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『魔竜院 THE MOVIE』AURA二次創作

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 高校デビューに失敗した。
 それはもうギネスワールドレコーズ級の失敗だ。
 学校の廊下という廊下を俺が歩けば、どこからともなく「よう、魔竜院」「おはよう、光牙くん」「ご機嫌麗しいようで何よりだな、佐藤――飛霊、いや、光牙よ」
 歩けば棒に当たる方がマシだった。
 横スクロールアクションなら衝突即死亡の敵キャラがまるで剣林弾雨、弾幕レベルで俺を遮ってくる。
 奴らはそのまま、俺の未来を遮る悪魔にしか見えない。
 良子が起こした神殿の一件以来、悪魔は「魔界大全ここにあり」とばかりに姿を表しまくった。これでも落ち着いた方なのだ。
「佐藤一郎です。佐藤一郎です」
 ほとんどマシンボイスで真名を主張しながら、俺は下駄箱から教室へと到る悠久の旅路を往く。弾幕は全無視だ。俺は都合よく自分の殻に閉じこもる新時代の社交性を身につけた。
「一郎」
 真名を呼ぶ声。今じゃ俺マイノリティ界の頂点に君臨する少数派だ。
「なんだよ」
 俺は音源――隣を歩く佐藤良子に振り向いた。今では青の魔女の装いから放たれ制服姿。素材に見合った薄めのメイクが女子の魔性をうかがわせている。
「一郎はもっと堂々とするべき」
 もっともな意見だ。
「堂々と剣士服を纏うべき」
「却下します」
「剣士、かっこよかったのに」
 ほめられると少し照れてしまう。
「どことなく粗い造形がワイルド」
「服の方かよ!」
 会話を続ける内に教室へ到着した。
 良子の突飛な発言には戸惑いながらも、多分、少し癒されている。以前は嫌な気持ちだった良子同伴も、受け入れた今では何か心地が良い。
 高校デビューに失敗した。
 それから俺には、恥ずかしい通り名と、結構イタい彼女が出来た。
 教室の扉を開く。どりせんのカミングアウトによる狂乱絵巻も、時間が経った今では落ち着きを取り戻してはいたが、教室の雰囲気は以前と少しばかり変わっていた。
「来たか、飛霊」「魔竜院一族の剣士よ。我が太刀を受ける覚悟はあるか」「<アカシャ断章>に遺された―――」「<邪聖剣士ツヴァイ・バンダー>であるこの俺が魔竜の剣を―――」
「佐藤一郎です。佐藤一郎です」
 ガン無視をキメる。
 それでも無視出来ないのは妄想戦士比率の変化だった。
 あの狂乱の一件以来、クラスに於ける『普通』の定義がパラダイムシフトを起こした。集団内で中心とされる点を形成する層というのは、案外流動的なものであるらしい。
 率直に言えば、玉虫色をキメ込んでいたグループが一気に妄想戦士側に流入した。もとより、どりせんの策略によって集められた人員であり、各々妄想戦士的素養もあったのだろう。ともあれ、それにより大島弓菜や高橋裕太を中心とする一軍層はパラダイスロストさながら、エデンからの追放を余儀なくされた。多数派という暴力は個人の持つ力に勝るという、そんな世知辛い話。
 俺の空気読解能力<エア・リーディング・スキル>は、忍び寄る違和の気配を感じ取る。
 いや、気にしたところで俺がどうする問題ではない。次々と襲いかかる妄想戦士をちぎっては投げながら、席に着いた――ところで、右斜め前に座る子鳩さんの読む小説タイトルが目に飛び込んだ。
 『〇〇〇〇○の××』俺は視覚による認識を放棄した。萌え萌えっとカリカチュアライズされたイラストが目に飛び込んだが俺は気にしない。大丈夫だ。おそらく風の谷の崖の上の魔女の動くのそんなサムシングだ。憂鬱など、ない。
 ハッピーエンドの後の如くどこか浮き足立った世界は、俺に不安ばかりを抱かせた。安息の永続など何処にもないのだと、告げるように。
 さて、良子の授業態度に関しては以前よりも良くなった。すっぽん鍋が雑炊付きになったくらいの変化だ。
 亀の歩みではあるが、月の歩みを望むつもりもない。
「一郎、教えて欲しい」
 隣の席の良子が問いかけた。
「どこだ?」
「ここ」
「ああ、そこはな……」
 教授する。最後列に座っているので、私語をとがめられる心配はなさそうだ。
 壁にぶつかったとき素直に訊くようになったことも、些細だけれど進歩だ。
「現象界の数式は現象関数のクラックシステムより難しい」
 文句をいう良子。
「そりゃ当然だ。お前の外にある世界を勉強してるんだからな」
「うん。一郎、ありがとう」
 素直な笑顔と感謝。
 日進ムーンウォーク、三歩進んで二歩下がる。それも悪くないと思う。
 二限終わりの休み時間、俺はどりせんに呼ばれ廊下へ向かった。
「ついてこなくていいから」
 良子、ストーキングすること雛鳥のごとし。
「冷たい、一郎。リサーチャーは"かまう"コマンドを要求」
「すぐ戻るって」
「むー」
 良子をドアで分断。諦めてくれたらしい。
 扉の外に出ると、壁に寄りかかったどりせんが挨拶する。人を呼んでいるというのに、問題作成でもしているのか、何か書いている。
「やぁ、どりせんだよ」
「自己紹介要らないんで」
「本職は<光輝の戦士>だけどね」
「容赦ない豆腐の角にぶつかって殉職してください」
 どうもこの学校には、本題から話そうとする人間がいないように思う。
「そんな手厳しいメンズに、頼みたいことがあるんだけど」
「お断る」
 殺意の波動で、つい敬語が抜けてしまった。
「ええっ? そんな、まだ何も言ってないよ」
「何となく、内容がわかりますし大却下」
 恐らく、クラス内の妄想戦士増加による不均衡関連。
「内容が分かるとは僕の心を見抜く万里眼。さすがは僕が認めたメンズだね」
 くそ、ヤブヘビか。
 どりせんは俺の隙を見抜くように畳み掛ける。
「最近、戦士症候群じゃない方の生徒から、僕の元にクレームが来てね。どうも最近居心地が悪いとかどうとか」
「自業自得じゃないですか!」
 ある種、どりせんが自分の趣味で人を集めたようなクラスであり、こういったトラブルが発生することは自明に近い。どりせんの人間力でそれを見抜けないわけもないと思うけど。
「まぁ、そうなんだけどね。というかここまで前置きで、端的に言えば他クラスから馬鹿にされてる生徒が最近増えてるみたいなんだ」
 そうか。うちのクラスが妄想戦士の学級という集団単位で認識されてしまったということ。恐らく、一般生徒として個別に捉えられる閾値はもう超えてしまっているのだろう。
「で、それに俺と何の関係が」
「いやね、メンズ的には外から妄想戦士と思われて良いのかなって」
 どりせんにしちゃ珍しい、あからさまな挑発。
「……だとしても、俺は他人の黒歴史まで引き受ける気はないんで」
「一応、クラスの中でも中心点の近くにいるメンズに、調停官を頼みたいだけなんだけど」
「超お断りです」
「そうかー。いやぁ、残念だなー。あ、メンズって元戦士だから漢字とか詳しいよね? ちょっと教えて欲しいんだけど」
 どりせんが何やら書いていた紙を指さす。
 指先を追うように覗くと『調査書別紙/佐藤一郎』の文字。ザ・内申書。
「またコレか!」
「校規には、不純異性交遊に関する条項があってね」
「まさに校規の戦士!」
 俺は笑顔で露骨な脅迫をする男性教師が大嫌いです。
「いやー、自分で何とかしたいけど忙しくてね。引き受けてくれるよね?」
 断れるはずもなく。
「……二度あることが三度なければ」