真横って。

何の呪いだ。

いっそ窓に懐いてしまいたいが、そうなれば腹立つ上官とは対面だ。それは断固拒否の姿勢で、ぶつぶつと内心の文句を廊下へ向けて呟いている兄とは対照的に、そうそうに切り替えたらしい弟と隣り合った男は何やらにこやかに語らっている。

…のが、余計腹立つ。





そうしてしばしの沈黙に耐えられなかった兄とその上官が冒頭の攻防を繰り広げた後。エドワードは口に突っ込まれたオレンジを手慰みにしつつ、まだどんどろした声音で低く問い掛けた。
「…てか、何でこんなとこにいんの」
根城から離れて汽車に一人。しかもダークカラーのスーツなんて私服で。
ついでに髪型も分け目変えて後ろに軽く流してるし、オマケに眼鏡なんて掛けちゃってるけど。
・・・もしかしたら先に声を掛けられなければ、気が付かずに素通りできたかもしれないくらいには、雰囲気を変えている。
「休暇ですか?」
「だったら良かったんだけどね」
残念ながら仕事でね、と肩を竦めるのは改めて何度見なおしても、東部にいるはずの馴染みの上官だ。
見慣れた軍服ではなく、仕立てのいいスーツの私服姿なぞついぞ拝んだ事はなく、おかげでやはりよく似た他人のように見えるのだが。
その何か問いたげな視線をどう解釈したのかは知らないが、別に聞いてもいないのに男はぴらりと服の端を持って振ってみせた。
「コンセプトは青年実業家と秘書だ」
「聞いてないし。てか、秘書いねーじゃん」
「女性が席を立つ理由を尋ねるのはデリカシーがないって嫌われるよ」
「…ってことは…」
「いつもの呼び方はNGだ」
返された答えで、自ずと同行者の存在を告げる。しかし、相変わらずの人をくったような言い回しでさらりと釘を刺してくるその声は、多少潜められていた。
もしかして何かの任務の一環か。
微妙に嫌な予感がして、エドワードは眉を潜めた。
…そういえば以前も一度汽車で鉢合わせた事があったが、その時も私服だったはずだ。確かあの時はハボック少尉と一緒で。その時は、移動中、軍人だと判ると色々面倒だからとか言っていたような気がする。
ということは今回も同じようなものだろう。
確かに、軍は一般層にはあまり良い感情を持たれていないケースの方が多いのが事実なので、下手に神経を逆なでしない方がいいという事だったが。
・・・どちらかというと、この男の場合はその方が身軽に動けるから、の方に比重が偏っているような気がしないでもない。まぁでも今回は、お目付けの視線が桁違いに厳しいだろうから、下手な脱線は無理だろうけど。
言っているようにかの副官の女性が付いてきているのなら、この男に対する最強のカードとなるから、多少つっこんでみたって無茶な返しはしてこないハズ。
そう思えばちょっと楽しくなってきた。
「またやろうか?『お父さーん』て」
「・・・本気で夢に見そうだからやめてくれ」
「そっちのがひでぇ言い草じゃん。やっぱり心当たりでもあんのかよ」
「だからそこで何故"やっぱり"なんだ…」
ニヒヒとやらしい笑い方をしてそう言ってやれば、男は本気で嫌そうな顔をしたので、それでちょっとだけ気分が浮上した。
ふー、と大きく息をつく男の表情を見れば、やはりこのネタは(主に東方司令部の面々の間で)どっか別の方向へ派生していたらしい。
「『あの「間」はすっげ不自然だったんだぜ。ありゃ前に似たような事あったんじゃねぇかってオレは睨んでんだけどよ』って少尉が」
「・・・・・・。」
男は無言で微妙に俯いた。
どうやら前回のアレは立派にNGワードとして根付いているようだった。色んな物を押し込めて身を切った甲斐があったと言う事だ。
ザマミロである。
ちょっと少尉にはバラしちゃって悪い事したかなーとも思ったが、まぁ中央へ向かうなら、東部に戻るのは何日か先になるだろうから、その間にお怒りは解けるだろうし。多分。あとは、俯いてしまったお陰で微妙に表情が窺えない所と、汽車の走る音に紛れて何か言ってるような気がしないでもない所が気になるが、取り合えず気にしない方向で。
「まーそりゃオレ関係ないし、そこはいーけどさ。何かあったらどうやって呼べって?偽名?」
1本取ったのをよしとして、エドワードはあっさりと引く。これ以上つつけば、大人げない大人から無駄な反撃を喰らいかねないので。
逸れかけていた話題を元の路線に戻すと、男は微妙にふてた体勢のまま、「エリザベス、だよ」と呟いた。
「は?」
・・・・・・。
え、あんたが?
と危うく聞きかける前に、男は視線で今は空席になっている、自分の前の席を示した。
「彼女は秘書のエリザベスだよ」
「あ」
そろそろ戻ってくると思うが、と促されて振り返ったのと同じタイミングで、カラリと背後の扉を引く音がした。
「あら」
そちらに目を向ければ、連結部の扉から顔を出して一瞬の間のあと笑みを浮かべたのは、やはり見知った女性で。
「お久し振り。エドワード君、アルフォンス君」
「ご無沙汰してます、えぇと、エリザベス、さん?」
奥へと身体をずらして通り道を譲ると、アルフォンスは小首を傾げながら挨拶を返す。律儀に示された偽名、というかこの場合コードネーム?で呼んでみるが…。
「・・・なんか変な感じ」
慣れない呼び方に物凄い違和感を感じるが、それは呼ばれている方も同じらしい。そう呼ばれた事で現在の状況を、兄弟が多少なりとも掴んでいると判断したらしい。ホークアイは僅かに苦笑を浮かべて、ごめんなさいね、と小声で答えた。
「今はこればかりはどうしようもなくて」
「ああ、うん。それは判ってるんだけど…」
作品名:Hey Mr.travellin' Man 作家名:みとなんこ@紺