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『にんげんさんの、ゆりいか』人類は衰退しました二次創作

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 自分を貶めず部下に全力を尽くさせる、これが有能なる上官の仕事というやつです。
 しかし、P子さんは本名判明しても自分をぴおんと呼ぶのですね。
 さて、P子さんを連れてYのもとに合流します。
「これが噂のパイオニアか。本当に人間と見分けつかないな」
「深宇宙探査機であります!」
 P子さんはYに敬礼。
「よろしく」
 そして、シェイクハンド。
「いったあ」
 Yの悲鳴とP子さんの謝る声が森の中にこだまするのでした。

 Yに連れられ目的地へと歩くこと十数分。この暑さと湿度により汗ばむ身体の肉体的ペインがいやが上にもお風呂欲(命名:入欲)を高めます。
「ああ……お風呂に入りたい」
 ぼそりと。
 さて、しばらくゆくと黄色いロープのようなものが張ってありました。ここからは妖精さん警戒区域として調停官同伴者以外の立ち入りを禁じているようです。
「この先については?」
「妖精の姿は多数確認されたけど、その他の件に関しては不明だ。話によればさっきも多くの妖精が目撃されたらしい」
「なるほど。とりあえずゆけばわかるさ、と」
「そういうことだな」
 歩を進めてゆくと、漂う異様な臭気。
「なんでしょうね。これ……」
「うん。この臭気もあってあまり近寄る人間がいなかったみたいだ」
 ハンカチで口元を抑えながら二人。
「P子さん、成分の解析は出来ますか?」
「おまかせて欲しいであります!」
 そして解析すること数秒、P子さんの頭から「チーン!」という音がしました。
「どうやら、これは硫化水素ガスですね。今のところ人体に影響のない濃度ですが、長時間嗅いだり低地に溜まり濃度が増すと悪影響がありますので、気を付けた方が良いかも知れません、であります」
「なるほど……」
 またしばし歩くと、妖精さんが現れました。
「びーばのんの」
 妙にホカホカしています。あれは、湯気……?
 先程の硫黄の香りや都市遺跡周辺にあがった煙から察するに、もしや。
 いてもたってもいられずに、わたしは妖精さんをゲットすると、尋問調で問いかけました。
「温泉があるんですよね……! この先に」
 だから楽しい度が上がってこんなことになっているのではと思うわけです。最近の発掘により、地下深くまで掘削された結果温泉が湧き出た……と。
「にゅーよくへいきたいかー?」
 妖精さんが変な掛け声を上げます。
「是 非 に!」
 わたしたちは大陸横断ウルトラ調査を一旦ウルトラ中断して、妖精さんのいう温泉へ向かいました。まあ、恐らく今回の件に深く関わっている場所なので構いません……よね。
 そして、たどり着いた先にあったものは―――
「ユリーカ……」
 うっとりとした表情で呟いてしまいます。たちのぼる温かな熱気、湯気にけぶる周囲。ここは周りの喧騒から隔離された楽園でした。岩に囲まれた広大な浴槽には、多くの妖精さんが魂の抜けたような顔でぷかぷか浮かんでいます。
 サウナのような施設から、流れるお風呂に泡の出るお風呂……まだ、旧人類さんのやる気があった頃には多く存在していたとされる《スパ・リゾート》を再現したようです。
「ねぇ、Y……脱いでしまいましょう」
 上気した顔でわたしは眼鏡の曇ったYに話しかけます。
「は?」
「入るんですよ。お風呂に」
「いや、職務はどうするんだよ」
「妖精さんの多くがここにいるのですから、むしろ入った方がはやいと思いませんか」
「まあ、言われてみれば……」
 徐々に説得されつつあるY。どうやら、彼女も温泉の誘惑には勝てない様子です。
「けど、水着なんてないぞ」
「たおるかしだせますがー」
 素敵なタイミングで妖精さんが、バスタオルの貸出を進言なさいます。
「重畳です」
 妖精さんにチップ代わりのビスケットを渡すと、高速で着替え、バスタオル一枚、温泉へと足をつけてみました。
「うーん、適温」
 摂氏にして42度程度でしょうか。ちょっと熱いくらいが一番気持ち良いのです。
「あれ、YとP子さんはまだ入らないんですか」
 P子さんは「硫黄に浸かるのは劣化の原因になるので」と自重しました。
「眼鏡がないから、微妙にやりづらいんだ……」
 Yは既に上半身だけ裸体です。なんか、わたしよりスタイル良いのが腹立たしい……。
 わたしは腹立たしさに身を任せ、Yの元まで近づくと、思いっきりズボンを下げてやったのでした。
「みぎゃーーーーーー!!!」
 一気に全裸。纏うものなき真実の肉体性が白日のもとにさらされます。
「何するんだ!」
 即座にバスタオルを体に巻き付けるとYは激昂します。
「ナイスバディ!」
 わたしは全力の笑顔とサムズアップで返しました。もはや、今のわたしに冷静な反応は不可能です。
「取りあえず、湯船に浸かる……」
 Yは大層疲れた顔をしていました。
「しかし、こうやって長時間一緒にいるのも学舎以来ですね」
 温かいお湯に浸かって上機嫌なわたしは、普段ならしないような思い出話に湯の花を咲かせます。
「まあね」
 それを警戒する様子もないY。いつの間にやら、互いの弱みを握っているリスキーな関係性も、普通の友人関係に形を変えていたように感じます。
「しかし、お互い変わりませんね」
「そりゃそうだ。卒業してから実質数カ月しか経ってないんだからな」
「色々なことがあったように感じますよ。わたしは」
 妖精さんの文明成長を見たり、小さくなって旅をしたり、遺跡に迷い込んだり、湖上の島に王国を築いたり。
「成長してるってことじゃないの……知らないけど」
「そうであったらいいですね」
 いつしかおじいさんに馬鹿にされなくなる日が来るのでしょうか?
 それまで、なんとか頑張りたいものです。
 そうやって、しばらくYと会話をしていましたが、そろそろ妖精さんにお帰り願うための策をとらねばなりません。
「というわけで、P子さん。温泉の水を地下水脈に戻し、現在の湧水口に蓋をしようと思うのですが、出来ますか?」
 風呂から上がったわたしたちは、再び衣服を見にまといP子さんにニューミッションを与えます。
「お安い御用であります!」
 そうして、P子さんの作業が開始されます。
 小一時間もしないうちに、泥んこになったP子さんがわたしたちの元へ戻ってきました。超便利だ……
「作業終了であります! これより、この温泉の排水を始めます」
「お願いします」
 轟音をあげ流れゆく硫黄泉。一気に水位が下がってゆく様は壮観でございました。
 途中、数名の妖精さんが「おわた」「のまれゆくです」「のんでものまれるな」「ながれにはさからえぬです」と排水とともに流れて行きましたが、多分問題ないでしょう。
「さっきの妖精、大丈夫なのか?」
「ええ。もちろん」
 こういう嘘が上手くなったのは、成長と言えるんでしょうかね。

 ともあれ、今回の職務は一応なりに完遂し、学者さん達の信頼もいくらか取り戻せたように思えます。距離の関係上日帰りは難しく、テントに戻ってからは簡単な打ち上げのようなものを開いてくれるとのことでしたが、辞退させていただきました。
 そして、翌日の早朝。まだバッテリーの余っているP子さんに運転を任せ、わたしはチャリオットに乗り込みました。