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こらぼでほすと 襲撃6

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 熱でぼけた頭で、トダカの台詞を反芻してみたが、これといって思い当たらない。
・・・いいことなくてもいいから、早く梅雨が明けてくれ・・・・
 昨年は、ほとんど別荘でティエリアの厳しい管理を受けていたから、こんなに寝込むことはなかった。そう考えると、ティエリアの管理は正しかったんだな、と、しみじみと感じる。
・・・・あいつら、喧嘩しないで仲良くやってるかなぁー・・・・
 協力体制が取れるほどに、関係は改善されたが、相変わらず、刹那は単独先行だろうし、ティエリアは四角四面なことを言っているだろうし、アレルヤは、普段おっとりしているが、たまに我の強い時があるし、ハレルヤは、かなり常識人だが言動があれだし、で、うまく纏まっているか心配だ。クッション役のアレルヤとハレルヤがいるから、どうにかなってるかな、と、考えて自嘲する。あそこへ戻るのは難しくなった。自分がやっていたことなんて些細なことだったろうが、それなりに役に立っていたとは思っている。
・・・・・いや、いなきゃいないで、どうにかしてるよな?・・・・
 ないものねだりするほど、マイスター組は幼くない。カガリにも、子猫たちを信用してやれ、と、窘められた。わかってはいるが、これは性分だから、心配ぐらいはさせてくれ、と、ロックオンは思いつつ、窓のほうへ顔を向ける。空はネズミ色で、窓に雨粒が当たっている。

 故郷の空も雨が降ると、こんな感じだ。雨の多い場所だから、ここの梅雨空が似ている。それらを考えながら、落ち着いたら生存報告に行かなきゃ、と、ふと思いついたのだが、雨が降るたびに、身体がだるくなるようでは、あちらで動けないんじゃないか? と思うと情けなくて笑えてしまう。
・・・・ライル、あのクルマ、売っちまったかな・・・・
 譲渡手続きをして、クルマの鍵を送りつけた。弟は何事だ、と、驚いただろう。形見のつもりではなかった。あの旧式のクルマを、長いこと逢わなかったライルに乗って欲しかった。古くてメンテナンスが大変な代物だったが、自分は好きだったのだ。もう世界中に、本物は数台とないだろうクルマだが、風変わりな経歴のあるクルマだった。まっすぐよりも曲がることが得意なクルマで、なんだか、自分と重ねていたのだ。まっすぐに人生を進んでいるはずのライルと、曲がってとんでもないところまで行き着いた自分。双子なのに、まったく違う生き方をしている。
・・・・けど、おまえも、とんでもないとこへ行き着いてたんだよな・・・・
 歌姫に調べてもらった報告書で、それを知った。どうも、うちの家系は、まっすぐには生きられないらしい。だから、同じ道へ引っ張り込むことを考えついた。同じ特性があるなら、それは可能だ。刹那が一緒に戦えると感じたら、連れて来いと命じたのも、そのためだ。双子だから、デュナメスに関しても、コクピットは、ほぼ弄らなくてもサイズは同じだし、特性も同じなら、すぐにでもデュナメスは修理して稼動させられる。今、組織にはエクシアしか稼動できる機体がない。それでは心許ない。自分の代わりというより、似たようなのなら、マイスターたちも馴染みやすいだろう。性格は、違うはずだが、まあ、それも慣れればどうにかなる程度のことだろうと思っていた。

 ぼんやりと空を眺めながら、そんなことを考えていたら、扉がノックされた。看護士だろうと無視していたら、気配が違う。扉のほうへ振り向いたら、そこには、今しがたまで気になっていた黒子猫が立っていた。
「・・・刹那・・・」
 ずかずかと歩み寄ってきた黒子猫は、無言で自分を睨みつけている。いつもの服の肩口が濡れていて、髪からも雫が滴っている。この雨の中を、やってきたのが、よくわかる光景だった。
「風邪ひくから、髪を拭け。」
 手元にあったタオルを差し出して、ベッドを起こした。熱は、まだあるが、それほど高いわけではない。それなのに、黒子猫は、タオルは掴んだが、そのまま抱きついてきた。心配させられた、と、怒っているらしい。
「・・・ごめん・・・でも、大したことじゃないんだ。せっかく降りて来てくれたのに、悪い。」
 ごめんごめんと謝りつつ、刹那の背中をぽんぽんと軽く叩いた。ちょっと大きくなったな、と、回される腕の長さで、それを感じて微笑んだ。刹那は、どんどん成長していく。三年前の最初のちっちゃい刹那からすれば、かなり成長したな、と、感じられるのがロックオンにしかわからない楽しみだ。抱きついたまま、刹那は、ロックオンの肩に顎を乗せて喋りだした。
「しばらく、あんたの世話をする。」
「別に、俺はいいよ。それなら、他の地域を回って来い。」
「それは、あんたが起きられたらにする。・・・ティエリアに、しばらく放浪してくると言ってきた。エクシアと一緒だから、心配するな。」
「え? エクシアも降ろしたのか? おまえさん、どうして、そう単独行動が好きかねぇー。」
 ということは、組織には稼動できるMSは一機もない、ということだ。どこかの組織や連合に発見されたら、ひとたまりもない。
「組織は、今のところ動いていない。イオリア・シュヘンベルグから新たな設計理論が提供された。それを基に、新しい機体を設計中だ。」
 気になったことを、刹那が答える。
「はあ? おい、イオリアのじいさんて、二百年前の人間なんだぞ? 」
「俺たちに機体を託した時に、組織へ、その理論が届いた。」
 激しい戦闘中だったから、それらはマイスターたちに知らされなかった。全てが終わってから、その存在に気付いて、今は、その理論を設計に組み入れる作業をしている。だから活動も僅かのことで発見されることないと、刹那は説明した。
「あのじいさん、預言者かなんかなのか? やることが半端ねぇーな。」
 なんで二百年も先の未来に、それを送れるんだろう、と、ロックオンは呆れるしかない。
「だから、あんたが言ったことを、俺はやろうと思う。変革された世界を、自分で見て感じるつもりだ。」
 それに関しては、ロックオンも賛成している。世界が広いことを体感するには、それが一番簡単な方法だからだ。若い刹那は、それを吸収して成長するだろう。宇宙で訓練するだけでは手に入らないものも携えれば、刹那はさらに強くなる。もう一度、世界に喧嘩を売るなら、その大きさは知っておくべきだ。それを踏まえて覚悟しなければ、今度は無事で済まない。
「おう、行って来い。気をつけるんだぞ? 」
「エクシアがあれば問題ない。・・・・だが、あんたが良くなってからにする。とりあえず、寝ろ。身体が熱いぞ? ロックオン。」
 ぎゅっとしがみついていた刹那が離れて、その顔を覗かせる。心配した、と、安心した、と、顔に書いてあるのが、まだまだ子供だな、と、ロックオンは笑った。それ以外にも黒子猫の瞳は語っているのだが、何かまではわからなかった。
「季節の変わり目は、こうなるらしい。また、オーナーから連絡が入ったのか?」
「違う。そろそろ、あんたの様子を確認しようと思っていた。降りてから聞いた。」
作品名:こらぼでほすと 襲撃6 作家名:篠義