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『魔竜院 THE MOVIE』AURA二次創作

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「八八八、女の子に失礼だよメンズ。とにかく座ってくれるかな」
 勧められるまま、どりせんたちと向かい側のパイプ椅子に腰掛ける。気が向いたら凶器にしてくれよう。
「ところでこの悪趣味な集会は何ですかね。返答次第では問答無用の斬捨御免」
 どりせんに言い放つ。
「こ、交渉の余地があるのかないのか……」
 織田が少し竦み上がる。サドっ気のある俺じゃないけど、ちょっといい気分。
「ここは少し腰を据えてオチケツといこうじゃないか、メンズ。今回は少しくらいマジメな話になるからね」
 どりせんが眼鏡の奥の眼光を鋭くさせる。疾る緊張感。
「言ってみてください」
「布団がふ――」
「くだらない駄洒落飛ばしたら、内申書を犠牲にしても不慮の事故で死なす」
「まー僕は緊張感っていうのが苦手だからね。アハハー。取りあえず、わざわざこの三人になったのは理由があってね」
 ようやく本題に入る様子だ。笑っているようでも、それほど和らいだ表情ってわけじゃない。
「ああ、魔竜院……いや、佐藤は恐らく直接話しかけても拙者を拒むだろう」
 それは正解だ。
「訂正させてもらえるなら、間接的にでも、だけど」
 現実は見た目より厳しい。少なくとも彼女らが妄想戦士である限り近づきたくないのが本音だ。今の状況だって、俺には痛みを伴う。俺は狭量だ。
「そんなわけで、僕が間に立って会話出来る状態に持っていこうとした、と。言ってみれば付き添いだったわけだね。そんなわけで僕はお役御免だ」
 どりせんはその言葉を残すと、マジカルな回転をしつつ生徒指導室から姿を消した。どういう仕組みだ。
 さて、織田と一対一で正対。
「この緊張感……決闘を果たしたくなるな、魔竜院」
「さようなら俺超帰る。光陰矢のごとく帰る」
 <光陰矢>という魔矢が存在すると思っていたあの頃の記憶が蘇った。
「冗句というものを解せ」
 戦国時代だったらクビキリブレードしてるところだてめぇ。
「本題に入ってくれよ。空間両断跳躍で斬竜刀顕現させるぞ」
「了承した。それで、だ。元々、佐藤のいう妄想戦士の側にいた人間は他者との結びつきを拒む節があった。拙者とて、対話を好む趣はない」
 十秒前にジョークを発した奴の台詞かそれは。
「最近は、子鳩さんたちとも何とか絡めてるみたいだけどな」
「……偶然だ」
 本人の言うとおり、子鳩さんたち以外とは相変わらず断絶しているし、基本的には良子にべったりである。
 俺にとって織田は妄想戦士側の中でも話しやすい人間だ。好意が俺でなく良子に向けられていることもあるだろう。
「本題に戻る。最近、こちら側の人間が増えたことは佐藤も知っているだろう」
「ああ」
 頷く。
「その中には、以前から拙者たちを見下してきた人間もその中には含まれる」
 ――ああ。
 口にはしなかった。
 人が一定量集まると、流れが生まれる。しかもその量がよほど多くない限り、流れは相対的な感覚に動かされやすい。つまり、一時的な感覚で集団は変わってしまえるものなのだ。
「彼者たちは、未だに拙者たちを軽侮しているように見受ける。しかし、それ自体に問題はない」
「じゃあ、何が問題なんだ?」
「元来、自分の妄想に規則も通念も美学的講釈も在らず。ただ、彼らは一定の規範をそこに見出し、美的感覚を欠く、と他者の考えに口を挟むようになった。正直、やりづらい」
「つまり、カオス状態だったものに、X軸とY軸が生まれてしまったというわけか」
「喩えは解せぬが、そういうものかも知れぬ」
 横の繋がりと縦社会の形成。これもまた、集団内に発生しやすい事柄。個別的存在であった彼らに社会性が求められ始めたということだろう。
「理解は出来た。けど、なんで俺に相談した?」
 多分、この答えを俺は知っている。
「光輝の戦士の導きだ。佐藤に相談すれば、たちどころに落着するとな」
「期待はするなよ」
「元より色魔たる貴様への期待は過剰になり得ぬ」
 そして、短く長い会話を終える。
 魔法が使えるようになったら、まず記念に織田とどりせんをニフラムしようと思った。
 それから数日後、俺の緊張は頂点に達していた。
 昼休み。本来なら子鳩さんたちと食事をしている時間である。そんな時間に呼び出し。俺の癒し時間は最近、運命の悪意に削られ気味だ。
 緊張の原因というのも、今回俺を呼び出した相手にある。どりせんではない。
 大島弓菜。女王蜂だ。
 しかも場所の指定は屋上ヘ向かう階段の踊り場、呼び出すための紙は丁重に俺のペンケースの中に忍ばせていた。
 素晴らしい隠密性。ちょっとした完全犯罪を匂わす周到さだ。
 跳ねる心臓を抑えながら階段を登る。これが処刑台のそれでないことを願うばかりだが、如何に。
「あー、遅かったな。佐藤」
 俺の想像と違い、大島は取り巻きの女子を帯びることもなく、一人で階段に座っていた。
 やる気の無い顔でケータイをいじる姿は何とも緊張感に欠ける。
 大島が足を組み替える際、短いスカートの太もも上部からストライプの布地が覗いた。
「……なに?」
 質問する俺の緊張を見抜いたように、大島は座ったまま俺を見上げ言う。
「構えんなよ、別に今更W佐藤どうこうしよーって気とかねぇし」
 手を振る。俺は相好を崩した、ように見せる。
「とりあえず、何の用」
「おめーさ、あたしのこと悪者とか思ってる? 別にいーけどさ」
「いや、まぁ、やり方はともかく、大島の主張を否定する気はない」
 そもそも、良子をハブった時の大島の主張にはそれなりに正当性があった。あの時の良子は罰されかねない態度をとっていたにも関わらず、どりせんの超法規的措置やらでほぼ一切のお咎めを受けていなかった。
 そんな良子を自分で罰したいという人間が現れてもおかしくは無い。
 むしろ、現れるべきだった。
「ま、取りあえず、見て欲しいモンがある」
 大島は開いたままのケータイを差し出す。この流れは以前と全く同じ。一つ違いを言えば、今回は俺と大島の一対一ということだ。
 ケータイから発するオーラは、分からない。もしかしたら、以前感じたそれは場の空気から推測されたものだったようにも思える。
「一つだけ言っとくけど、この件にはあたしらは一切関わってないから。そこだけ確認。いいね」
 ディスプレイに映るは、ケータイ向けのWebページ。簡素な作りのインターネット掲示板。以前も目にしたことがある。
「この学校の、裏サイト?」
「ごめーさつ」
 大島は更に書き込みを下方、過去へと遡っていく。数日単位で一件有るか無いかの書き込み。特別目に止まる無いようはない。
 キーを押す手を止める。そこにあったのは一つのリンク。
 添付ファイル付きの書き込み。ファイルは3gp、確か、動画ファイルだ。
「再生すっから」
 決定ボタンを押下する。
 そこからの光景はスローモーションだった。
 漆黒に染められた肩アーマー付のロングコートを身に纏い、手には模造刀を構えたディテールの粗い剣士コスが、衆目に晒されながら走っていた。野次る声、周囲の哄笑が、音の割れたスピーカーからも伝わる。
 顔も確認出来る。最近のケータイは無駄に高性能だ。だが、確認する必要はない。
 そこにいるのは間違いなく俺だった。