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 どうやら7年前に飛ばされたらしい僕は、当然ながら行く当てがなかった。そして着の身着のまま出て来てしまったのもあって、勿論お金も無かった。一泊位ならば安いビジネスホテルに泊まる事も出来たが、一日で戻れる保証など何一つない。そして今が冬だというのも災いした。夏であったならば野宿も出来ない事もないのだが、流石に今の季節では凍死してしまう。
 浮かんだ可能性を次々と潰されていき、いよいよもって困り果てた僕はもういっその事昔の自分の所へ転がり込もうかとその算段を立て始めた。
 当てもなくそこらを歩き回り、ああでもないこうでもないと頭を巡らせる。そうやって熟考していた所為か、思い切り人とぶつかってしまった。
 物凄い衝撃に引っくり返りそうになり、何とか寸でで踏み止まる。対して相手はまさにドシンとでも擬音が付きそうな勢いで尻もちをついていた。何だか痛そうだ。その原因を作り出したにも関わらず、ぼんやりと他人事の様にそう思う。
 ぶつかったのはまだ少年だった。彼は学ランを着ていたけれども、然し一般的な学生のイメージとはかけ離れていた。頬が歪な丸を描いて膨れ上がり、口の端も切れているのか血が滲んでいる。そもそも勤勉なる学生は、今この時間帯は街中になど居る筈がない。
 正直、妙なのとぶつかったという感想しか持たなかった。変な難癖をつけなければ良いな、とも。ここにきて新たな厄介事を抱え込むのは、当然ながら御免だった。
 一応大人の嗜みとして手を差し伸べると、案の定物凄い勢いで睨まれた。そこでまた、ふとした違和感。おや、と思う間もなく今度は手を振り払われた。パシリと乾いた音が響いたが、それを気にする余裕もない。
 僕は彼の左腕、特にその装飾品に釘付けだった。

 それを口にする暇もなく、後ろから怒声が響き渡る。慌てた様にその場を立ち去ろうとする彼を捕まえて、こっち、と細い裏路地へと走った。
 戸惑いつつも素直について来る彼に小さく笑みを零して、右へ左へとひたすら走る。
 そうして耳障りな品のない喚き声も次第に聞こえなくなったところで、漸く立ち止まりホッと一息を吐く。横目でちらりと確認すると、彼は壁に凭れかかって呼吸を整えていた。

「大丈夫?ここら辺は意外と複雑なんだ。一旦撒けば、そうそう見付かる事はないと思うよ」
「…はあ、どうも」

 助けてもらった手前そう強気には出れないものの、警戒心を顕わにしたその目に、思わず噴き出しそうになる。ついむくむくと湧き上がった悪戯心に、序でとばかりに妙案が浮かんだ。じゃあこれで、と立ち去ろうとする彼の腕を掴んで引き止める。

「…何スか」
「ん?いやね。命の恩人にそれだけかと思って。最近の若者って皆そんな感じなのかな」
「恩人って…。随分恩着せがましい言い方するんだな、アンタ。大体助けてくれなんて一言も言ってねえし」
「善意で助けた人間に随分だなあ。まあいいや。キミんちどこ?」
「何で見知らぬ人間にンな事教えなきゃなんねーんだよ!」
「なんでって…お礼?して貰おうかと思って」
「は?礼ならさっき言っただろうが!付き合ってられっか!」
「あ、あんまり迂闊にこの辺迂路付かない方が良いよ。さっきも言ったと思うけど、ここらの路地って複雑なんだ。下手に動くと迷子になるよ」
「ふざけんなよ。仮令そうなったとしても、適当に歩いときゃどっかには出るだろ」
「――この間、同じように迷子になった人が飲まず食わずでぶっ倒れて運ばれていったばかりけど」
「………」
「――――どうする?」

 にっこりと笑んで首を傾げると、人を殺しかねない目で睨まれた。そうさせたのは僕だけれども、こちらも今後が掛っているから仕方がない。彼には何とか妥協してもらおう。人生何事も経験、そして諦めが大事だ。
 そうして半分脅しともとれる僕の言い分を呑み込んだ彼が案内した先は、言ってはなんだがボロアパートの一室だった。不承不承といった感じで部屋に招き入れる彼に苦笑を零し、お邪魔しますと一言呟いてから足を踏み入れる。
 必要最低限の物しか置かれていない家は簡素で、そして何処か寂しさを感じさせるものだったが、部屋の狭さを考えるとそういうものなのかもしれない。実際僕自身も7年前と云えば余り物を置かない主義だったし、男ならまあ、そんなものだろう。

「あんまジロジロ見るなよな」
「ん?ああ、ごめん。救急箱、どこかな、と思って」
「救急箱?」
「必要だろう?――ソレ、」

 指を指すと驚愕に見開かれた目で見詰められた。そんなに変な事を言っただろうか。さっさと手当てしないと、更に痛い目にあうのは自分だろうに。
 不思議に思い首を傾げると、ふい、と視線を逸らされる。一瞬泣きそうに見えたのは気の所為だろうか。目元が少し赤い。

「…自分でするから、別にいい」
「で、どこにあるの?」
「聞けよ人の話!!」

 ぽつりと呟かれた言の葉は聞かなかった事にした。思わず出かかった、するとか言いながら絶対にしないだろうという言葉も、大人の余裕でもって喉奥に押し込む。拗ねると厄介なのは多分ここでも同じだろうと踏んだからだ。そして多分、それは間違ってはいないだろう。

作品名:3315 作家名:真赭