こらぼでほすと アッシー3
「ハイネ、それなら俺が操縦して勝手に帰ります。予備のヘリがあったでしょ? 」
「それでもいいけど、トダカさんとこでメシは食え。ママニャンは食えないから意味がない。」
同じように食事が摂れるなら、一緒に食べてもらうほうがいいのだが、まだ、流動食が精一杯のロックオンでは一緒は難しい。もう、ほんと、おまえってばよーと、ハイネがロックオンを睨みつける。
「寺へ帰るのは無理に決まってるだろ? どうして、そうすっとぼけるんだよ? ロックオン。」
「へ? 」
「日常生活に支障があるから、本宅に軟禁されてたわけだろ? 」
「いや、もう、動けるしさ。食事も動けば入るはずだから。」
「大バカモノッッ、動いても入らない。断言してやる。とりあえず、ドクターの怒りが収まるまで軟禁な? 」
別荘は、特区と、それなりの距離がある。一応、クルマでも来れないことはないが、距離があるから半日仕事だ。だから、逃げ出そうとしても逃げられない場所で、ロックオンを大人しくさせておくには効果的な場所でもある。
「まいったなあー。」
「しばらく、大人しくしてろ。それから、おまえ、今後、運転禁止だ。シン、レイ、おまえら、暇な時は、こいつのアッシーをしてくれ。」
「はあ? ハイネ? 」
「問題点は、ひとつ。疲れて、運転中に意識を失うことがあったら大事故になるから。以上。」
それだけではないのだが、ロックオンに対して告げる理由は、これだけにした。クルマというツールがなければ、それほど距離は稼げない。周囲何キロかの行動範囲なら、何かあってもスタッフの誰かが駆けつけられるというのが、もうひとつの理由だ。
「誰でもいい。暇そうなのに連絡して、アッシーしてもらえ。」
「そんな傍迷惑を押し付けられるか? 歩きでいいよ、歩きで。」
いちいち、そんなことで呼び出しできるか、と、ロックオンが言うのと同時に、レイが、「はい。」 と、手を挙げた。
「俺でよければ、呼び出してください。荷物持ちやドライブぐらいなら、いつでもいいです。」
「あ、はーいはーい、俺も。学校がある時は無理だけど、それ以外ならオッケー。」
もちろん、シンも手を挙げる。いつも世話をしてくれるのだから、それぐらい返したいと思うし、刹那が心配するようなことは極力、回避したい。頼まれたのは、キラと悟空だが、自分たちだって、手助けくらいはしたい。トダカからも、そう言われていた。
「いや、いいよ。気持ちだけ貰っとく。ありがとな、シン、レイ。」
「まあ、こいつらは時間が解り辛いだろうから、とりあえず、俺のとこへ連絡してくれ。都合がつくヤツを誰か派遣する。」
スケジュール的に、都合がつきやすいハイネが、アッシーその一に立候補はしておくことにした。ホストが本業の人間は、夕方までは、割と時間があるから、誰か捕まるだろう。
「だから、いいって。」
「けど、ロックオン。マンションに戻るのは、クルマがないと一苦労だし、店への出勤も、毎日、タクシーってのも金がかかるだろ? 」
寺とマンションは徒歩だと三十分くらいはかかる距離なので、時間的にロスは多い。子猫たちが戻って来ると、寺とマンションの往復なんてことも多々あるわけで、そうなると体力的にはキツイのは事実だ。
「まあ、そういうことがあったら、ってことで。」
「はいはい、それで承るさ。」
結論が出たので、とりあえず、お茶を飲む。無言で、飲み干してから、ロックオンが口を開く。
「俺、そんなに悪いのか? 」
「悪いだろ? 三ヶ月もグダグダしてたヤツが、すぐに元の状態に戻れるとは、到底、考えられない。」
「まあ、そうなんだけどさ。でも、寺に一時的に帰ってただろ? 」
「ありゃ、フェルトちゃんが来たからさ。あの子がいれば、無茶しないし手伝ってくれるから、ドクターも許可したんだ。だから、桃色子猫ちゃんが帰ったら、トダカさんがすかさず回収してたじゃないか。」
「そういうことだったのか。」
「いや、自分で気付けよ、それくらい。」
たはーとハイネが息を吐いて肩を落とす。当人は無自覚だから、流れすら理解できていないのが、痛い。
「オレンジ子猫のロストで神経ボロボロにした自覚はあるだろ? 眠れない食べられないで医療ポッドに放り込まれたんだからさ。」
「してたんだろうな。あんまり自覚はないけどさ。」
「ハイネッッ、言いすぎだ。」
シンが慌てて止める。そのことについては触れないほうがいい、と、気遣っていたからだ。
「いいんだよ、シン。こいつ、全然、自分がどうなってたかも理解してないんだから、ここいらではっきりさせておくほうがいい。紫子猫が、せっせと体調管理してくれたから、どうにか持ち直したけどさ。それも持ち直しただけなんだ。元に戻ったわけじゃない。その後、フェルトちゃんが降りてきて、手伝ってくれたから寺で生活できてたけど、それだって、かなり無理はあったんだ。だから、トダカさんとこへ回収されてたわけ? 」
「・・・うん・・・」
「だから、寺へ戻るなんてのは以ての外なのに、気安く言いやがるから、ドクターはキレたんだ。黒子猫に心配されたくなければ、身体を休めて回復しろ。ちびニャンは、遅くとも年末には戻るぞ? その時、寝込んでたら、ちびニャンが今度こそ離れなくなっちまうぞ。」
かなりキツイことをハイネは言ったが、事実だから仕方がない。寝込んでいるところなんて見たら、また刹那は不安を感じるだろう。ようやく離れて行動するようになったのに、元の木阿弥になりかねない。それらを、きっちりと説明して、ハイネはロックオンを、まっすぐに見る。
「せつニャンが不安定になったら、マイスターとしては失格だ。これから、あいつをリーダーとして育てるつもりなら、おまえがしっかりしてなくちゃならないんだよ。」
だから、元気な姿でいなければならない。マイスターとして失格だと言われたら、刹那は、どうなるのか、ロックオンにもわからないが、かなりの打撃は受けるだろう。それでなくても、ロックオンの不在や体調不良には敏感なのだ。自分が居ない間に、天候によるダウン以外のダウンをしていると判ったら、離れるのができなくなる。
「・・ああ、そうだな。刹那は強いから、リーダーとしては俺より資質があると思ってたんだ。よくわかってるな? ハイネ。」
「一応、俺、間男だからな。おまえさんが、せつニャンに話していることを聞いてれば予想はつく。」
アレルヤとハレルヤは、ふたつの人格がひとつの身体に収まっている加減で、決断力という点で問題がある。ティエリアは、まだ脆い部分があって、平時のリーダーはこなせるだろうが、実際、組織が再始動してからのリーダーには向かないだろうと思っていた。刹那は、その点では強いが、年齢的に若すぎて、今のところは無理だろうな、と、思っていたが、そこに経験が加われば、と、世界を放浪するように命じた。組織では経験できないことを、そちらで養えば、再始動
には間に合うだろうと、ロックオンも、いろいろと、それとなく教授していたのだ。
「トダカさんにも相談したんだけど、トダカさんの折り紙付きだった。ただ、経験というところがネックだったからな、」
作品名:こらぼでほすと アッシー3 作家名:篠義