こらぼでほすと 襲撃7
組織から、子猫が一匹降りて来た。刹那と並べて連れ歩いたら、さぞかし癒されることだろう。本宅に戻って、キラにも連絡して、と、うきうきと歌姫は、急に入った休暇の予定を組み立て始めた。
確かに、ここ数日よりは倦怠感がなくなった。どうにか部屋の中を普通に歩くぐらいに回復したので、ロックオンも安堵した。
フェルトを迎えに、刹那は出かけたので、部屋は静かなものだ。すでに夜という時間なので、窓の外は真っ暗で何も見えない。そこへ、エンジンの音がして、ヘリポートへと降りてくる光がある。到着したか、と、窓から、そちらへ視線を向けた。眼下のヘリポートに、ヘリが着陸して、そこから人影が動いているのがわかる。
しばらくして、扉から刹那が飛び込んできて、そのすぐ後ろにピンクの髪が見えた。
「フェルト、よく来たな。」
と、言うのも、なんだかおかしな具合だが、言葉が思い浮かばない。ぴくっとピンクの髪が動いて、刹那を追い越して、目の前にやってきた。
「・・・ロックオン・・・」
「元気そうで何よりだ。」
その瞳がじわっと潤んで、自分に抱きついてきた。まあ、あんな別れ方だったから、生きてるとは思ってなかっただろう。
「ちゃんと生きてるだろ? フェルトも怪我はなかったのか? 」
こくこくと頷いているが、顔は上げてくれない。盛大に泣かれて、どうしたもんかな、と、ロックオンも苦笑する。刹那は、何もフォローするつもりはないのか、じっと見ているだけだ。扉から、静かに、八戒と悟浄が入ってきたので、ロックオンも視線で挨拶する。相手も、視線で軽く挨拶して苦笑している。
「すいません、出迎えに行ってもらったそうで。」
「いいえ、今日は楽そうですね? ロックオン。しばらく、フェルトさんも、こちらに滞在してくれるそうですよ。」
「ええ、刹那から聞きました。・・・・できたら、こっちを案内してやってもらえませんか? フェルトは、ほとんど、特区は知らないんですよ。」
せっかく降りて来たんだから、遊びにいけばいいだろう。刹那と一緒なら、フェルトも気楽に出られていいと思っていた。
「俺は、あんたの看病をする。フェルトも、そうだ。」
だが、黒子猫は、親猫の提案なんて却下の方向らしい。そして、フェルトのほうも、「私も看病する。」 と、顔を上げないで宣言した。
「いや、俺は、悪いってわけじゃないからさ。どうせなら、お前が案内してやれよ、刹那。フェルトは、特区のことは全然なんだし。おまえだって水族館とか行っただろ? あれ、フェルトにも見せてやりゃいいじゃねぇーか。」
自分が動けたら、あっちこっち連れまわしたいのだが、生憎と外出許可どころか部屋に軟禁状態なので、刹那に頼むしかない。刹那より小さいんだから、刹那が責任を持ってエスコートしてやってくれ、と、頼んだが、「やだっっ。」 と、一言で切り捨てられた。
「まあ、いいじゃねぇーか、ママニャン。久しぶりに再会したんだから、桃色子猫ちゃんも甘やかしてやれよ。」
すぐに、キラがやってくるだろうから、それまで、こちらでゆっくりさせてやればいい。天候が安定している時なら、子猫たちの世話もできるはずだ。刹那を構いたいだろうから、キラも、プラントから戻ったという体で、こちらに顔を出すだろう。そうなったら、刹那がどうこう言っても連れ出されることになるのだ。それに、自分たちよりキラのほうが物腰も柔らかいし年齢も近いから話しやすいだろうというのも、悟浄の計算には入っている。
「けど、悟浄さん。」
「フェルトちゃんのミッションは、おまえの健康状態の確認らしいぜ? それなら、一応、観察する時間は必要だろ? 」
「まあ、そうですが・・・・フェルト、おまえさん、腹は減ってないのか? 移動中に食事したか? 」
「・・・軌道エレベーターで機内食は食べた。・・・」
そこから乗り継いでやってきたとしたら、軽いものくらいしか口にしてないはずだ。それなら、何か夜食を用意してもらおうと思ったのだが、フェルトが離れない。八戒のほうが、軽いものを用意してもらいましょう、と、内線で連絡してくれた。
「ほら、フェルト、ちょっと座ろう。疲れただろ? 軽く食べて、今日は、ぐっすり寝ような? 話は明日でいいからさ。」
そのままソファまで誘導して座らせた。タオルを取って、それを渡してやる。ほとんど1人で行動してないフェルトに、移動はキツかったに違いない。で、対抗するように刹那が、フェルトの逆となりに座り、ぶすっくれている。
「八戒さん、こちらに泊めてもらうのはいいんですか? 」
「ええ、構いませんよ。オーナーは細かいことは気になさらないでしょう。それに、子猫が増えれば、逆に喜ばれるんじゃないですか? 」
すでに、刹那が押しかけている。というか、やっぱり、初日は同じベッドに寝る、と、我侭を言って押し通したので部屋は用意してもらわなかったのだが、フェルトはそういうわけにはいかない。
「おまえも今日から、部屋を用意してもらえ。」
「俺は、あんたと一緒でいい。フェルトだけ別の部屋で寝ろ。」
「やだっっ。」
まだくっついたままのフェルトも反論する。
「ほら、フェルトだけ1人だとおかしいだろ? 」
「じゃあ、フェルトも一緒でいい。」
「そうじゃねぇーよっっ。」
「・・・ロックオンと寝る・・・」
「いや、フェルト? あのな、俺、一応、男だからさ。年頃の女の子は、そんなことしちゃいけません。」
「関係ない。刹那が良くて、私はダメなのはおかしい。」
「ああ、うん、だからさ、刹那も別の部屋でな? 」
「俺は俺のやりたいようにする。」
「だから、無理だって。」
とりあえず、子猫たちは親猫から離れるつもりはないらしい。とはいっても、三人で寝られるほどベッドは広くない。
「しかしよ、フェルトちゃんに添い寝してもらっても、いかがわしく感じられないって段階で、おかん決定だな? ロックオン。」
年頃の女の子が一緒がいい、なんて言っても、何の心配もないというのが、男という認識から外れている証拠だ。
「だって、俺とフェルトなんて十も違うのに、そんな気分にならんでしょ? 気分的には娘の気分ですよ、俺は。」
だから、いやらしさがないわけで、フェルトもべったりくっついているのだ。だが、倫理的に考えると、一緒に寝るのは、どうかとロックオンも思う。
「だから、一緒が良いのっっ。」
「うん、それはわかるんだけどな。・・・ようやく泣き止んだか? あんまり泣くと目が腫れるぞ? せっかく、おまえさんが降りて来たってのに、服のひとつもプレゼントできないってのは、甲斐性がないなあ、俺。」
可愛らしい女の子の服をフェルトに用意してやりたかったな、と、残念に思う。クリスが、そういうことを担当していたから、以前は口を挟まなかったが、気分的にお父さんなロックオンだって、そういうことをしてやりたいとは思っていた。組織にいると、そういうことに無頓着になってしまうが、フェルトは、まだオシャレに興味がある年齢だ。今日の素っ気無いGパンにTシャツなんて格好じゃなくて、ワンピースぐらいは着てもらいたいのだ。
「そんなのは、いらない。ロックオンの看病をする。」
作品名:こらぼでほすと 襲撃7 作家名:篠義