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成王ログ

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※現代(?)パロです。苦手な方はご注意下さいませ。
コンビニでバイトするオドロキくんとそのお客なナルホドくんの、ありきたりなお話です。






 いらっしゃいませ、と極力声量を落としつつ、それでいて尚且つ大きめな声で来店した客へ向けて放つ。声が無駄にデカイと店長から苦言を呈された身としては、この微妙な匙加減が実に難しいのだが客商売なのだから仕方がない。幾ら元気が良いとはいっても、何事にも限度というものがある。デカければ良いというものではないという店長の言い分も分からないでもない―――が、如何せん地声が大きいのだから多少は大目にみてくれても良いのではないだろうか。ふとそんなことを考える。
 逆を云えばそんな事を仕事の合間に考える位には、此処に慣れたという事でもある。今し方入ってきた客を視界の隅に収めながら、王泥喜は小さく溜息を吐いた。

「これ、いいかな?」

 するりと視界に入ってきた手に、王泥喜は慌てて顔を上げ相手を見た。其処には人の良さそうな、それでいて胡散臭そうな中年の男が弁当とお茶、それから野菜ジュースを手に持って立っていた。

「今日もお弁当ですか?」

 レジに通しながらそう尋ねる。男は苦笑しつつ肯定の意を述べた。男の一人身は辛いよ、と肩を竦める姿を見るのはもう何度目だろうか。
 彼は此処の常連とも云うべき人物だった。厳密に述べるのならば王泥喜が此処へ来る以前からの常連客、らしい。
 どちらにしてもお得意様なのには変わりは無い。気軽に話しかける仲であったとしても客と店員なのには違いはなく、自ら話しかける時でも、またその逆であったとしても王泥喜は極力粗相のない様にと気を付けている。
 たかだかアルバイト一人の所為で機嫌を損ねられた挙句他店舗へと乗り換えられ、悪評でも立てられたらそれこそ申し訳がたたない。双方ともに、だ。
 悪評云々は多分するタイプでは無いだろうと踏んでいるが、折角互いに立場はあれど顔を合わせた時は気軽に二言三言話す程度には進展した仲である。今更悪い方面でもって印象付けられるのは気分が良くない。これは人として、だ。
 会計を済ませながら、毎度コンビニ弁当で飽きが来ないだろうかとふと考える。飽き云々以前に身体に悪そうだ。
 そこまで考えて、ハッと我に返る。下世話過ぎる考えに思わず頭を抱えたくなった。王泥喜の友人ですら一人暮らしをやっている連中はそんな感じだと言っていたのだ。それも働いているとなればそれなりに経済力もあるだろう男に、何とも失礼な話だ。
 思考を振り切る様にぶるりと頭を振り、王泥喜は釣銭を渡しながら温めた弁当を袋に詰める。お茶は手に持って行くから、という男にマニュアル通りの礼を云いながらシールを貼った。

「はい、これ」

 そう言いながら同じくシールを貼った野菜ジュースを、徐に目の前に差し出される。思わぬ出来事に王泥喜はぱちぱちと瞬きを繰り返し、相手を見やった。
 男はにっこりと笑んで、いつも頑張ってるキミに、ご褒美だよ、と静かにそう告げた。
 低く深い声音は不思議と心に沁み渡る。王泥喜には決して持ち得ないその温度は、経験と年齢の差からくるものだろうか。
 おずおずと差し出した手にぽんと置かれたそれは、酷く心地よく、そして面映ゆい気持ちにさせた。
 礼を云う王泥喜に軽い笑みで応えと返し、男は去って行く。
 その後ろ姿を呆、と眺めながら、王泥喜は今度弁当でも作ってみようかと、矢張りぼんやりとした思考の中、そう考えた。


end.

作品名:成王ログ 作家名:真赭