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過去作品を晒してみよう、の巻。

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 片やとても楽しげな、片やいっそ背後から黒いオーラさえ出ているかのような腹黒い笑顔を浮べた2人は、人目も気にせず密やかに笑った。





 「おはよう。」
 傍目には無表情に見えるが、普段の彼にしては幾分か穏やかな顔をして玄関に立っている彼を見て、キララは微笑んで挨拶を返した。
 キララの笑顔はとても輝いている。それ程に今日と言う日が楽しみで、嬉しかったのだ。
 そして、その様子を密かに一部始終目にしていたキララの妹、コマチはその姉の心底嬉しそうな様子にひっそりと涙した。
 家の事があるからと己を厳しく律し、浮ついた事があってはならないと、姉の年齢にしては珍しく化粧も御洒落も本当に基本程度しか手を付けなかった。
 何でもかんでも全てを背負い込んで1人で為してしまう姉のその背を、コマチが直視できなくなったのは何時の頃からだろう。
その姉に、あの男っ気の無かった姉に漸く彼氏が!コマチはキュウゾウの存在に感謝した。
 コマチは、「留守番お願いね。」と済まなそうに頼んでくる姉に「任せるです!」と力一杯頷き、嬉しそうに出掛けて行く姉の背を見送った。
 これは余談だが、カンベエは休日に朝早く起きて来る事は無い。それこそ、滅多な事が無い限り、だ。よって、またキララによるカンベエへの彼氏(キュウゾウ)紹介の機会が、また延びた。





 大失態だ。
 キュウゾウの心の中はブリザードが吹き荒れていた。
 2人で立ち尽くす事、凡そ1分程。
 春先にも関らず、2人に吹き付ける風は冷たかった。
 『改装工事の為、1週間程休館とさせていただきます。   ―○×水族館―』
 ぞんざいに貼られた張り紙が、風によってはためく。
 カサカサと紙の立てる音が周囲に響く程、そこは閑静であり、2人は無言だった。
 キュウゾウの心内は、苛立ちと自身への迂闊さに燃え滾っていた。
 よくよく見れば、張り紙の休館期間は昨日からになっている。
 下調べをしたのは、丁度5日前。キララをデートに誘う前だ。
 どうして急に改装工事など始めるのだ、と、キュウゾウの苛立ちは理不尽にも水族館に向けられる。
 そして痛い沈黙は、気遣わしげなキララの声で終わりを遂げる。
「キュウゾウさん。あの、残念でしたね。折角連れてきて頂いたのに…。ここで立ち止まっていても時間が勿体無いですし、次、行きましょう?」
 キュウゾウは彼女の人間の出来具合にほとほと感心し、感動した。
 元々この水族館も、彼女が実は可愛らしい物、とりわけ動物が好きであるという事を理由に決めたというのに…。
 自分の不甲斐無さと運の悪さを呪い、キュウゾウは次の地へと足を向けた。



「あちゃー、ここ、改装工事だったんですか。」
 しまった、とでも言いた気に、ヘイハチはぼやいた。
「ん~、これは計算外でしたねぇ。折角キュウゾウにキララ殿の好きなモノ、入れ知恵したのに。」
 そう、キュウゾウにキララの好きな物を吹き込んだのは、何を隠そうシチロージである。
 元より人好きのする顔とその巧みな話術は人を取り込むのに長け、それはキララも例外では無かった。
 初めて引き会わされた時、シチロージはキララとそう長くはないが確かに会話したのだ。
 守備範囲では無いものの、その柔軟な思考と今時にしては珍しい位の礼儀正しい会話の仕方に、シチロージは久々に楽しい話し相手に恵まれたとほくそ笑んだものだ。
 別に教えてやる必要は無いと思っていたものの、彼があまりにも一般的な恋愛知識、そして尚悪い事に彼女に関して無知だった為、気付いたら口から出ていた。
「それにしても、キュウゾウの奴も運の無い…。」
 もしや、彼は神にすら見捨てられているのではないだろうか?
 それならば友人である我等までもが彼等を見捨てるワケには行くまい。
 ヘイハチとシチロージは、2人の後を確かな距離を保って尾行を再開した。





 しかし、彼等の不運はあの程度に留まらなかった。
 その後に訪れた公園は、景観は確かに良かったものの、子供連れの母親が多く、子供の大声が響くは母親達は井戸端会議よろしく加齢した小母様達の如く世間話を始めるので雰囲気も何もありはしなかった。
 更には昼食に、と訪れた店は満席で、向こう2時間は空かないと言われ、泣く泣くファミレスに落ち着いた。
 昼食後に行った先の映画館では、観ようと思っていた映画が実は1週間先に上映が開始されるモノだったと気付き、その上空いている場所が御子様が見るようなアニメ映画だったのだから、もう本当に救われない。
 結局その後も何だかんだで不運は続き、気付けば既に空は茜色が混じり始めていた。
 キュウゾウは心底落ち込んでいた。
 しかしやはり見た目は無表情な為、その心情を察せられるのはキララと、そして後ろから尾けている2人だけだ。
 キララはその落胆ぶりに、原因は分かっているもののどう声を掛けて良いものかと躊躇っていた。
 ヘイハチとシチロージは、今日に限って何故?と思い返しながら、あまりの気の毒さに言葉も出なかった。
 明日はキュウゾウに優しくしてやろう、と、柄にも無く思う2人だった。
 ほぼ放心状態で歩いていたキュウゾウだが、ちゃんと彼女を家へ送る事くらいは出来たらしい。それ位しなければ、否、その程度では、今日の事は挽回出来はしなかった。
 自宅の門を潜り、キララはその門を挟んで向こう側に居るキュウゾウを見た。
「あの、キュウゾウさん……」
 気にしないで下さい、と、声を掛ける前に、キュウゾウから言の葉を発した。
「その、今日は済まない。まさか、あんなに不運が続くとは…本当に、そんなつもりじゃ……」
 そう謝罪するキュウゾウの言葉を、キララはキュウゾウの唇に人差し指を当てるという動作1つで遮った。
 キララは綺麗に微笑んで、言う。
「えぇ、勿論分かっております。キュウゾウさんはそんな方ではありませんもの。私が好きな所、さり気無く回ってくれたんですよね。ちゃんと、分かってます。嬉しかったです。有難う。」
 それに、とキララは照れながら言った。その声は、随分小さいモノだったけれど、近くに居たキュウゾウには一言一句欠ける事無く耳に届いた。
「私は、キュウゾウさんと一緒に居られた事だけで充分です。デートに誘って頂いて、とっても幸せですから。今回のプランは、私の為に立てて下さったと、そう自惚れてしまっても良いですか?」
 えへへ、とはにかんだように笑うキララを、キュウゾウは抱き締めたい衝動に駆られた。
 が、ここが彼女の家の前である事と、キララを怯えさせない為に、キュウゾウは自分を律した。
「……今度は、今度こそ楽しめるようにする。だから……」
 その言葉だけで、キララは充分だった。
「えぇ、勿論です。楽しみにしております。」
 キュウゾウは、国宝級に珍しい優しい笑顔で、キララを見詰めた。
 覗き見している2人は、そんなほのぼのした雰囲気に心底安堵し、穏やかな目で2人を眺めていた。
 まぁ、犬も食わぬなんとやらではあるのだけれど、微笑ましい事に変わりは無いので、温かく見守る事に致しまして。