『魔竜院 THE MOVIE』AURA二次創作
「だからこそ、俺はお前を恐れることはない。さらば、魔竜院光牙。過去の、我が苦悩よ」
そして、黒衣の魔竜院はその場を去った。その瞳は先刻とは違う、新たな輝きに満ちている。救うべき者をその視野の内に捉えた瞳だ。
彼の内面的変化は一つの祝福を彼に与えた。降り続いたはずの雪が止んだ中、望んだ者のうち、一人の姿を目にする。
「お兄ちゃん……」
妹だった。敵に利用され、精神汚染魔術に自我を奪われた筈の娘。けれど、誰よりも深い絆で結ばれた、たったひとりの―――。
魔竜院は無言で彼女を抱きしめた。そう、"零式"の放つ聖光の祝福《ブライトライツ・ホーリーランド》により、彼女は自らを取り戻すことに成功したのだ。強く、強く掻き抱く。
「お兄ちゃん、いたいよ」
病弱な娘だ。それでも、魔竜院は手加減の一切を出来なかった。
「ごめんな」
一言だけ。そして彼は、二度と放してはならぬ、その細く小さな手をそっと掴んだ。
「もう――放さない」
「当然、なんだから……」
重なった影の主に涙はあっただろうか、誰も知らぬ。そう、ここで行われた一切を現実界の誰もが知らぬ。現代日本、鏡の裏と表の狭間、此処で繰り広げられし異世界の者たちのドラマを知る者は、語り部《ストーリーテラー》を除き、誰一人存在しない――――
<魔竜院伝承 断章より抜粋>
作品名:『魔竜院 THE MOVIE』AURA二次創作 作家名:白日朝日