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【かいねこ】千の祈りと罰当たりの恋

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「そんなことない。カイトは格好いいよ。誰にも言わないで、耐えてたんだから。あたしだったら、絶対マスターに当たるな。何でそんな酷いこと出来るのって、責めてるかも。だから、置いてかれるんだね」

ふっと自嘲気味の笑みを浮かべるいろはに、彼女の方がもっと辛い目に遭ったんだと、泣き言を言ってる自分が、申し訳なくなった。

「ごめん、いろは」
「ううん、あたしこそ、変なこと言ってごめん」

気まずい思いに、視線を逸らす。
僕には新しい居場所があるけれど、いろはにはそれがない。
そのことが、彼女に対する裏切りのような気がして、余計話さなければ良かったと、後悔の念が押し寄せた。
少しの間黙っていたいろはが、急に明るい声で、

「あ、そうだ、それじゃあさ、その引き取ってくれる人に、あたしのことも、お願いしてみてよ」
「え?」

突然の言葉に、驚いていろはを見る。

「だって、いい人なんでしょ?」
「え、ああ、うん。マスターはそう言ってるし、僕は、マスターのこと信じてる」
「それなら、その人の知り合いも、いい人が揃ってるよ、きっと。その中で、誰か、あたしのこと引き取ってくれる人が、いるかも知れないじゃない」
「あ・・・・・・ああ、そうか。そうかも」
「ね?だから、カイトは何も気にすることないよ。あたしの為でもあるんだから。あたしの為にも、その人と仲良くなってよね」


・・・・・・・・・・・・。


「いろは・・・・・・」

ごめんと続けそうになって、それは彼女の気持ちに反することだと、慌てて飲み込む。

「あの、あ、ありがとう。いろはのこと、ちゃんとお願いするからね」
「うん。約束。待ってる」

にっこりと笑ういろはに、もう一つ言わなければいけないことがあると、気がついた。

「あ、いろは、あの、えーと、その」
「何?あ、カイトはそろそろ帰らないと、まずいんじゃない?」
「え?ああ、うん。それは、あの、えっと」

訝しげな顔をするいろはに、一度深呼吸してから、

「僕も好きだよ、いろは」

思い切って言うと、いろはは、一瞬きょとんとした顔をして、それから、耳まで真っ赤になる。

「え、えええええ、あの、あ、あたし?の、こと?」
「え?うん。そう。いろはのこと。好きだよ。ずっと好きだった」

一度言ってしまうと、なんだか気が楽になった。
真っ赤になって俯くいろはを、可愛いなと思う。

「いろはの引き取り先が決まったら、もっとちゃんと会えるよね。近くに住んでる人だといいな。そうすれば、会いやすいし」
「う、うん」
「今日、いろはに会えて、話を聞いてもらって良かった。ありがとう、いろは」
「あー、えー、い、いえ、とんでもない、です」


何で敬語。


吹き出しそうになるのを堪えながら、いろはを抱き寄せる。

「うひゃぁ!」
「必ず迎えにくるから。待ってて」

真っ赤な顔で頷くいろはを、もう一度抱き締めると、

「もう行かないと。マスターが帰って来ちゃうから」
「あ、うん。あの、カイト」

立ち上がった僕に、いろはが声を掛けてきた。

「何?」
「待ってる、から。ここで待ってるから」
「うん。約束するよ。だから、安心して」
「うん」

力いっぱい頷くいろはに手を振って、僕は大急ぎで帰宅した。



帰ったら、僕が家出したと勘違いしたらしいマスターとミクに泣かれ、メイコに散々怒られた。
いろはのことは隠して、神社で色々考えてたら遅くなった、もう二度としませんと弁明し、やっと解放される。
マスターにいろはのことを話したら、何処か引き取り先を見つけてくれるんじゃないかと思ったけれど、ただでさえ忙しいのに、これ以上負担を掛けるのは悪い気がして、黙っておいた。


いろはには悪いけれど、もう少し落ち着いたらにしよう。


マスターやメイコやミクと別れるのは寂しいけれど、一日も早くいろはの引き取り先を見つけてあげたくて、僕はその日を心待ちにする。


マスターの先輩が「いい人」なのは、間違いないだろうから。
後は、僕がいかに気に入られるかだよな。


どうか先方と相性が合いますようにと、心の中で祈らずにはいられなかった。




「めーちゃん、半分持ってよ」

買い物帰り、さっさと先を歩くメイコに、半ば諦めながら声を掛ける。

「うるさいわね。男なら、それくらい持ちなさいよ」
「もー、手伝わないなら、ついてくる必要なくない?」
「ああ?元はといえば、あんたのせいでしょうが」
「はいはい、ごめんなさいでしたー」
「何その態度は。あたし達が、どれだけ心配したと」
「めーちゃんも心配してくれたんだ。へー」
「うっさいバカ!!誰があんたの心配なんかするか!!」

怒ってずかずか歩いていくメイコの後ろを、ため息をつきながらついていった。
あの日以来、僕が出掛ける時は、必ずメイコかミクがついてくる。
それ自体は自業自得だし、心配掛けたことは悪いと思うけれど、誰かがそばにいると、いろはは姿を見せてくれなかった。


会って、詳しく説明したいんだけどな。


引っ越しの日取りとか、それに併せて僕も引き取られるとか、新しい住所とか、いつ頃いろはのことを切り出せそうかとか。

何より、いろはに会いたかった。
いろはに会って、顔を見て、声を聞きたかった。また歌を聞かせて欲しかった。


今頃、何処にいるんだろう・・・・・・。


ちゃんと聞いておけば良かったと思いながら、僕はもう一度ため息をつく。

「さっきから、はあはあはあはあうっさい!あんたは変質者か!」
「めーちゃんが手伝ってくれないからですー」
「あんたが悪いんでしょうが、バカイト!!」



引っ越しの当日、僕を引き取ってくれるという、先輩夫婦がやってくる。
本当は、事前に顔合わせをしておきたかったのだけれど、何せ時間がなくて、ばたばたしているうちに当日になってしまった。

「カイト、用意できたか?」
「はい、今すぐ」

マスターの声に、マフラーを首に巻き、鞄を手に取る。

「お兄ちゃん、向こうに行っても、ミクのこと忘れないでね」
「大丈夫だよ、絶対忘れないから。ミクちゃんも、僕のこと忘れないでね」

抱きついてきたミクの頭を撫でると、ミクはこくこくと頷いた。

「ミク、そろそろお客さんが来るから」

メイコに促され、ミクは渋々僕から離れる。

「めーちゃんは、僕に言うことないわけ?」
「せいぜいクーリングオフされないよう気をつけなさい。もう行くとこないんだからね」
「ちょっと!不吉なこと言わないでよ!」
「あ、先輩来たみたいだ」

マスターが、見慣れない車を示し、メイコとミクは僕の後ろに下がった。
スピードを落としたワゴン車が、目の前に止まる。扉が開いて、大柄で強面の男性が飛び出してくると、

「カイトおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「ひゃあ!?」

いきなり、力強く抱き締められた。


痛っ!!ていうか痛っ!!!


万力のような力で全身を締めあげられ、声をあげることもできない。

「可哀想になあ!!でも大丈夫だぞ!!今日からうちの子だからな!!」
「ぅぎゅー」
「先輩!カイトが潰れますよ!!」