二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
みとなんこ@紺
みとなんこ@紺
novelistID. 6351
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

Hey Mr.travellin' Man

INDEX|5ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 





「――――切符を拝見いたします」




またしても逸れかけた話を戻そうとした矢先、前の扉が開き、車中に静かに響いた声に揃って口を噤んで中断した。
検札だ。先程の駅から乗ってきたのは自分たちを含めても結構いたらしい。途端ごそごそとあちこちで切符を探す音が聞こえてくる。
丁度車内に面した方を向いている為、エドワードはぐるりと車内を見渡した。
そういえば乗り込んだ瞬間から、アホな攻防を繰り返していたため、碌に状況の把握もしていない。
男に手帳で示されたのは、非常にメンドウな事実だったし、見るだけ見ておこうと様子を窺った。
この車輌内には、家族連れが4組、隣り合った席に座る男女が2組、新聞を広げて懐中時計で時間を確認している身なりの良い男。他にも数人、そんな商談に携わっているんだろうと思しき男たちがいれば、酒をかっくらって早々に横になっているような労働者風の者もいる。
他にも静かに本を読む妙齢の女性の一人旅や、他にも眠りこけている老人夫婦など、この中にはおよそ30人くらいの人間がいることになるだろうか。
まだ走り出して間もないからか、子供達ははしゃぎまわって座席にじっとしていない。追い掛けあってでもいるのか、相手を呼ぶ声と、それを窘める親の声もはっきり聞こえる。
汽車の立てる音に紛れないよう無意識に声が大きくなるのも関係しているだろうが、特に集中して聞いていれば、潜めた声はまだしも、普通に話す声なら結構届く事に気付いた。満席にはほど遠い車内だからか、余計声は拾えるものだった。
・・・さっきまでのやり取り、も聞こえていたかもしれない。
そう思えば、さすがにもうちょっと大人しくしていよう、という気になった。

通路の端から一つ一つ丁寧に切符を確認している制帽を被った車掌が近付いてくる。
そろそろ切符を出さないと、とコートのポケットに無造作に突っ込んだはずのチケットを探していると、目の前の弟からはい、とサーブされてきた。
「…渡してたっけ?」
「ていうか駅の改札抜けた後、落としたんだよ。ポケットから」

・・・アレ?

「無賃乗車は感心しないな」
「未遂だ、未遂!」
ホントもうこの弟は、あえてこんな(向こうにとって)絶好の場面で出さなくても!
「…失礼致します」
更に言い募ろうとした矢先、絶妙なタイミングで車掌が割り込んできた。切符を、との横合いからの声に、慌ててすいません、と振り返った瞬間。
相手の顔を見て固まった。
危うく、何してんの、と素でツッコンでしまいそうになった所を、傍らから飛んできた咳払いにはたと我に返り、喉まで出掛かった一言を飲み込んで切手を差し出す。
「次の停車駅はルータムです。バーレイには20時15分、セントラルには22時到着予定です」
手渡した切符をごく自然に受け取り、停車駅の案内をしながら改札鋏を入れて返してくれる様はまんまホンモノの車掌さん、なのだが。
…すっごく見覚えある人なんだけど。
男を振り返って、じーっともの問いたげに見てくる目から気を煽らして、素知らぬふりして努めてにこやかに問い返している。
「給水停車はあるのかな?」
「およそ2時間後に、一旦ポイントで給水いたします。一時停止しますが、乗降駅ではありませんので、そのまま車内で待機をお願いします」
何処かで見たような人は淀みなく答え、それに返す方もそうかね、とさらりと流し。ホント、何の芝居だ。
車掌は扉に手を掛けた所で、そうでした、と振り返った。
「定期的に巡回はしていますが、もし何かありましたら、最後尾の車輌に車掌室がありますのでそちらまでご連絡下さい」
「ああ、ありがとう」
それでは、と車内にも一礼して車掌さんは後ろの車輌に向かったようだが。



まだ手元にあった手帳をふんだくると、それまでのやり取りの下にどういう事だよコレは!とデカデカと書き付けた。
感情のままにのたくったその文字をしばし見下ろしていた男は、やがてニヤリと笑って車掌が消えた扉を指し示した。
「…何だよ?」
男は笑顔のままに手帳を受け取り、再び万年筆のキャップを抜いた。
「働かざる者、だよ。書庫の閲覧許可証が欲しかったらその分手伝いたまえ」
何だそりゃ。
「ちょっと待てよ、あんたなぁ…!」
確かにこれまでも作戦中だか何だかに行き合って、なし崩しに協力をせざるを得ない事はあったけれど、基本的にそれはそうせざるを得ない状況下にあったからだ。そういった事件のほとんどは、表沙汰にしづらい、つまりはそのままの事を中央へは報告できないような件だっていくつもあった。
そんな時には、エルリック兄弟が介入したということは極力伏せられ、誤魔化しようのない時には偶然行き合った末の共同作戦であると、東方司令部で適当に事を改変して、中央へ報告している事だってあった。
今回に関して言えば、そう切羽詰まった状況でもないようだし(この上司がのうのうと構えている辺りからするただの推測だが)、ただお手並み拝見、と高みの見物を決め込むつもりだったのに。
「オレらは関係ねーだろ!」
「まぁ確かに正式な要請ではないが。君が動いてくれると大変助かるね」

・・・ええと。

いや、こんなあからさまなおだてに黙らされてる場合じゃない。しっかりオレ。
「中央に着いたらすぐ図書館行きたいんだって。また調書だ何だって時間取られるのはごめんだ」
「いつものように最低限で済むよう、取り計らわせて貰うよ。何、さっさと進めればほんの数時間の話だ。中央に着くまでには終わってるよ」
「そこまで手順捏ねてんだったら、オレらの手はいらねぇだろ!?」
往生際悪くブチブチと言い募れば、彼は一旦引くように姿勢を変えると、ポソリと低く呟いた。

「――――先日、グノーヒルに住む昔の友人から手紙が来たんだが」
ピク。
「東からひょっこりやってきて街の治水に協力してくれた錬金術師たちにお礼がしたいので探してくれないか、とね」
ピクピク。


「この間提出された報告書では、その街の名はなかったように思うが?」


「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
ついー、と。子供の視線が泳いだ。
――――一勝。

「ああ、それから。そちらが片付いたら一度東部に戻ってきたまえ」
「…何でだよ。別にそれこそ用事ねぇだろ。それより…!」
黙り込んだのを良い事に、上機嫌で用意していたもう一つの手の為の布陣を打てば、響くように噛み付いてくる。
あからさまに逸れた話に不機嫌そうにそう返してくる子供に向けて、男はにっこりとまた嫌な感じの笑みを浮かべて手帳をひっくり返す。罠は一つや二つではないのだ。
そこには記された単語に、エドワードは目を瞠った。


クレマーの『神学論』全6巻


「――――来週、特別書庫に追加予定。どうかな?」

って、ちょっと待て。
「それ、3巻と5巻は西の街で読んだんですけど、全部揃ってるんですか!?」
止める間もなく食いついた弟へ向けて、黒髪の上官は実ににこやかな笑みを向ける。
「揃えたよ。あれは続きでないと意味がないからね」
「うわぁ・・・!」
「うわあ・・・」
前者は期待に満ち満ちた高さで、後者は地を這うような絶望的な低さで。
作品名:Hey Mr.travellin' Man 作家名:みとなんこ@紺