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僕らは電脳世界で恋をする!@3/19更新

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貴方の笑顔が欲しいのです。





デリ雄は学人が好きだ。
兄弟タイプのサイケのように素直に口にしたり態度で示したりできないけれど、想いは負けてないと思っている。
喜ぶ顔が見たい。笑ってほしい。そんな一心でこっそりデリ雄は練習してること。それは、彼がふとした時に呟いた花を自分の手で創りだすことだった。
学人はデリ雄達が居るPCの中で一番優秀だから、マスターが受けた仕事で長期間PCを離れることもある。マスターの役に立つということはとても喜ばしいことだけれど、寂しくないわけがない。そんなデリ雄達を気遣ってか、学人は帰ってくるたんびに何かしらお土産を持ってきてくれたり、面白い話を聞かせてくれるのだ。べったりくっついて離れないデリ雄とサイケに苦笑しながらも、柔らかく彼が紡ぐ物語がデリ雄はとても好きだ。
その中で、学人は津軽のマスターが画像で見せてくれた『桜』という花がとても綺麗だったと、言っていたのだ。


(大きな木の枝に淡い色の花がいくつも咲いていて、風が流れるたびに降る花弁の雨がとても綺麗でした)


想いを馳せながらそう呟いた学人の顔が忘れられなくて、そしてもう一度見たくて。桜の花のデータをマスターにダウンロードしてもらい、失敗を何度も繰り返しながらもデリ雄は彼が言う綺麗を目指し、小さな手の中でプログラムを組み立てる。
望むのは大好きなひとの笑顔。ただそれだけだ。





「さいきんでりおがひとりでこそこそなにかしてるんだよ。おしえてーっていってもおしえてくんないし、こっそりみようとしたらすっごくおこるんだよ。わけわかんない!」
ぷーっと膨らんだ風船のようなサイケの頬を人差し指でぷすんと刺して、「どうしたんでしょうねぇ」と学人は曖昧に濁した。
デリ雄が何かを一生懸命創ろうとしているのは学人も知っていた。仮にもPC全体の管理は学人がしているのだ、気付かないわけがない。ただ深く追求しないのは、マスターが「そっとしてあげて」と言ったのと、何より彼がひとりで頑張って何かを創り上げようとしているから。
何を創っているのかな。もし出来たら見せてくれるだろうか、とそんなことを思いながら、背中に張り付くサイケをそのままに学人は己の仕事をこなしていた。

「がくとっ」

名を呼ばれ、振り向こうとした時、頬を掠めた淡いピンクの花弁に目を奪われた。

降り注ぐ、桜の花弁の雨。
ひらり、ひらり、と淡く世界を染めていく。
それはまるで、以前見た美しい景色のようで。

「うわあっ、すごい!きれい!」

はしゃぐサイケの声も、目を瞠る学人の耳には届かず、ただただ舞い落ちる桜の花弁に見入っていた。



どのくらい見惚れていたのか、ふと掌に触れる温もりに視線を移す。すると、鮮やかなマゼンダの眸が真っ直ぐに学人を見つめていた。
「きれいだろ?」
「・・・・・はい」
応えれば、ほっと緩む幼子の顔。漸く、学人は思い出す。
「覚えててくださったんですね」
「・・・・・」
こくりと頷いた頭に、学人は柔らかく微笑んだ。
「これを全部、おひとりで創りあげたんですか?」
「ますたーにがぞうもらって、がくとがいうおおきいきまではつくれなかったけど、はなびらはなんとかできたから、」
がくとが、はなびらのあめが、とてもきれいだったっていったから。
いっぱいいっぱいふらせれば、よろこんでくれるかとおもったんだ。
きゅうっと握ってくる掌を学人も握り返した。
「なあ、がくと」
「はい」
「うれしいか?」


降り注ぐ桜の花弁を背景に、学人は優しく、柔らかく、慈しむように、そして無邪気に、微笑んだ。



「ええ、とても!」



それはデリ雄が望んだ以上の笑顔だった。





(望んだのは大好きなひとの笑顔)