こらぼでほすと アッシー1
すぐに、着替えて本宅へ向かった。不夜城のようなオーナーの本宅は、二十四時間体制で警備されている。そこへ、駆けつけて、そこにあるシステムで検索する。特殊な電波を発信しているので、他のレーダーには反応しないようになっている。そうでないと、宇宙空間で敵に察知されてしまうから、オーヴで特別に開発させたという代物だ。だから、かなり広範囲なエリアでも探せる。特区内なら問題なく、その場所をピンポイントで映し出せる。それを検索できるシステムを、オーナーの本宅にも用意していて助かった、と、ハイネは思った。本来は、宇宙空間で使用するつもりのものだったから、こちらでは必要ないだろうと思っていたからだ。
「何事ですか? ハイネ。」
本宅で休んでいたオーナーも、ガウン姿で現れた。ハイネの慌てように、スタッフが声をかけたらしい。
「おかんが行方不明なんだ。」
「え? ロックオンが、ですか? 」
「そう、そのおかん。・・・・・・あった。」
レーダーレンジに、光点が現れた。場所は、かなり離れた場所だが、特区内だ。携帯端末のGPSも同様の場所を指し示している。
「とりあえず回収してくる。ドクターの呼び出しを頼んでもいいか? オーナー。」
「ええ、今日は、こちらにいらっしゃるはずですから、問題ありません。それより、緊急ならヘリのほうがよろしいのでは? 」
「いや、これぐらいなら大丈夫だろう。もし、心肺停止してるならヘリを・・・いや、無理だな。これ、立体駐車場だ。」
地域の地図と照らし合わせたら、そこは立体駐車場だ。市街地のど真ん中に、真夜中といえど、ヘリを降下させるのは危ない。
「ドクターを連れて行ってください。」
「わかった。」
オーナーも急いで、内線でドクターを呼び出す。どういう状態なのかわからないから、最善を尽くすしかない。ただ寝転けているのではない。それなら、携帯端末の着信音で目を覚ますだろう。
「万が一、危険なら連絡を。近くのヘリポートへ誘導します。」
「了解。」
ハイネがコンソールから立ち上がると、そこへオーナーが座り、ヘリの手配をする。今夜、ラボに泊まりこんでいるものに連絡する。
「ダコスタがおりますので、スタンバイをさせておきます。」
「スタッフを、ひとり貸してくれ。クルマの回収しないとならない。」
「ええ、運転手を一人ですね。」
準備が整う頃、ドクターが救急キットと共に現れた。とりあえず、本体の回収をしなければ、どうなっているのかわからない。ハイネがドクターに事情を説明して、オーナーが手配したクルマに飛び乗り、発進した。
何日もかかったが、ようやくお目当てのものを見つけた。これなら、着てくれるだろうと、ほっとした。それから、いつも世話になっているトダカの冬用の靴下とか、シンたちのおやつ用のスイーツを買って、駐車場のクルマに戻った。
・・・はあ、ちょっと疲れたな・・・・
時刻は、まだ七時だ。トダカを送り出してから、出て来たが、まだ戻って来る時間ではない。連日の外出で、ちょっと疲れたので、そのままシートを倒して仮眠することにした。小一時間も寝れば、回復するだろう、と、いうのがロックオンの考えだった。これぐらいで疲れるって、俺の身体は、どーよ? と、セルフツッコミしたところまでは覚えているが、そこから本宅で痛い目に遭わされるまで、すっぽりと記憶はない。
そこは、特区内にある二十四時間稼動の立体駐車場だった。立体だから、何階か場所が特定できないので、慎重にクルマを探す。さすがに、こんな深夜になるとクルマも疎らだ。トダカのクルマは、普通のセダンタイプだから、判り辛いが、ぽつんと三階にあるクルマに行き当たった。ナンバーをトダカに確認する。
「ビンゴだ。」
クルマの鍵は開いていた。運転席のシートは倒されていて、そこにロックオンは寝ていた。
「ドクター。」
すぐに、ドクターが診察をする。危篤状態てはないのか、脈を計ったドクターの肩が少し下がった。
「大丈夫、電池切れしているだけだ。」
「はい? 」
「以前、見ただろ? 過労で昏睡するのを。」
「え? あれ? いや、でも・・・こいつ。」
今、お里で静養しているんですよ? と、ハイネは言いそうになったのだが、ドクターのほうが口を開いた。
「三ヶ月も寝込んだ人間だからね。まだ、体力的に戻ってないんだよ。」
命に別状はないから、このまま本宅へ移送すると、ドクターは判断した。そういうことなら、ラボでスタンバイしているヘリも必要ではない。
「わかりました。俺は、このクルマを戻してから、そちらへ行きます。報告は、こちらから入れますので、ドクター、お願いします。」
トダカのクルマから、ロックオンを引き摺りだして、本宅から乗ってきたクルマの後部座席に転がす。とりあえず、あっちこっちに連絡もしなければならないから、ハイネが一端、残ることにした。
「はあ? 電池切れ? 一回〆とけ、ハイネ。」
連絡を待っていたはずの三蔵は、そう怒鳴っただけで切れた。アスランは、「それならよかった。お疲れ様。」 と、ハイネを労ってくれた。トダカのほうには連絡して、クルマの鍵を返すために、マンションへ入った。荷物から流れてくる匂いから、スイーツがあるのは解ったから、荷物もとりあえず、運び込む。
「すまない、ハイネ。私の判断ミスだ。」
トダカは、ハイネに深く頭を下げた。もう少し慎重に様子を見ているべきだったと反省したらしい。
「いや、俺もわかりませんでした。まさか、電池切れとは思わなかった。」
とりあえず、これを冷蔵庫に入れてください、と、スイーツの箱を手渡す。他は、衣類と思われたので、そのまま放置する。
「刹那君のコートをね、探してたんだ。なかなか、思う色のがなくて、あっちこっち出歩いていたから、疲れたんだろう。」
「もしかして、これですか? 」
大きな袋は、アウトドアショップのものだ。びりびりと紙を破いたら、綺麗な青のコートが出て来た。ああ、確かに、せつニャンが好きそうだ、と、ハイネも納得の代物だ。
「ドクターから言わせると、三ヶ月グタグダの後だから、ちょっとの無理がたたるって言ってました。たぶん、当人もわかってないんだから、トダカさんが悪いわけじゃない。」
「そうだが、出かける時にはついていけばよかった。・・・・私が出勤してから出歩いていたんだと思う。」
ちゃんとトダカが戻る時間には、帰っているから、トダカも気付かなかったのだ。
「こういう場合、トダカさんは叱るべきじゃないですか? 」
こんな騒ぎを引き起こしたのだから、保護者のトダカから叱責を食らわすほうがいい、と、ハイネは思っていた。自分の身体のことを考えて行動しろ、と、叱るのは当たり前だ、と、思っていたが、トダカは意外なことを言い出した。
「それは、どうかな。ここで、私が叱ったら、ロックオンは落ち込むだろ? できる範囲で、刹那君たちに、何かしてやりたいって思っただけの行動だ。それを止めたら、ロックオンは何もしてやれないと感じるだろう。それは、あの子の精神にはよくない。だから、ハイネも怒鳴ったりしないでくれないか? 」
「え? 」
作品名:こらぼでほすと アッシー1 作家名:篠義