こらぼでほすと 襲撃7
「撥ねつけたぐらいで、命までは狙わないよ。せいぜい、うちのシステムへウイルスを送ってくるぐらいじゃないか? 」
すでに、それは何度かやられている。ただ、侵入されるようなセキュリティーではないから、ことごとく侵入前にウイルスは破壊している。それ以上の行動に出たら、キラ製作の強力ウイルスなアスアスちゃん一号から五号までをプレゼントするつもりは、アスランにもある。たぶん、あちらのシステムは崩壊するだろうぐらい強力だ。
「甘いよね? 女の子だからって、油断するんだから。」
「油断してない。おまえは過激すぎるんだ。」
とか、言い争っていたら、その件のラクスからメールだ。会議場が突然、システムダウンして大騒ぎになった、という報告だ。ほらね? と、キラが、そのメールを見せながら、にんまりとアスランに笑いかける。それから、スタスタと自分の仕事部屋に入って、システムを動かす。
「ムウさん、そっちに情報入ってる? 」
とりあえず、連絡だ。ラボには詳細な情報があるはずだ。それに、あちらが陽動なら、この隙に仕掛けてくる。
「なんかなあ、ラクラクちゃんが騒々しい。サイバーテロってやつか? これは。」
ラボのシステムへネット内から辿り着いたら、ものすごい攻撃を食らっていた。だが、数で来られても、問題はない。ラボのサーバー容量は、各国のマザークラスだ。システムダウンすることはない。
「うん、そうみたいだね。・・・・たぶん、セキュリティーのほうは大丈夫。こっちから迎撃して、攻撃しておくから、ラクスの情報だけ拾って。」
「やりすぎんなよ? キラ。」
「わかってる。」
攻撃中なら送りつけてきた相手に辿り着くことは可能だ。それらのルートを検索して、一番被害の少ないウイルス「でぃあでぃあちゃん」を逆送させて送り込む、と、同時進行で、王家の最深部への潜入も進める。さて、何を置いて帰ろうか、と、キラが考えていたら、アスランが自分の携帯端末を耳に押し当ててきた。
「キラ? 」
相手は、歌姫様だ。
「大丈夫? ラクス。」
「ええ、びっくりしましたけど被害はありません。会議は延期になりました。しばらく、ここは使い物にならないそうです。」
セキュリティーだけでなく、その会議場のシステムが完全に沈黙したらしい。イヤガラセもここまでくると、清々しいくらいに派手だ。
「今ね、何を置こうか迷ってたんだ。」
「それでしたら、イザイザちゃんにしてくださいませ。アスアスちゃんは、隠して置くだけでお願いします。」
「何号? 」
「いやですわ、キラ。全部に決まっております。・・・・後は、私くしにお任せください。」
「わかった。じゃあ、とりあえず隠し部屋を作ってアスアスちゃんを勢揃いさせておくね。」
イザイザちゃんは、ディアディアちゃんよりは、ちょこっと強力なウイルスだ。システム自体の破壊には至らないが、上手に排除しないと時間設定が狂うという楽しいウイルスである。キラにしてみれば、スケジュールが無茶苦茶になって困るぐらいの感覚らしいが、実は、決済なんかの日付も狂うので、相当のダメージを与えられる代物ではある。
「ラクス、なんだって? 」
「イザイザちゃんを爆発させて、アスアスちゃん全部を隠してって。なんか、反撃にしては緩くない? 」
うーと唸りつつ、キラはパネルから目を離さず、ラクスの依頼を片付けている。すでに、こちらへの攻撃は沈黙している状態だ。
「倍返しになってるから、いいんじゃないか? 」
「えーーーだって、ラクスのモットーは三万倍返しじゃなかった? みんな、女の子だからって甘いよねぇ。」
いや、それでは終わらないだろう。イザイザちゃんは、単なるデモンストレーションの道具だ。または脅し道具と言い換えてもいい。これから、ラクスが王家に無理難題を押し付けるつもりなのは明白で、また、これを暗黒の笑顔でやらかしてくるから、アスランも関わりあいたくない。
「ムウさん、ラクラクちゃんの動きは? 」
「止まった。・・・キラ、オーナーは絶対に甘くない。それだけは俺が保証してやる。むしろ、容赦しないと思うぞ。」
携帯端末は繋がったままだから、鷹にもキラの声は届いている。歌姫の言葉は想像だが、おそらく、あちらに何かの交渉を企てているはずだ。そうでなくては、『吉祥富貴』の面子なんて従えることは不可能だ。
王家の本宅から、王留美に緊急通信が入った。どこからかウイルスに侵入され、システムの時間設定が狂った、という報告だ。復旧には数日、必要である、と、言われたら、かなり頭にキた。そして、エージェントからの報告も、あちらのシステムに辿り着く前に、腕利きのハッカーたちが全員やられた、というもので、こちらも失敗ということだ。
そして、現在、自分が滞在している別邸のほうも、空調システムがおかしな具合である。この常夏の世界で、さらに、暖房が入っているのだ。
「留美様、ラクス・クライン様より通信です。」
そして、これを仕掛けてきたであろう相手からの連絡だ。居留守を使える相手でもないので、パネルの前に立つ。逃げたら負けを認めることになる。
「お元気そうで、何よりです。王留美。」
「あなたも、息災なご様子ですね、ラクス・クライン。」
「いいえ、私くしは、先ほど、ちょっとした事故に遭いまして、今はホテルで身を隠しているところですの。・・・・それで、その時に、思い出したことがございまして連絡させていただきました。」
「何でしょう? 私くしもスケジュールがありますので早急に、ご用件をおっしゃっていただけますか? 」
「はい、実は、待機所のことなのですが、以前は、あなたが準備されていたとお聞きしております。今後、あの方たちは私どものほうで滞在することになりますし、彼の治療費が莫大な額になりますので、少し援助をお願いしたいのです。私どもは、そちらのように潤沢な資金力を有しているわけではございません。」
ここまで、歌姫は説明して、ニコッと笑って小首を傾げた。その瞬間に、王留美のいる通信室の温度が、ぐんっと上がる。
「あなたほどの方が、私に援助を求められるのは、いかがなものですかしら? 」
空調が壊れたんだ、と、王留美は無視する。
「いいえ、私たちは、みなで細々と暮らしております。屋敷のシステムのセキュリティーなどにまで手が回りませんので、うちのものの手製でございますのよ? まあ、趣味でウイルスを作って遊んでいるような方ですから、それなりのものは作ってくださいましたので、どうにか守れているというところです。昨今、悪いハッカーが増えて、撃退用の一番簡単なウイルスをカウンターアタックさせておりますけど、うまく作動しているのかすら、わかりません。」
ウイルスを作るのが趣味とは、悪趣味すぎる。たぶん、王家の本宅で暴れたのも、それだろう。一番簡単なウイルスで、腕利きハッカーを撃沈させているというのは、どーなんだよ、と、ツッコミたいところを、王留美もぐっと堪えて、笑顔になる。
「それにしては、私設軍隊をお持ちのようですけど? 」
作品名:こらぼでほすと 襲撃7 作家名:篠義