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うわさのサチコ

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「なぁ、獄寺。オレなんかコイビトいるんだって」
「はあ?」
 鬱陶しい女子の視線から逃れるように屋上へと避難して煙草を吸っていたら、山本が手に包みを一つ持ってフラリと現れて、唐突にそんなことを言った。
「なんかさっき、恋人がいるのは分かってるけどチョコだけでも貰ってくれって」
 どうやら手にした包みは想像通りバレンタインのチョコレートらしい。
 今年は去年の威嚇が利いたのか、オレにチョコを渡そうとする奴はいなかった。ただ最近増えている不快な視線がいつもよりも酷くてこうして屋上に避難してる訳だが。
 去年は下駄箱から机から鞄から片っ端から詰め込まれ、ひっきりなしに呼び出しを受けていた山本も今年は大人しいもんだった。だけどどうやら山本のそれはオレとは違いそのコイビトとやらの存在のせいらしい。
 しかし、不本意ながらしょっちゅう山本とツルんでいるオレでもそんな話は聞いたことがないし、それこそコイビトと付き合ってる時間なんてコイツにはなさそうだよなと決め付ける。が、一応、本人にも聞いてみることにする。
「……お前コイビトなんかいんの?」
「いや、いねー」
「誰だよそいつ」
「なんだろ……サチコ?」
「ぶはっ、お前、それ、脳内カノジョじゃねーかよ! どんだけ淋しいんだよ。つか、何で脳内バレてんだよ」
 オレは山本のセリフに咥えていた煙草を落とし、腹を抱えて爆笑した。

*

 サチコというのは先日読んだ少女漫画に出てくる主人公が脳内で作り上げている架空の人物のことだった。

 笹川がその少女漫画を読んだ後、カッコイイよねーと黒川と話しているのを十代目が聞いたということで、笹川の好みを知るべく十代目とオレと山本の三人でその漫画を読んだのだ。ちなみにその漫画自体は十代目がアホ女から借りたとおっしゃっていた。

 結論としては、笹川の言ってた奴がどれなのかは分からなかったのだけど。
 てっきり主人公の相手がそうなんだろうと思ったら、主人公の女自体がフラフラと定まりやがらねぇわ、キラキラした現実ではありえなそうな男共がわんさか出てくるわで、笹川が言ってた奴が誰なのかさっぱり分からなかった。

 三人でどの野郎が格好良くて笹川好みであるかということを真剣に討論したのだが、さすが少女漫画というだけあって女の好きそうなオレから見ればムカツクような野郎ばっかりで、オレには真剣に何がいいのか分からなかった。
 だけど山本は何故かその中に出てくるギタリストが好きだと言ったので、じゃあ変わりにオレが殺してやろうかと言ったら、それは勘弁なのなーと笑っていた。

 十代目に至っては、けっきょくどのひとが好みでも無理すぎるとおっしゃって項垂れていたけど、空想の世界の人物と並べても十代目が一番輝いてるという事実は少しも揺らがないとオレは思う。
 オレがそう力説すると山本も嬉しそうに同意して、十代目は困ったように微笑んで下さったのだけど。

 その後のオレと山本の会話ははっきり言ってアホすぎると思う。

「男三人で何で野郎ばっか見てんだろうなー」
「じゃあ女ならどれがいーんだよ」
「えー……サチコかなぁ」
「マジかよ、お前こんなあざとい女がいいのかよ」
「違う違う、そっちじゃなくて、空想の方の」
「おま……ッ、架空のキャラの更に空想の女がいいのかよ?」
「なんか可愛くね?」

 それを聞いたオレは、妙にツボに入ってしまいぎゃははと腹が痛くなるほど笑ったのだ。爆笑したオレを見て山本も自分で言ったくせに大笑いして、十代目はそんなオレ達を見て驚いた顔をしていたけど、最後にはふわりと笑っていた。

*

 オレがひとしきり笑ってるのを黙って見ていた山本は、オレが少し落ち着いたのを見計らって声をかけてきたのだけど、その声が想像以上に悲壮感に溢れていて、オレは更に笑いそうになった。というか、笑った。
「獄寺どうしよう、オレってサトラレなのかな?」
 世界の終わりだというような表情をして、山本がバカなことを言うのでオレは口角を持ち上げて言ってやった。
「ふん、そうだったとしても教えてやらねー」
「ええっ、マジで!? オレがそうなったら教えてくれよ!」
「やなこった」
「ええーーー、獄寺が教えてくんねーと、オレがサチコのことばっか考えてんのバレちゃうじゃん!」
「……お前、そんなサチコばっか考えてんの?」
「わりと」
「…………」
「…………」
 そして何となく落ちた一瞬の沈黙の後、オレと山本は顔を見合わせ二人して笑った。くだらねー!

作品名:うわさのサチコ 作家名:高梨チナ