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罰が愛

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 臨也は慟哭した。
 自分が涙を流す人間だとは知らなかった。
 血を失いすぎて冷えていく身体も小さくなっていく呼吸も心が壊れそうなことに比べればどうでもいいことだ。
「あ、ぁあぁ、あああぁあああ」
 腕の中に生首。
 知らない人間のものだ。
 それでも臨也は確信していた。
 求めていたものだ。

 処刑場へさらし首を見に行ったのは気まぐれだった。
 自分が流した情報でどれだけの人間が死んだのかの確認とそれを見て嘆く人間を観察するためだった。
 人の生死ほど本性をさらけ出すものはない。
 金がらみの欲望も面白かったが死者に対する風聞や偽善的な悼みの言葉。
 彼岸の火事に対する人の対応は面白い。
 臨也の薄汚れた悦楽は見知らぬ子供の首で打ち消される。
「かわいそうにね」
「丁稚奉公で遠いところから来てただけなんだろう」
「後ろ盾がないと」
「濡れ衣だって言っても役人は聞きはしない」
「働き者で、力仕事は役立たずだったけど」
「かわいそうにね」
 ひそひそと交わされる会話。
 臨也の求めていたもの。
 すり抜けていく。
 記憶に留まることはない。

 その後、どうしてか森まで走ってきていた。
 さらし者になった少年の首を抱いて。
 人目を盗んで夜に処刑場にはいるなど考えられなかった。
 いますぐにでも、誰の目にも触れないように自分のものにしないといけない。
 感情のままに行動するなど馬鹿げていたが魂とでもいうべき場所が叫びだしていた。
「おれが、ころした・・・・・・」
 やっと吐き出せた言葉は悔恨にまみれていた。
 背中に刺さった矢や鎌を抜くこともなく木の根本に腰を下ろす。
 口から滴る赤が少年の青白い肌を汚す。
 それを涙が洗い流すという意味のない作業が繰り返される。
「わからない、ずっと、あいたかった」
 胸に広がる知らない感情に臨也は涙を拭えずにいた。
 緩慢になって動かすのが億劫な身体に比べて心は躍るように舞い上がっていた。
 悲しくて辛くて何も考えたくなどないのに幸せで満ち足りて、後悔の涙が嬉し涙に変わっていた。
「もっ、と・・・・・・はやかったら」
 首だけではなく身体ごと抱きしめただろう。
「つぎがあるなら、つぎがあったら」
 これ以上にない愛を与え続けよう。
 今生に渡し損ねた分も含めてすべて。
「きみに」
 臨也の言葉など聞いているはずもない首はどこか安らかに見えた。


作品名:罰が愛 作家名:浬@