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【かいねこ】千の祈りと罰当たりの恋

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「えっ?あ、ああ、はい」
「何その薄い反応。まあ、お前達には関係ない話だけどなー」
「あ、はあ」


僕には、関係のないことかもしれない。
でも、いろはには。
戻る家も、迎えてくれるマスターもいない、いろはには。


いろはに会いたいと、その時強く思った。



「ここ、アパートが出来るみたいだよ」
「わー、ほんとだー」
「コンビニでも出来てくれたら、便利なんだけどねー」

今日は珍しく、メイコとミクも買い物についてくる。
三人でのんびり歩きながら、神社の脇を通りかかった。

「あ、神社だー!」

ミクが急に走りだし、鳥居をくぐっていく。

「ああもう、急に走ったら危ないわよ」

メイコが慌てて追いかけて、僕も後を追った。
しんとした境内には、他に誰の姿も見えない。
そっと周囲を見回したけれど、いろはの気配はなかった。
ミクが、賽銭箱の前に立ち、ぱんぱんと手を叩く。
神妙な顔でお祈りをした後、僕達のところに駆け寄ってきた。

「おにーちゃん、神様っていると思う?」
「え?」

いきなり聞かれて、視線をさまよわせる。

「いるわよー。ミクがいい子にしてたら、ちゃんとお願いを叶えてくれるわよ」

メイコがそう言って、ミクの頭を撫でた。
嬉しそうに笑うミクの顔を見ながら、僕はいろはのことを考える。


本当に、神様がいるのなら。
どうして、彼女は。


「ほら、行くわよ、カイト」

メイコに背中を叩かれ、我に返った。

「あ、ああ、うん。待ってよ、めーちゃん」


本当に、神様がいるのなら。
どうして、あなたは。




「マスター、遅いわね」

メイコが、壁の時計を見上げながら呟いた。

「また残業かなあ」

このところ、マスターの帰りが遅い。
それに、仕事が大変なのか、なんだかやつれてもいる感じだ。
ミクも、心配そうな顔で、リビングの扉に視線を向ける。

「遅くなるなら、電話してくれればいいのにね」

僕が言うと、メイコは首を振って、「仕事中はねえ」と言った。
のろのろと時間が進む中、テレビの音が耳障りに感じる。
別の番組に変えようと、リモコンを手にした時、玄関の開く音と、マスターの声が聞こえた。

「ただいまー」
「マスター!お帰りなさい!」

ミクが立ち上がって、リビングを走り出る。
僕とメイコも、一緒に玄関へ向かった。



「ただいま」

見るからに生気のないマスターが、消えそうな声で言った。

「どうしたの、マスター?死にそうな顔してるわよ」

メイコが鞄を受け取りながら聞くと、マスターはネクタイをゆるめながら、

「ちょっと・・・・・・話があるから、皆こっち来て、座って」

ただならぬ様子に、僕とメイコは顔を見合わせ、不安げなミクの手を引いて、リビングに戻る。
ぐったりとソファーに身を横たえたマスターに、コーヒーでも淹れましょうかと聞くと、手を振って、

「いや、いい。とにかく、座って」

促され、三人でマスターを囲むように座った。
マスターは、のろのろと体を起こすと、

「実は、転勤することになった」

転勤は来月、向こうでは会社が借り上げたマンションに住むこと、職場が近くなるから、今より通勤は楽になることを、淡々と話す。

「来月って、随分急ですね」

メイコの言葉に、マスターは目を逸らして、

「いや、実は、ちょっとごたついてて、皆に知らせるのが遅くなったんだ」
「まあ、そうだったんですか。もう大丈夫なんですか?」
「大丈夫・・・・・・というか、その」

マスターは、いきなりソファーを降りると、俺の前に土下座して、

「ごめん!カイトは連れていけないんだ!!本当にごめん!!」
「え・・・・・・?」

いきなりの言葉と、マスターの行動に、事態がよく飲み込めなかった。
最初に我に返ったメイコが、勢いよく立ち上がって、

「マスター!?それってどういうこと!?カイトを置いてくの!?」
「ごめん!!どうしても、二体しか認められないって言われて!!俺も、粘ったんだけど、どうにもならなくて!!」
「それじゃ、お兄ちゃんは捨てられちゃうの!?」

ミクの悲痛な叫びに、マスターは激しく首を振る。

「そんなことはしない!絶対に!!」
「じゃあ、僕はどうなるんでしょうか?」

自分のことなのに、どこか他人事のような調子で聞いた。
しんとした部屋の中、マスターがゆっくりとした口調で、会社の先輩が引き取ってくれると、説明してくれる。

「四十過ぎで、奥さんと二人暮らしなんだ。子供はいないから、部屋に余裕があるって言ってくれて」
「いい人ですか?」
「それは、もちろん。あの人なら、カイトを任せられる」
「じゃあ、良かった」

笑顔で言うと、マスターが驚いたように僕を見た。

「マスターがそう言うなら、安心です。僕、どこか遠くに連れてかれて、捨てられるのかと思いました」
「そんなこと」
「会社の先輩なら、マスターの話も聞けますし。落ち着いたら、遊びに行っていいですか?」
「それは、もちろん」
「もー、そんな顔しないでください。何も、今生の別れじゃないんですから。そんなんじゃ、引っ越し前にマスターが倒れちゃいますよ?」
「あ、ああ、うん。ごめん」
「それじゃ、早くお風呂入っちゃってください。もう遅いから、ミクちゃんは先に寝てようね」

そう言ったら、今まで黙っていたミクが、いきなり僕にしがみついて、

「ごめっ・・・・・・ごめんなさい・・・・・・っ!ミクがいい子じゃなかったから・・・・・・っ」

ぼろぼろと泣き出したので、驚いてミクを抱きしめる。

「えっ!?ち、ちがっ、ミクちゃんはいい子だよ。え、あの、な、泣かない、泣かないでっ。めーちゃん!どうしようミクが泣いてる!!めーちゃん助けて!!」
「え?あ、ああ、だ、大丈夫よ、ミク。あなたのせいじゃないから。ほら、こっちいらっしゃい」
「マスター、マスターは、早くお風呂入ってください」

泣きじゃくるミクをメイコに任せると、ぽかんとしているマスターを促した。

「ああ?え、あ、なんか、あの、ご、ごめん」
「マスターが謝ることじゃないですよ。落ち着いたら、また詳しく聞きますから、ね?今日はもう、遅いですし」
「う、うん。分かった」
「ほらほら、いいからいいから。着替えは、後で用意します」

マスターを風呂場へ追いやり、メイコがミクを連れていったので、リビングには僕一人になる。


・・・・・・・・・・・・。


ふと立ち上がって、カーテンを少し開けてみた。
室内の明かりが反射して、僕の顔と、しんとしたリビングの様子が、窓ガラスに映る。
顔を近づけて目を凝らすと、雲に覆われた夜空が、町並みにのし掛かっていた。


いろはは、何処にいるんだろう。
屋根のあるところにいてくれたら、いいんだけど。


雨にならないといいな、と考えながら、カーテンを閉じる。
マスターの着替えを取りに、寝室へ向かった。




「マスター、着替え置いときますねー」

浴室のマスターに声を掛けてから、扉を閉める。
振り向くと、後ろにメイコが立っていて、思わず飛び上がった。

「めーちゃん!びっくりさせないでよ!」
「ミクが起きるでしょ。静かにしなさいよ」