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『魔竜院 THE MOVIE』AURA二次創作

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 ところで、子鳩さんを支持する人間にとって、彼女から特別扱いされているにも関わらず冷たい態度を取る良子の存在というのが、どう認識されるかご存知だろうか。
 邪魔者。
 これは現状に於いて、オーディエンス満場一致のファイナルアンサーだったらしい。
 さて、良子への刑執行は想像を超えて早かった。
 彼らは精神汚染系の攻撃を仕掛けてこない。
 正解だ。極力外部をシャットアウトする良子にとっては、対人で受ける精神的ダメージというのは極めて少ない。
 ならば、彼らのとった方法は――
「一郎」
「ああ」
 排除を告げる声をきいた翌日、机が消えていた。見事な手際だ。これだけ大掛かりな仕掛けに対し、目撃者はいないときている。
 机が消えるくらいなら、排除の意志が視覚されただけ。替えはすぐに見つかるだろう。ダメージにせよ本来なら軽微。ただ、俺が侮っていたのは、自分自身の価値だった。
 消えた机の主?
 決まっている。良子と、そして――俺だ。あいつらは俺も標的に加えた。
「ごめん、一郎……」
 珍しくダメージを受けてやがる。そういう表情が表に出るのいつ以来だよお前。悲しい表情下手くそじゃん。
 付き纏われてた頃なら、この表情が少しは爽快だったかも知れない。
 今は、ただめんどくさいだけだ。持て余す怒りを感じてしまう自分が。
 俺は良子の保護者になった気でいて、彼女の足をひっぱることになってしまったのだ。
 強く握った拳は、随分と赤く染まっていた。
 人が一人で生きるだけなら、他人の痛みを背負う必要もなくなる。けれど、二人であったら痛みが分散されるというのは嘘っぱちだ。隣に誰かがいれば、人は余計な傷を受けることだもあるのだから。
 一人で生きれば正解だろうか?
 残念、それが簡単に受け入れられる世界じゃない。社交性を失って、自分の殻に閉じこもったらどうなるか、辿り着くのは良子や過去の俺が望んだ袋小路だ。一人であれ誰かといたとしても、手負いの者から傷つけられ、端から脱落して行くのがこの世界なんだ。
 だから、俺はそんな狭量な、この現象界の営為ってやつを簡単に認めたくないんだろう。
 良子の手を握る。
「気にすんな、問題ないさ。問題なくしてやる」
 この熱があれば、俺はまだ戦える、そんな気がした。
「何これ、ひどいよ……」
 子鳩さんからは同情。本気の声だった。もちろん子鳩さんの指示など疑う気もない。誰かが発した嘲笑の声は、教室の中を小さく響いた。
 そうして、魔竜院動画の調査よりも、この件の犯人を洗い出すことが優先事項となった。
 これについては、思考の時点で犯人を絞りやすい。まず、ほぼ確実に複数人での作業であったことが推測される。少人数で行うには発見されるリスクが高く、見張りも必要となる。机二つを運んだと考えるなら、男子が含まれていることも可能性としてかなり高いだろう。ただ、手口が男子にしては間接的であり、指示役には少なくとも女性がいたと考えられる。
 そして同時に、俺か良子、あるいはその双方を排除したい人間である。とは言え、子鳩さん支持層の仕業であると言い切るには早計かも知れない。女性が指示を下している可能性を考えれば、比較的人望のある大島もかなりの有力候補と言える。
「大島」
 訊いてみるが早い。
「なに。辛気くせーツラしてんの。席戻れよ、アタシは何も知らねーって」
 投げ遣りに手を振る。
 大島の行動がクラスに於けるバランサー的ものだと考えれば、彼女が矛先を向けるべきは子鳩さんなのだろう。しかし一度子鳩さんを認めた手前か、手を下すには躊躇いがある。そんな感情を読み取ったのは深読みだろうか。
 恐らく、今の大島に俺たちに攻撃する利点は無いと踏んだ。
 昼休み、俺は昼食をとらずにクラス外で調査に奔走した。
 古い探偵ゲーよろしく、手当たり次第の人間に質問をぶつける。こういうのは足を使うに限る。とにかく総当たり。
 ラウンドロビン佐藤とでも呼ばれるかも知れない。実にディテクティブ。
 足を使った調査は、しかし全て空振りに終わる。誰一人、机を運ぶ人間を目撃した回答は無かった。そもそも質問に答えた人間が少なかったのだ。
 妄想戦士を見るような目に、質問した相手の口から漏れた魔竜院という言葉。
 不幸中の不幸か、魔竜院動画の件がクラス外に知れ渡っていることがどうやら判明したようだ。
 クラス外での聞き込みをやめ、良子へ友達申請をしていた小松さんに質問をする。浮動層に近い彼女なら、この件について詳しいのではと考えた。
「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「あまり話しかけないでくれる。魔竜院クン、佐藤良子の共犯でしょ」
 笑顔で人を罵る小松さん。期待した言葉とは全く逆の攻撃性だった。間違いなく彼女は、クロだ。
 それだけじゃ終わらない。小松さんだけじゃなく周囲からも笑う声がする。
 一人犯人グループを掴めたところで大した問題じゃない。かなりの人数が関わっているということだ。
 手詰まり、九回裏9-0スリーアウト試合終了。
 俺が認識しただけで、この事件に関わったのは十人を超えそうだった。
「ねぇ、魔竜院クン。佐藤良子を子鳩さんに近づけちゃだめだよ。子鳩志奈子を中心に、世界は普通の人間以外の手で回るんだよ」
 後ろに立っていた女子が告げる。
 祝詞を告げる荘厳さをもって、天上から地に手をさしのべるような仕種で、俺に。
「――お断る」
 だけど、そんなのは知った事じゃない。
「ねぇ、俺は子鳩さんへの信仰そのものを否定する気はないけど、あんたらが俺や良子の邪魔をするなら、喜んで敵に回るよ。すまないけど、俺を脅迫するのに必要なネタなんて、もう犯罪行為でもしないと見つからないんで」
 静かに怒りを吐き出した。守りたいものがあれば、ヒーローっぽさなんてどうでもいい。
 取りあえず、脅しをかけては見たものの、その日から俺と良子は学校を休むようにした。自主休学。ある意味ではあいつらの望みどおりってわけだ。家族の説得には苦労すると思われたが、どりせんの参戦によりすんなり自主休学は受け入れられた。これまでほとんど問題に関わらなかったので、このくらいは当然といえば当然。
 しかし、サボりを勧める説得に向かう男性教師ってどうなんだ。
「ごめんよメンズ。本当の僕は校規の戦士じゃないんだ」
 どりせんは笑って言った。俺は少しだけ優しい気持ちで、
「いつか寿命で死ね」
 婉曲的な感謝の言葉を返した。