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『魔竜院 THE MOVIE』AURA二次創作

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 サボりってのは、一度覚えると癖になりそうだ。謹慎とは違い、家の外に出ようと自由である。フリーダム万歳。
 せっかくなので、良子とデートの約束をしてみた。戦士たちの束の間の休息ってわけだ。
 待ち合わせ場所は駅前。目的地は一駅隣の繁華街であり、そこまで大した距離もないけど、近所で待ち合わせをして学校関係者に見とがめられないための配慮。
 ちょっとしたスパイ気分で、こそこそと目立つアクションをしながら駅前に向かった。ぶっちゃけ浮き足立っている。もうずっと、髪の毛のセット具合ばかり気にしている。
 そんなこんなで、先に到着したのは俺だ。
 やっぱり平日の午前中となれば駅前も普段に比べ閑散としている。客待ちタクシーのおっさんは暇そうにマガジンを読んでるし、ホームレスのおっさんは錆びたチャリで出稼ぎに向かってる。
 ムードゼロだった。
「脳みそ役に立たねぇ!」
 頭を抱える。もうちょっとセンスある場所選ぼうぜ俺。
 腕時計を見れば、九時四十五分、まだ待ち合わせの時刻にはしばらく余裕があった。
 時間の余裕は心の余裕であり、今の俺なら良子に大人の態度で挑めるはず。さぁ、来い。
「い、いちろう……」
「お、おう……」
 もう来たのかよ。早いよ。心の準備台無しだよ。来いとは思ったが、そりゃテンション上げるための掛け声みたいなもんだよ。
 どうやら、二人揃って浮き足スタンダードだったらしい。
 やってきた良子に目をやる。
 暖色なニットのカーディガンに、ぴりっと映えるショート丈の黒いプリーツスカート、頭に乗っけたカナダ先住民っぽいニット帽が全体をやんわりと仕上げ、まさに俺の夢想が体現されていた。
 一言で述べるなら、優しくもまばゆい慈母のような光を思わせ――。
「なにこれ」
 いきなり言葉選びを失敗した。口の方は脳との接続がキャンセルされたらしい。
「あぅ……一郎……」
 良子も不安そうな顔だ。これはどうにかしないと。抱きしめてみるべきなのかそうなのか違うのか?
「説明するけど」
 そんな事を思っていたら、背後から姉貴が現れた。寿命が百年縮むレベルで心臓止まった。
「どうしたんですか……」
「とりあえず、私が一郎の好みを叩き込んでみた。メイクとかは本人がやったままにしてる。ま、ちょっと髪型とかいじった。私の作品、壊して帰ってきたら殺す」
「ありがとうございました……」
「礼はいい。あとでギャラはもらうから」
 実の弟から金取るのかよ!?
 それでも、これほどの出来映えなら、ギャラ提供にもやぶさかじゃない。さすがはプロ。
「ばさら」
 颯爽と消えて行った。姉さん多分まだ仕事中だ。
「いちろう……これでは、魔法耐性がっ……」
 未だに良子は軽く怯えていた。というか、恥じらってるんだろうなこれ。
「リサーチャーは、一郎にエンチャントを要請……」
「エンチャントって何さ?」
「対象の口唇と口唇を重ねる粘膜的接触」
「公衆の面前でそんな事出来ませんって!」
「じゃあ、肉体的接触……」
 それもかなり不穏な言葉に聞こえるけどな。
 良子は俺の腕に、自身の腕を絡めた。寄りそう身体、伝わる熱量、プライスレス。
「ま、まぁそのくらいならなんとか」
 これが、俺史に以後燦然と輝く最初のバカップル宣言だった。
 そんなこんなでデートを開始し、まず向かったのは久米さんの露店。
 何というか、今日の良子は俺から離れる気配がない。繁華街へ向かう行程中、ずっと寄り添っている状況だ。イジメが堪えてるのか、今日は特に俺離れが出来ていない。
 その体勢のまま大きな瞳がぎょろりと俺の顔に固定したりするので、俺の赤面ゲージが上昇著しい。余裕ゲージにいたってはもうエンプティ寸前だ。
 ああ、道行く人々が俺を笑ってゆく。笑わば笑えってんだ。せめて今日は、怒や哀なんかより喜とか楽に囲まれたい。
「いらっしゃい。佐藤くん、と彼女さんかぁ。久しぶりだねぇ」
 到着するとハンチング帽の久米さんが気さくに挨拶を飛ばす。相変わらず愛嬌のある人だ。
「竜の釘の件以来でしたっけ?」
「そうだったかな。まぁ、商品も大して増えてないけど見てってよ」
 頬を緩ませる。久米さんの人懐っこいオーラに癒されそうだ。
「それはそうと、廃墟探検の件だけど」
「そ、それはまた次回で。あと、一つ教えて欲しいことがあるんすけど……」
 デートスポットに詳しくない俺は、久米さんの助言を請い、カード屋さんへと向かうことに。
「毎度あり」
「じゃあ、また」
 露店を離れる。胸の辺りが少し軽くなった。(物理的に)
 さて、大通りを一本脇道に入れば繁華街の賑わいも少し寂れた趣になる。久米さんが即席で書いた妙に上手い地図を元に、そのカード屋を探す。
 ほどなく発見。
「ここかぁ」
 少し煤けたビル群の中、平日にも関わらず子供たちで軽い賑わいを見せる一角があった。
 その店はビルの一階。ガラスの貼り紙にある『マジック・ザ・ギャザリング』や『遊戯王』といった文字がすぐ目に飛び込む。
 入ってみれば店内も結構狭い。メインは謎の対戦テーブルで、他はほとんどがガラスのショーケース。対戦テーブルの周囲では、子供たちの群れが目の前のバトルに興奮している。
 カードなんて薄っぺらな商品だから、もう少しデッドスペースを減らすことも出来ように、あえてそれをしないところにこだわりを感じる。
 ちなみにメガネをかけた店主は寡黙そうで多弁だ。子供が話しかけると、実にレスポンスがいい。
 俺も話しかけてみる。
「すみません」
「…………」
 俺、この人嫌い。
 仕方ないのでゆっくり商品を見ようかと思ったが、さっきまで腕を組んでいた良子の姿がない。
 辺りを見回してみると、あるショーケースに釘付けの良子を見つけた。
「どうだ、何か面白いものあったか?」
「一郎……これ」
 良子が指さした周辺は英語で書かれたカードばかりだった。これは『マジック・ザ・ギャザリング』の英語版なんだろう。
「楽しい、気がする」
「ああ、そうだな」
 幻想的なイラストの天使や騎士、英語だけど強そうな名前のキャラの群れ。英語は部分的にしか読み取れないけどそれでいい。こういうのは想像する余地が多いほど楽しいのだ。見えない世界を埋めてゆき、新たな価値を可視化するその作業、俺が大好きだった世界。
 それは多分――良子にとっても。
 今の俺にはどう映るのだろう。直視出来ないわけじゃない。ただ、心の動きは上手く認識出来ない。
 目立つところにあった、一枚のカードを見てみる。名前は『Proposal』。
 値段を見て笑いそうになった。恐らくレアカードなんだろう、桁が違いすぎるのだ。
「想像の世界が生み出す価値か」
 少なくとも、眼前には目に見える価値があったのだ。見える、では手ぬるい。目が飛び出る価値だった。
「一郎は、これを買いプロポーズを」
「しませんて」
 ひとしきり店内を覗いたあと、満足した俺たちは店を出た。
 メガネ店主は俺が店を出る寸前に一言、「結婚式は是非ここで」センスのない冗談を俺にぶつけた。
 良子と食事したり、ウィンドウショッピングをしている内にもう夕刻。