こらぼでほすと 襲撃5
「それなら、軌道エレベーター経由で降りて来い。それまでに、俺が話をつけておく。ティエリア、俺は、これからエクシアで降下して、しばらく地球を放浪する。世界の変革を、この目で確かめてくるから、組織からの指示には従えない。そのつもりでいろ。」
新しい地球連合は、どんなふうに平和になったのか、それを確かめたい。それには、いちいち、組織からの指示に従っていられない。一端、組織は離れたほうがいいだろうという判断だ。
「おまえは、何を言い出したんだ? 」
「元々、考えていたことだ。ロックオンからも、そう勧められた。組織も、一応、修理は一段落しているし、俺にはできることはない。」
おまえまで、と、ティエリアの顔は表情を作り出している。それが、とても嬉しいと刹那は、ちょっと頬を歪めた。気持ちを向け合える関係になったから、そんな表情ができるのだ。
「ティエリア、緊急通信には答える。それから、急がない連絡は、ロックオンのところへ預けておけ。あそこには定期的に顔を出す。・・・・おまえも、降りて顔を見せてやれ。そうでないと心配する。」
永久の別れじゃない。逢いたいなら逢いに行けばいい。アレルヤのことは、今のところ、どうなるかわからないが、ロックオンは、そこに居るのだ。必ず、そこで待っているのだから、逢えないわけではない。
「刹那、本気なんだな? 」
「俺は冗談は言わない。フェルト、準備して降りて来い。俺は行く。」
フェルトのほうも、刹那の指示に素直に走り出している。逢いたいという気持ちが大きいのだろう。スメラギは口を挟むつもりはないのか、黙って成り行きを見守っている。刹那は、部屋から出る前に、一度、振り向いて、「行ってくる。」 と、ティエリアに声をかけた。
「俺が、『いってらっしゃい』なんて言うと思うのか? 」
「留守を任すという意味だ。」
信頼の絆があればこそのことだ。だから、ティエリアもしょうがないと笑った。それを見て、刹那も笑って出て行く。
「いいんですね? スメラギ・李・ノリエガ。」
何も口を挟まない実行部隊のリーダーにティエリアも、一応、尋ねる。エクシアの発進シークエンスまでの間なら止められる。
「止める必要はないでしょう? ロックオンが、そう言ったのなら、刹那は、それに従うし、エクシアは刹那の機体なんだから。」
実質、マイスター組を仕切っているのは、やはり、ロックオンなわけで、それについてはスメラギも口出しできない。アレルヤロストに関しても、もう急いで、どうにかなるものではない。引き続き、王留美に捜索はさせるし、こちらのシステムが整えば、探せることだ。生きていることは確定している。どういう形であれ、生きているのだから、それだけでもわかっていればいい。今は、まだ再始動の時ではないのだから、この間に、刹那の経験値を引き上げておくのもいいだろう。ただし、と、最後にスメラギは意地悪な指示だけは出した。フェルトが戻って来るまでは、ティエリアには引き続き、研究室での協力を言い渡したからだ。
「あなたまで降りてもらっては困るので、それだけはお願いね。」
「わかりました。別に、俺は構いません。」
強情だ、と、スメラギも微笑んで、エクシアの発進シークエンスへパネルを操作する。この場所の特定を受けないため、隠蔽皮膜をエクシアは被るから発進しても肉眼でもわからない。ただ、緑色の粒子は、機体から離れると、そこだけわかる。それを眺めて、「いってらっしゃい。」 と、手を振った。刹那がキラと話し合おうとしても、それは無理だろうとはわかっている。どういうことになろうと、あちらは刹那に危害は加えないはずだ。だから、せいぜい、世界を観察してくればいい。ロックオンが勧めたのも、実際の世界を知ることで、様々な考え方や民族の違いを体感できると考えたからだろう。刹那には、そういう教育方法のほうが合っていることは、スメラギにも理解できた。
刹那がエクシアでトレミーのいるドックへ帰還したと判明して、エターナルも、そこへ急行して待機している。飛び出してくるだろうから、それを止めるためだ。イザークもディアッカも待機しているし、虎も自分のガイアを発進できるように手配している。
「キラ様から、エクシアの発進シークエンス確認とのことです。」
ダコスタが受け取った通信を、大声で伝える。それと同時に、イザークとディアッカも発進する。目的地が判明しているから、そのルートも計算可能だ。一番迅速に降下できて、各国のレーダーに察知されないルートとなれば、わずかしかない。それらは、すでに計算済みで、その近くでエターナルとMSは展開した。しかし、だ。エクシアは、一直線のコースを選択した。
「おい、ダコスタ? 」
「あーほんと、無茶苦茶するなあー刹那君。隊長、これは、こちらからでは追いつけませんよ。すでに、成層圏へ落下が始まっています。」
各国のレーダーサイトだの、衛星だの、すっきり無視した行動過ぎて、涙が出る。一応、隠蔽皮膜を装備して、レーダー妨害もしているが、それでも、何かが通過したという記録が残ってしまう。
「アスランに連絡しろ、ダコスタ。取り逃したのは判明しているから、レーダーの誤魔化しをさせるんだ。」
「アイアイサー。」
各レーダーサイトに残る記憶を改竄するのは、キラとアスランの仕事だ。こちらも用件はなくなってしまったから即刻、撤退に移る。
「あいつは、本物のバカだ。」
「まあ、イザーク、そう言うなって。やっぱり心配なんだろ? とりあえず戻ろうぜ。」
まさか、直行ルートを選ぶと思わなかったディアッカも苦笑するしかない。テロリストなんだから、隠密行動をとれ、と、イザークはもなおも怒鳴っているが本気で怒っているわけではない。その行動が危険に繋がるから、刹那を気遣ってのことだ。エターナルは、一端、プラントへ戻るので、直接、叱れないのが残念であるらしい。
さて、地上では、エクシアの降下にラボは、臨戦態勢になっていた。すでに、シンとレイには連絡して、ただいま移動しているし、ハイネは自分のMSで周囲を警戒に飛んでいる。肉眼だと、ある程度、バレてしまうから、それを阻止するためだ。ハイネの機体が飛んでいるという誤魔化し捏造のためでもある。
「まさか、直線とはおもわなかったな? 」
鷹は、ダコスタからの報告に苦笑している。思い出したら、初めての時も組織から一直線に飛んできて、小型艇の減速が間に合わなくて庭を破壊したのだから、一年やそこらで、その性格が変わるわけはない。
「刹那ですからね。・・・どう、キラ? そっちは。」
アスランは、自分の担当エリアのデータ改竄を終えて、キラのほうに声をかける。こちらは、改竄の上に、データの消去と捏造も付け足している。
「もう終わり。そろそろ、ストライクフリーダムの準備して。」
宇宙から成層圏へ飛び込んで地上へ辿り着くまで、それなりの時間はかかる。シンとレイが特区の大学から駆けつけても間に合うぐらいの時間だ。だから、キラたちも記録されたデータから片付けた。刹那は本気で来るだろうから、キラも本気だ。フリーダムには実戦フル装備を用意させている。
「太陽炉の破壊だけはするなよ? キラ。」
作品名:こらぼでほすと 襲撃5 作家名:篠義