こらぼでほすと 襲撃8
歌姫様は、子猫たちを着飾らせる遊びにも着手したらしく、フェルト用の部屋に、ものすごい数の服が準備され、とっかえひっかえ、フェルトを着替えさせていた。今時の可愛いワンピース姿というのは、親猫にも好評で、親猫が喜ぶから、桃色子猫も率先して、いろいろと着替えていたのが微笑ましい光景だった。
ハイネと鷹は、引き続き、ラボのほうで情報のチェックをしているから、参加できなかったので、悟浄たちに護衛のお鉢が回るのは仕方がない。ラクス・クラインは心労で休養なんてことになっているので、正体がバレてはまずい。
さすがにお買い物は、女性陣だけなんてことになっているので、キラたちはゲーセンへ繰り出しているし、スイ-ツのハシゴには悟空が女性陣に混じったりしていたのは、ご愛嬌だ。きっちりと五日間、そうやって遊びまくって、歌姫様は復帰した。お休みなのだから、キラも一緒に、と、強引にAEUへ連れ去ろうとしたのだが、それだけは失敗した。さすがに、ラボから遠くへ離れるのは、まずいと、アスランが言ったからだ。何か遭った場合、すぐに対処するには、AEUは遠すぎる。
「キラ、すぐに戻りますわ。」
「うん、待ってる。・・・ニコルによろしくね? それから、無理しちゃダメだよ? ラクス。僕、心配するのヤダから。」
「はい、英気を養いましたので大丈夫です。・・・それでは、いってまいります。」
エアポートまで見送って、キラも本宅に戻って来た。刹那たちが、ここに滞在しているから、キラたちも、しばらく、ここに居座ることにしたらしい。その代わり、悟浄と八戒は、ようやく休暇に突入できた。このまま、こちらに居ようかと八戒は思っていたのだが、アスランが、それを遮った。「たまには、二人でゆっくりしてきてください。」 と、送り出してくれたからだ。まあ、この一年、マイスター組のことで、ドタバタしていたから、ゆっくりしていなかったのも事実だし、マイスター組や悟空たちの世話があったから、夫夫ふたりっきりで数日間休養なんてこともできなかったのを、アスランもわかっていたからだろう。「じゃあ、女房とゆっくり湯治の旅に出てくるぜ。」 と、悟浄もアスランの親切を受け取ることにした。MS組は、バイト組以外は、二週間の休暇といっても、何かしら動くことになってしまったが、店が始まったら、指名のない日に適当に休みを取るつもりをしている。
しばらくは、この変革された世界の動向を見守っていなければならないから、それについて文句はない。
「ママーーーー」
お見舞いに顔を出して、勢いよく走り込んで親猫に抱きつくと、ぐえっと、親猫が変な鳴き声をあげる。だが、大明神様には聞こえない。
「ねーねーねーラクスと一緒に寝たんでしょ? 僕も、刹那とフェルトとママと一緒に寝たい。」
「・・・おま・・・ぐふっ・・・」
「ラクスのベッドを借りたから、一緒してね? ママ。」
ちょうどベッドを起こして座っていたから、キラの身体は肺直撃だった。痛いより息が詰まって、げふげふと咽せつつ、ロックオンは手近の雑誌で、キラの頭をポカリと叩いた。それを見てから、フェルトも、ポコポコと雑誌でキラの背中を叩いている。五日間、一緒に遊んでいたから、それぐらいのことは遠慮しないらしい。
「キラっっ、離れてっっ。すいません、ロックオン、大丈夫ですか? 」
「こいつに鎖つけとけっっ、アスラン。・・・キラ、フェルトは年頃の女の子なんだ。男ばかりで囲んで寝られるわけでないだろ? 刹那で我慢しろっっ。」
後から飛び込んできたアスランが、その様子に慌てて、自分の恋人を親猫から引き剥がす。ちょっと目を離した隙に、何をするかわかったものではない。
初日だけは、四人だったが、次の日からラクスとフェルト、刹那とロックオンという組み合わせになって、歌姫が仕事で出かけて、今夜からフェルトは、ひとりで寝なさい、と、親猫が指示をしていたところだ。いくら家族みたいなものだといっても、やはり、年頃の女の子を野郎ふたりと寝かせるわけにはいかない、と、説明した。渋々ながら、フェルトも納得してくれたというのに、いきなり天然電波が混ぜっ返すから始末が悪い。
ドクターのところでクスリを貰ってきた刹那は、途中から会話は拾っていたのか、すぐ反論した。
「俺は、ロックオンの世話がある。キラは、アスランで我慢しろ。」
「刹那は、ほんと、マザコンだよね? 僕よりママのほうが大事なんだから。」
「当たり前だ。おまえには、アスランがあるが、こいつには俺だけだ。」
なんか、意味を取り違えると、とんでもない意味になることを黒子猫は吐いているのだが、茶化す人間がいなかったので、そのままの意味で伝達されたのは幸いだ。飲め、と、クスリと水を差し出している刹那は、言葉の破壊力を理解していない。
「・・・おまえさんもな、その言い方は問題があると理解しろ。」
「言葉? ちゃんとスタンダードで喋っている。問題はない。」
「そうじゃなくてさ・・・なんて言えばわかるんだろうな? 」
これこそ、コミュニケーションの経験によって培われるスキルであるだろう。他人と、ちゃんとした関係を築くことが少ない刹那にとって、これが今後の課題であるのかもしれない。
「あまり、熱が上がるなら治療すると言っていた。」
ロックオンの注意なんて、さらりと無視して、ドクターの言葉を伝えている。また、気圧の変化が激しくなってきたので、ロックオンは、少々ぐったりしている。この五日間の天候が嘘のように、朝からどんよりとした曇り空で、空は今にも泣き出しそうな状態だ。この状態が、一番、身体に堪えるのだ。
「そう言われてもなあ。俺の気合いで、どうにかなるもんでもないさ。・・・トレーニングするなら、フェルトも連れて行って一緒にやれよ? 」
「私はいいよ、刹那。ロックオンが寝るまで看てるから。」
親猫が手にしていたコップを取り上げると、ベッドをフラットに戻す。この五日間で、クスリを飲むと、うとうとし始めることを、フェルトも気付いたらしい。
「ママ、具合悪いの? フェルト。」
「うん、悪い。キラ、謝って、さっきの痛かったよ。」
「うん、ごめんなさい。」
キラは、フェルトの言うことに素直に従って、ロックオンに頭を下げる。フェルトは無口なほうなので、重要なことしか話さないから、言われたことは、ちゃんと聞くようにしてくれている。
「わかってくれたらいいさ。フェルト、俺が寝たら、みんなで居間へでも行って来いよ。」
「・・うん・・何も飲まないの? 」
「ミネラルウォーターのペットボトルをくれるか? 」
「うん、それだけ? 果物とかプリンとかゼリーは? お昼も食べてないよ? おなか空かないの? 」
朝食は、少し手をつけたが、昼は起きるのがだるいとスルーした。そろそろ夕方だというのに、ほとんど何も口にしないから、フェルトは心配している。刹那のほうは、毎度、こんなことになるから夜には点滴されることを知っているので心配しない。それをフェルトに教えてやらないのが、刹那のコミュニケーション不足だと思われるところだ。
「毎度、こんな調子だ。刹那は気にしてないだろ? こういうの見慣れてるからだ。」
「・・うん・・」
作品名:こらぼでほすと 襲撃8 作家名:篠義