逆裁ログ詰め合わせ
「ねえ、パパ。これ見て!みぬきがつくったんだよ!」
そう言って差し出したのは二つの折り紙。友達に教えて貰ったそれを自慢げに見せると、パパは上手だね、と笑ってくれた。
それに嬉しくなって飛び付くと、迎える様に優しく抱きしめてくれる。この大きな腕が、逞しい胸が、広い背中が大好きだった。
猫が甘える様に頬を擦り寄せると、頭上から緩く笑う気配がした。つられてクスリと笑みを零す。
「でも、どうしたの?これ」
不思議そうに問う声に、顔を上げてにっこりと笑う。それに返される笑みが嬉しい。
パパの笑顔は不思議だ。胸にほっこりとした熱を齎してくれる。
私はパパの笑顔が大好きだった。
「おしえてもらったの。おひなさまだよ!」
「……オヒナサマ」
「うん。だって、明日はひなまつりでしょ?」
だからこれ、ここに飾っておこうよ。
そう言ったのに他意はなかった。唯単純にウチには雛飾りが無かったから、代わりにこれを飾ろうと思っただけだった。
けれどその瞬間、纏う雰囲気がほんの一瞬、変わったのを確かに感じとってしまった。
しまったと思ってももう遅い。責めるつもりなど毛頭なかったのに。己の幼さと未熟さを悔やむ。
そしてそれとは別に、若干の苛立ちを覚えた。
別に雛祭りじゃなくても、行事事なら何でも、何だって良かったのだ。パパと二人で楽しめるなら、私は何だって良かったのに。
パパだけは、それを理解ってくれてると思っていた。パパ、だけは。
勝手な思い込みに勝手に幻滅する自分が嫌になる。
思わず歯噛みした私を宥める様に、パパは背中をポン、と一つたたいてくれた。明日が楽しみだね、と。
翌日目を覚ますと、折り紙で作った雛人形の横に、ちょこんと不格好で奇妙な、人形らしきものが置いてあるのを見付けた。
卵の殻にカラーペンで落書きされたそれは、お内裏様とお雛様。
振り返った先には照れくさそうに笑うパパの姿。
飛びかかる様にぎゅうと抱きつくと、同じ様に返されて、色んな気持ちが込み上げてくる。
やっぱりパパはパパだった。嬉しくなって頬にキスを贈る。
「みぬきみたいには、上手くは出来なかったけどね」
卵は後で食べちゃおう。
そうおどけて言うパパに笑いながら、そっと視線を不格好で不細工な人形へと送る。
食べちゃうのは勿体無い気がするけれども、でもらしいといえばそうかもしれない。
見納めとばかりにそれを眺めて、瞼の裏に焼きつける。
「やっぱりみぬきのパパは、世界一だね!」
応える様に笑ったその顔を、一生覚えていようと思った。
end.
*家族になって2~3年経った頃、みたいな。