箱庭
眠る弟の顔は、口元がほころび幸せそうな、子どもらしいものだった。
弟の寝顔になんの翳りもないことを確認して、イギリスは安堵の息をついた。
お茶の後に、イギリスは弟と花を見に行き、花を摘んで遊び、沈む太陽に急かされる様に家に帰り、二人で夕食を食べた。
イギリスの作った夕食は、いつもの様に少し焦げてしまったが、弟はおいしいと言ってくれた。
明日は魚とりに行く約束を弟として、二人はベッドにはいった。
弟の望みどおりイギリスは本を読み聞かせていたが、はしゃぎ疲れたのか弟は話の途中で眠ってしまった。
穏やかな弟の寝顔を見て、イギリスは自分の子ども頃を思い出した。
味方のいなかった幼いイギリスが、安心して眠れたことなどあまりなかった。
いつも神経を研ぎ澄まして、緊張しながら眠ることが多かった。
だからこそ、弟の穏やかで安らかな眠りをイギリスは守りたかった。
いや、眠りだけではなく、弟の全てを守りたいとイギリスは思う。
弟には、楽しいこと、嬉しいこと、愛される喜び、そういう甘やかで美しいものだけを見て育って欲しい。
子どもは無条件に守られ愛される権利がある。
苦しい思いや、辛い思い、悲しい思い、そんな思いをするのはもっともっと先の、大人になってからでいい。
弟が大人になるまで、イギリスは全身全霊をかけて守ると決めているのだ。
しかし、会う度に成長している弟にイギリスは、大きな喜びと、ほんの少しの寂しさを感じていた。
急がなくていいから、もっともっとゆっくり大人になってくれ、できるだけ長く子どもでいてくれ、それはイギリスがいつも弟に願っていることだった。
近いうちに、弟はイギリスの庇護など必要としなくなるだろう。それは確信に近い予感だった。
どうかそれまでは全力で守らせて欲しい。世界は美しいのだと、それをできる限り見せてやりたい。
愛されずに育ち、独りなのは仕方がないのだと諦め、素直になれない自分の様にはなって欲しくなかった。
穏やかに眠る弟を見て、余計な心配なのかもしれない、とイギリスは思う。
素直で明るく愛らしい弟。きっと自分の様にはならないだろう。
眠る弟の夢が安らかなものであることを。
この幸せな時間が少しでも長く続くことを。
祈りを込めて、イギリスは眠る弟の額に口付けを送った。