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家庭教師情報屋折原臨也7-2

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 夜。静雄は自分が刺された現場に来た。血痕はだいぶ洗い流され、きつい消毒剤の臭いも薄まり、暗い中で見る分には何の変わりない道路に変わっていた。要は何も残っていなかった。それほど繊細にできているわけではないので静雄は現場を見ても特に何も感じなかった。ただ漠然とあぁここだ、そんな感じだった。
 自分が倒れたあたりに近づいてその場に膝をついた。銃撃の衝撃は背後からだった。記憶に従って振り向くと丁度高いビルが目に入った。多分あの辺りから撃ってきたんだな。沸々と怒りが込み上げるが、その場所に犯人がいるはずもないので仕方なく静雄は近くの壁を殴っておいた。壁にはひびが入りぱらりと破片が落ちた。
ぱきりと何かを踏んだような音が聞こえた。
 誰だと思いばっと静雄は音のした方を振り返った。すると真っ黒な人間が一人立っていた。
それはいつしか見たあのフードの男、“情報屋”だった。街灯がこちら側にあるため顔が見えるかと思ったが見えたのは下半分だった。上部は目深にかぶったフードのせいで影となり表情は見えなかった。
「おい」
そう声をかけると情報屋は大袈裟な反応を見せた。こちらが見えていなかったのかと思わせるくらいあからさまな反応だった。
彼はくるりと体を回し、何も言わずそのまま駆け出した。
「ちょ、待てッ!」
逃げられたことへの反射的な反応だった。静雄はその後を追った。
 静雄は足が速い。しかしそれ以上に情報屋の足は速かった。いや走るのが上手かった。入り組んだ道を無駄のない動きで右へ左へと走り軽い障害物は難なく飛び越えた。どこかの刑事モノの逃走劇を思わせたが、袋小路に入った。
「っし!」
情報屋は足を止めた。静雄は一気に距離を詰めその腕を掴もうと思い手を伸ばした。
だが情報屋の手は静雄の手から上方に逃げた。
「え?」
何も掴めなかった手をそのままに静雄はその手の動きに沿って上を見た。情報屋は慣れた手つきで壁の表面を這う管を掴み、勢いを殺さずに壁の上を走っていった。
 ――― 壁登った…、あの時!
あの時姿が消えたのは上に逃げたからなのかと静雄は結論をつけた。このあたりは割合低く古いビルが多かった。立ち止まっていては逃げ切られてしまう。
 静雄も負けまいと、見よう見まねで膂力を使って無理やり壁を登った。
「!」
それに驚いたのは屋上まで上がり静雄の様子を窺っていた情報屋の方だった。慌てて踵を返し、深く被ったフードを押さえながらビルからビルへと飛び移った。
「待ちやがれ!」
登りきるなり、静雄はその背を休憩することなく追った。アクション映画のような感覚に静雄はわずかな興奮を感じていた。
 しかしその“追いかけっこ”もビルから排水管を緩衝材に伝い降り大通りへ出てしまったところで終わった。
路地を抜け60階通りの人ごみに紛れ込まれ、静雄は情報屋の姿を見失った。
「ちっ…」
前後左右四方八方を見まわすが、無駄であった。静雄は一つ舌打ちをすると、その流れに乗らず東急ハンズのエントランスの柱に背を預けて息を整えることにした。思った以上に体力を使った。まさかビルの上を走るとは思わなかった。情報屋の動きも、素人目だがその道のプロではないようだった。本当に逃走用だけに学んだのだろう。
 ――― ……帰るか
わざわざ現場に戻るのも面倒に思い、何もすることがなくなり、静雄は帰路についた。

 ――― 危なかった
人ごみの奥から、「情報屋」の臨也はじっと静雄の姿を確認しながら動いた。