Hey Mr.travellin' Man
「――――君たちはこのままセントラルに?」
気を取り直したらしい男は手帳を取り出して何かを書き連ねながら、あたり障りないネタを振ってくる。
「ああ、うん。資料のつき合わせに中央図書館に」
そうか、と短く返したきりペンを走らせ続ける男に、現状を逆に問い返そうとした時、そっと横合いから伸びてきた手にポン、と膝を叩かれた。
「エイヴォンの町はどうだった?」
「え?」
先ほどまでいた中継地の駅の名だ。
別にそこに滞在していたわけではない事を彼女も判っているはずだが、ここであえてその話をふってきたのは、ここでは出してはならないワケでもあるんだろう。傍らの男は顔を上げない。このまま続けろと言う事だろう。取りあえず、兄弟は一瞬互いに視線を交わしあった。
「そーだなー、久し振りに寄ったけどやっぱりあんまり変わってなかったな」
「そうだね。あとブドウが今年は豊作だって言ってたよ」
「あの辺りは良いワインが出来るんだ。何か買ってきて貰えば良かった」
「…エドワード君だと売ってもらえないかも知れないわね」
まぁ一応どっから見ても未成年ですから。(決して小さいからってわけでなく!)それでも買ってこいというなら、おとーさんのお土産に、言いふらし作戦決行だ。
口元を笑いの形に歪ませたエドワードが、何を言いたいかピンときたのだろう、そこで手帳から視線を上げた男は『それ以上言うな』と視線で先を止めてくる。残念。
「…エイヴォンには昔行った事があるんだ。駅の側のパン屋はまだあったかな」
手を止めた男が、新たに話の流れを変えながらも、手帳を兄弟に見えるようにくるりとひっくり返す。
汽車の揺れの為に、普段より少し乱れた字が綴る最初の一文を目で追って、エドワードはほんの少し眉を上げた。
『 』
視線に僅かに鋭さが増す。アルフォンスも少し緊張したのが伝わってきた。
それでもそ知らぬ顔をして他愛のない会話を続ける。
「・・・あそこかな、通りに面した道の角にあったとこ」
「ああ…、今日の朝にベーグルそこで買ったよね」
「あそこは挟んであるチーズが良いね」
手を差し出して男から手帳を受け取ると、自分の万年筆を抜いてその下に短く問いを記す。
視線を落とさないようにするために、ただでさえ読みにくいとこの男に不評な字が、更に躍っているのが感覚で分かるが、ま、意味は拾えるだろう。
さりげにエドワードの問いに視線を落とした男は、何か考えているようだが大人しく答えを待った。
「エリザベスさん…たちは何処まで行くんですか?」
「セントラルの手前のバーレイまで。商談でね」
「降りた事ないなぁ、大きな街なんですか?」
「最近私設の劇場が出来たとか、色々賑わっている街よ。近くに織物の産地があるの」
「折角の華やかな街なのに色気のない事で、私としては非常に残念なんだが」
「早く片付けて戻らなければ、明後日提出の資料の処理が間に合いませんし。大事な会議があると申し上げませんでしたか?」
・・・何か中尉、そこ、素に戻ってるっぽい。
華やかに微笑む彼女を残した残り3名の、胸中の感想は同じだった。
片やスパーンと返された一言に心当たりがあるのか、悪くなった旗色をどうやってそらそうか、とその中の約1名が考えているのが傍目でも判る。
「…結局中にいても外出てても同じなんだな」
「失礼な事言うね、君は」
でも微妙に否定しない辺りが痛いトコなんだろう。自業自得だ。
作品名:Hey Mr.travellin' Man 作家名:みとなんこ@紺