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過去作品を晒してみよう、の巻。

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 2.侍7 キュウゾウ×キララ NL

 ある者は明日を思い悩み。
 ある者は明日へと思いを馳せ。
 ある者は明日の楽しみを想像し。
 ある者は明日の為の準備に余念を欠かさず。



 さぁ、決戦は明日だ!!!
 青年達よ、希望を抱け!!!!





 





 その日の夜、キララは困り果てていた。
「どっ、どうしたら良いの~~~!!?」
 あわあわと取り乱し、あーでもないこーでもないと部屋を散らかしまくる。
 普段の彼女からは考えられないような事態である。
 それだけ、彼女の精神は不安定だった。
 原因は、3日前の彼の言葉にある。
 『デートしよう。』
 互いが互い立場が違うために忙しく、どちらかが空けばどちらかが空いてない、というのもざらな話。
 また親の目も厳しく、中々一緒に出歩けないのが現状で、2人で行くと言えば図書館位だろうか。
 こうして考えれば、付き合ってからそう短い期間でも無いのに、初デート、なのでは?
 元々、彼が人前でいちゃつくようなタイプではない為中々発展はしないし…。
 だから、それだけキララは驚いたし、嬉しかったのだ。
 なんでも、2月14日に上げたバレンタインチョコのお礼だと言う。
 今回は彼が全てプロデュースしてくれると言う。
 文字通り、エスコートしてくれるようだ。
 それを思い出し、一瞬頬がにやけかけるが、今はそれ所では無い。
 一体何にそんなにキララが困っているかと言えば……
 「何を着ていったら良いの―――――!」
 という、ある意味くだらない、ある意味切実な悩みであった。
 更によくよく考えれば、今までずっと放課後デートであった為に、私服デートは初めてだったのだ。
 この3日間というもの、キララは考えに考え、彼好みの服装を、と思ったのだが、どれをあてても駄目なような気がして、一向に洋服が決まらない。
 そうこうしている内に、本番が明日に迫ってしまった。
 1人鏡の前で葛藤している姿はそれはそれは奇異に映っていたが、乙女の複雑な心境の前ではなんのその。
 いくら姉の奇声に心配したコマチやカンベエが覗きに来て、その異様さに半分引き気味になろうとも、戦う乙女は気にしない(というより気付かない)。
 そしてキララは実の所、彼は自分がどのような格好をしてこようがあまり気にしないのだろう、と言う事を薄ら予感していた。
 だって彼はキララの在りのままを受け容れてくれるから。
 だからこそ、彼の為に少しでも綺麗に、可愛くなりたいといういじらしい乙女心が生まれてくる。
 その夜、キララの洋服選びは深夜にまで持ち越されたとか…。





 その頃、彼――キュウゾウはと言えば……
 明日を想い、その仏頂面の裏で密かににやけていた。
 それが偶に声に出たりするモノだから、同室のヒョーゴは非常に怯えた。
「キっ、キュウゾウ!!お前、何か悪いモノでも食べたのか!!?」
 至極真っ当な問い掛けは、しかし幸せ絶頂のキュウゾウの耳には届かない。
 斯く言うキュウゾウ、実を言えばWhite Dayの存在など忘れていた。というより知らなかった。
 先日、キララに貰ったバレンタインチョコレートなるものも、2月14日の意味も、その日までまるで知らなかった。
 その翌日に同期の知り合いに話して、そして教えてもらったのだ。
 己には全く関りが無かった故…、と話すキュウゾウだが、昔から彼の容姿は人の目を存分に惹き、キュウゾウが構おうと構わまいと彼の元には多くのチョコレートが送られてくる。最も、肝心のキュウゾウはバレンタインに関心も何もあったモンじゃないので、単にチョコレートが沢山送られてくる日、という意味不明な認識でしか無かったが。モテない世の男達からすれば、延髄モノの話である。
 そうして1週間程前、同期達に『お返しは何にするつもりだ?』と聞かれ、『お返し?』と首を傾げた所、盛大に怒られ、説教され、White Dayについて懇々と語られた。折角貰ったのだろうと。しかも彼女からの贈り物だろう、とも。
 正直余計な御世話だ、と思ったが、今回に関しては良い事を聞いたので素直に助言を受け容れた。
 説教に関しては、キュウゾウが何か言った所で反論など聞き入れて貰えない(気の毒だが)。
 彼等は言った、『そんなにあげるモノに困るならデートに誘えば良いだろう』と。
 デート中に彼女の欲しいモノをさり気無く観察してプレゼントすれば良いと。
 キュウゾウは眼から鱗な状態だった。普段いらん事しか言わない彼等が自分の為にここまで意味の或るアドバイスをくれるとは!
 それから更に3日前。彼女にキュウゾウは言った。『デートしよう』。
 その時のキララの顔を、今でもキュウゾウは鮮明に覚えている。
 そんなキララの為に、精一杯の心尽くしを。
 キュウゾウは、同室のヒョーゴの存在も忘れて1人明日への期待に胸を躍らせた。





 そうして更に、明日と言う日を翌日に控え、密かに始動する者達がいた。
 そう遅くも無い夜のファミレス。
 紙と筆記用具を用い、ジュースだけで何時間も粘る実に迷惑な、しかしとても容姿が目を惹く2人組は、周囲の反応も意に介さずあまり広いとは言い難い狭苦しい空間で殊更に顔を近くで突き合わせて唸っていた。
「いやいやシチさん、いくら彼が鈍いとはいえ、これでは流石に感づかれてしまいますよ。」
「大丈夫だってヘイさん。なにしろ、キュウゾウは自分でも自覚してない程彼女馬鹿ですからね。きっと当日はデートの事で頭が一杯で周囲にまで目を配る余裕なんてありませんよ。」
 けらけらと笑う金色の美しい髪を無造作にひと括りしただけのそれでも見目の良い男を、相対して座している彼が胡乱な目付きで見る。
 彼等ことキュウゾウの同期の2人、ヘイハチとシチロージは目前の料理もそこそこに、なにやら白熱して語り合っていた。
 そう、キュウゾウを焚き付けた彼等だが、純粋な好意からの助言では決してなく、あくまで自分達の為に提言したのである。
 シチロージは一応戸籍上親類になったのでキュウゾウの彼女であるキララとは顔を合わせた事があるが、ヘイハチは無い。
 しかも、あのキュウゾウの彼女なのだ。これは見たくもなるではないか。
シチロージも顔は知っているが、普段彼等がどのように2人で過ごしているのか気になったのだ。
 まぁ、デートすれば?、との助言にあれだけ驚嘆していたキュウゾウの事だ。その様子だと推して計るべし、ではあるが、それならば尚の事、キュウゾウというよりも彼女の為に、フォローという名の愛の手を差し伸べてあげなくては!!
 勿論、その抑えがたい好奇心故の出歯亀、でもあるが。
 事前にさり気無くデートのルートを提案しておいたので、あまり知識の無さそうな彼がそれをまんま起用する事は最早明白。
 あとは明日、キュウゾウが家を出てしまう前に門の前で張り、キュウゾウの後を付けて行けば良いだけの話だ。
「くす、明日が楽しみですねぇヘイさん。」
「全くですね、これだけ僕に楽しみを与えてくれるなんて、やはりキュウゾウは良き友人ですね。」