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みとなんこ@紺
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Hey Mr.travellin' Man

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一瞬の逡巡の後、コン、と一つノック。
辺りに人影はない。誰か来れば、取りあえず何か尋ねに来た子供でも演じればいいか、と開き直ってエドワードは車掌室と書かれた扉の前で待った。
「おや、エドワード君でしたか」
「ファルマン准尉」
顔を出したのは、先程素知らぬふりをしていた車掌で。だが、どこからどう見ても車掌!という格好の人は、今度は至極あっさりと名を呼んできた。
「中尉が来られるかと思ったんですが」
「何か大佐が行けって」
「そうでしたか。まぁ…災難でしたね」
「そこはもー諦めた…。しっかし准尉・・・似合うよね」
今度は遠慮なくまじまじと見てしまってから感想を述べれば、実は、と彼は少しばかり声を潜めて続けた。
「子供の頃、長距離列車の車掌になるのが夢だったんですよ」
そう言ってファルマンは笑った。

このままで、と言われて頷く。連結部に近い所にある車掌室は、車内にいるよりも雑音が大きく、それに紛れて声が聞こえ辛かったが、もし誰か近付いても、逆に話を聞かれる心配も少ないので都合が良い。
「大佐から聞きましたか」
す、と切り替えて短く問うてくる。エドワードはゆっくりと頷いた。
「断片的には。――――『爆弾魔を追っている』って」



「どこまで聞きました?」
「この列車にその爆弾魔が潜んでるとか何とか。同一犯の可能性が高い事と、爆発物の種類・仕掛けられてる手口とかその辺。あと、大佐達は客のフリして警戒してるって」
先程、大佐によって手帳に記された一文は、普通なら結構衝撃的なものだったハズなのだが。
そこは軍部の面々とは違う方向とはいえいくつもの修羅場をくぐり抜けてきたという自負があるため、変に動揺とかはなかった。というか寧ろ、トレインジャックや強盗やテロもどき、不正取引現場など、種種様々な厄介事に巻き込まれた経験のある身としては、またか、みたいなものだった。慣れとは嫌なものである。
「テロとはまた違う感じなので、あまり大掛かりに取り組めないんですよ」
「…オレたち結構この近く通ってたけど、そんな噂聞かなかったぜ」
「運営側の思惑でしょう。それと、犠牲者が出ていないからだと思います。主に破壊・破損の対象は列車や器物そのものなんです」
「・・・どういうこと?」
「連結されていた輸送用の貨物車輌など、爆破された箇所は人には直接害のない所でして。しかも威力はその車輌の一カ所だけを破壊するくらいに抑えられています。なので、列車自体は長時間の停止を迫られるんですが、爆発で犠牲になった人はいないんですよ。・・・表向きにはまだ、という注釈は着きますが」
「・・・誰か?」
「先日の爆破で、たまたま通路を通りがかった機関助士が危うく車外へ飛ばされる所だったそうです。怪我はしましたが、命に別状はないと」
「・・・そりゃ、よかったけど。だったら、何かただの嫌がらせっぽいよな…」
そうですね、と同意を返して、それでも事はそんなに楽観視できる事でもないという事のようだ。
その無事だった人は、単に運が良かっただけだ。次に同じ事があった時、無事であるという保障はない。
ファルマンは手にしていた時刻表を捲り、路線図のページを開いた。取り出したペンで4箇所に印を付けていく。
「始まったのは丁度2ヶ月前から。主に東部を経由する急行以上の長距離列車が狙われています。ただ、上り・下りの方向、運行時刻、始発駅、終着駅等に統一性はありません」
トン、と印を付けた順に日にちと路線名を告げていく。ざっと聞くだに確かに共通点はないような気はするが。
「ですが、毎回同じ系統の時限式の仕掛けであるらしいこと、同じ種類の混合火薬が使われることは確かです」
「だから出所が一緒の可能性が高いってわけだ」
「一般に使われる火薬ではありませんからね。ですが、ある種これが決め手になりました」
少し変わった口振りから、何か他に事態が変わるような事があったのが判る。視線で先を促せば、ファルマンは路線図上にある一点を示した。駅の名は『バーレイ』
「ここ…」
「3日前、この街の銀行で盗難騒ぎがありました」
「盗難?」
「大胆な連中でしてね。この銀行には大きな金庫があるんですが、運び込んだ後に床と溶接されていて、容易には動かせないんです。忍び込んだ連中は、その金庫の扉の隙間に爆発物を仕掛けて…ボン、と」
またそんな乱暴な。
一歩威力を間違えれば、中身は全滅するというのに良くやったものだ。
呆れたような表情を浮かべたエドワードに、ファルマンは苦笑に紛らわして笑った。この話を聞いた時の反応があまりにも自分の上司そっくりだったので。
「・・・まぁ、流石にそんな派手にやればすぐバレますからね。それで扉を壊して紙幣を持ちだすのかと思えば、容疑者たちは金塊だけを持って逃げました。盗難にあったのは3本の金塊です」
「3本だけなんだ?」
「およそ時価2億センズ相当ですよ」
何か飲んでいたら噴いていた所だ。それを持って逃げおおせたら非常に効率の良い強盗だろう。逃げました、というからにはまだ捕まっていないという事だろうが…。
「そして、その金庫の扉を爆破したものと、列車爆破に使われたものが一致しました」
「だから軍が本腰入れるようになった、ってことか…」
害があって初めて動く、という軍の体制を鑑みれば判る事だが、犠牲が出てからでは遅すぎる。それでも、軍が動いて下手に不安な感情を振りまいても良い事はないというのも判る分、…ちょっとばかり複雑だ。
今回は誰も犠牲にならなくても、明日は判らない。
もう起こってしまった事件の犠牲者にとっては、そんな事件も事故も『未然』という単語はないのだから。
「中央がこれで漸く動く気になりまして、東部にも協力要請が来ました。我々はそれ以前より列車の爆破について追っていましたので、その路線上で行き合ったんです」
「でもさ、何か事件に共通してる感じがない気がするんだけど。他にも何かあったわけ?」
「こちらも同じ事を考えましてね。大佐はその混合火薬の精製者=爆弾制作者ですが、同一人物だと見ています」
「まぁそうだろうな」
「ですが、一連の事件には直接関わっていないだろうと」
「え?」
「各案件にあまりに共通項が少ないこと、手口も何もすべて似たところはありません。まぁ感触に過ぎないのですが、現場サイドでも十中八九、別のグループもしくは犯人だろうという見解です。なので、ボヤ騒ぎから何から、小さな事でもいいので掘り返してみたんですが、この混合火薬が使われた事件は以前にもあったんです」
数年前に中央で続いた連続発破事件。
街の何処かで小規模の発破が起こされるというもので、同じく怪我人はなし。捜査の途中でその発破自体がいつしかなくなったので、途中で宙に浮かんだままにされていたものだが。
「それと火薬が一致した…?」
「改良されているようですが大凡の組成は」
「…でもさ、それって今回のにどう繋がるわけ?」
「当時の資料を当たって貰ったんですが、どうやら中央は一人の人物に目を付けていたようで」
「容疑者ってワケじゃなく?」
作品名:Hey Mr.travellin' Man 作家名:みとなんこ@紺