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でぃー あいふぁーざーふと -die Eifersucht-

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赤べこに着いて弥彦は少なからず驚いた。
「お疲れ様。弥彦君。」
「お、応。」
昨日の別れ際、あれだけしぼんでいた燕が、明るく微笑みかけてきた。
「おなかすいてない?今、妙さんたちも奥で賄い食べてるよ?」
まるで何事もなかったかのように…。
「食う。」
面食らいつつなんとか答えた。
燕はよく物事を引きずる。
一晩寝たくらいで悩みが解消したり浮上したりする性質(たち)ではない。
(何がなんだか…。)
立ち尽くす弥彦の気配を背中で感じながら、
燕は跳ね上がる鼓動を鎮めようと必死だった。
今の笑顔と二言三言にどれだけの勇気を動員したか、弥彦は知る由もないだろう。
ちょっと気を抜くと手が震えそうになる。
先に立って厨房に入り、弥彦の分の賄いを器に盛り付けながら、
落ち着け、落ち着け、と、燕は自分に言い聞かせた。
「はい、どうぞ。」
「応。悪ぃな。」
とりあえず手を合わせて、弥彦は賄いにありついた。
稽古でとにかく腹が減っている。
燕の様子を見るのは腹を満たしてからにしよう。
先に食べていた燕はもう食事が済んでいるらしい。
麦茶のやかんを手に他の店員に声をかけている。
「皆さん、麦茶いかがですか?」
「悪いなあ、燕ちゃん。お願いするわー。」
一同に麦茶を配ると、そのまま燕は妙と話しはじめた。
賄いをかきこみ終わると弥彦はいつもどおり、店の裏方へ戻るのだが、
「燕。」
その前に燕にそっと声をかけた。
「なあに?弥彦君。」
「帰り、話があるんだ。店ひけたら、つきあってくれねえか?」
燕の心ノ臓が跳ね上がる。
妙をはじめ、他の従業員が聞き耳を立てている気配が伝わってくる。
「うん。わかった。」
燕は愛想良く返答した。
それに対して弥彦はぶっきらぼうに、応、と答えて姿を消した。