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だいすきだいすき!に!

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でーとしたいの!





「ねえねえきだくん、うみべのどらいぶってろまんちっくでめろめろなの?」
「臨也君その雑誌はご本の時間に読んでほしくないなあ」
うんざりと正臣先生がため息をついたのは、読書をみんなでしよう!という通称ごほんのじかん。何でも好きな本を読んでいいことになってはいるが、普通は絵本とか児童書を期待したいところだ。
間違っても、「デートスポット大特集!」とかが乗っている、若い女性向けの雑誌とかやめてくれ。
「なんで?なみえがこれでもよめばってくれたごほんだよ?おれはおとなだからむつかしいかんじだってもうよめるもん」
「えー?じゃあこれ読んでみな?」
「えっと、えっとね、よるけいのみえるふれんちれすとらんで、………………なんとかかんとかでぃなーはすぺしゃるなあじ」
流石に豪華は読めなかったらしい。そして夜景はよるけいらしい。臨也はにやりとした正臣先生に向かって、ぶうっと頬を膨らませる。きだくんはいじわるだ!とお怒りモードだ。
「あのなあ、せめてフリガナのふってある本にしないか?その雑誌は、あとでお家で波江さんに読んでもらえ、な?」
「きだくんはどうだかしらないけどね、おれはいつでもみかどくんをすてきなでーとにさそえるようにじょうほうをあつめなきゃいけないの。かいしょうのあるおとこだからね!」
「いや、帝人はフレンチの高級レストランは喜ばないと思うぞ……」
「ふれんちってなんなの?おれんじのなかま?おいしいの?それともでんわえいぎょーにたいする「しょーひしゃせんたー」みたいな、まほうのじゅもん?」
それってつよい?
子供のそんな純粋な疑問に、正臣先生はどう答えるべきか迷った。フレンチって何?って言われても。
「フレンチは、フランス料理だよ」
「ふらんすりょーり……」
しばらく考え込んで、臨也はそうか!とぱっと表情を明るくした。
「ふらんすぱんだね!」
「えええ……!あ、いや、間違ってないけど」
「こうきゅーなふらんすぱんって、すっごいかたいの?おとなははがつよいからへいきなのかなあ。みかどくんはまだこどもっぽいところがあるから、きっとかたいのはきらいだよね!」
良くわかった!とキラキラ笑顔を浮かべる臨也に、いや分かってないよお前!とは返せない。実際問題帝人先生は固いものが嫌いなので、認識としてはあながち間違ってない、間違ってないけど、正しくも無いのだが。
「どらいぶっておくるまでしょう?おれはまだめんきょもらえないけど、めんきょとったらみかどくんとどらいぶでらぶらぶするんだ」
「あ、そう……」
あと十年以上先だけどな、とは、口にしないで脱力しつつ相槌を打つことにした正臣先生である。子供の相手は疲れるぜ、まあその手間のかかるところが楽しくもあるが。
「やっぱりくるまはあるふぁろめおだよね!とよたでもいいけど!」
なんていいつつ雑誌に視線を落とした臨也は、しばらく大人しくぱらぱらとめくった後、ねえきだくん、ともう一度顔をあげて。


「なんでおとなはでーとのあとほてるにとまるの?」


「はい雑誌没収!」
神業の速さで臨也の雑誌を引ったくり、盗み見てみればああやっぱりね!アダルトなページもあるよねこういう雑誌!次のページめくってたら危なかったな!っつか保護者こういう雑誌を与えるな!
「ちょっときだくん!かえしてよ、おれのざっし!」
「臨也君、この雑誌は子供は見てはいけないページが含まれています」
「おれはおとなだっていってるでしょ!みかどくんとほてるにとまるときどうすればいいのかのってるかもしれないし、よんでおかないとこまるんだよ!」
「いや泊まるなよ!」
「だってでーとのおわりはほてるできまり☆ってかいてあるもん!おしゃれでせぶれなでーとはそうなんだって!」
「それをいうならセレブな!」
「しぇれ……せれぶ!」
かえせー!と足をよじ登ろうとする臨也を片手でいなし、もう片手で雑誌を高い場所に格納し、正臣先生は改めて臨也に向き直った。
とっても真面目な顔で、ビシッと一言。



「こんな雑誌読んでると、帝人に『臨也君不潔です』って軽蔑されちゃうぞ!」



一瞬の沈黙。
「……けーべつ……」
難しい単語だけれども、頭のよい子な臨也は意味を知っている。けーべつというのは、きらいという意味だ。
ふけつってよくわかんないけどきっと悪口だ。帝人先生に嫌われることは、臨也の本意ではない。っていうか嫌われたらノー帝人先生、ノーライフ。
「しぇれぶはふけつなの……?」
うるっと涙を目に溜めて問いかければ、正臣先生はちょっと違うなと思いつつも、真顔で頷いてみせる。ここで混乱させてしまったらまた厄介なことになりそうだ。
「おれは、みかどくんにけーべつされるくらいならしをえらぶよ……」
「重っ」
「きらわれるなんてたえられないよ!みかどくんはおれのうんめいのよめなのに、そのみかどくんにけーべつされるなんてたえられない!こんなにおれがあいしてるんだから、みかどくんはもっとおれをあいするべき!そしてらぶらぶでけっこんしてえいえんをちかうべき!しろむくのみかどくんはうつくしいにちがいない……みかどくん!いまあいにいきます!」
とててててーっと走り去る園児の後姿を見送って、正臣先生はとりあえず一言突っ込んだ。




「ドレスじゃなくて白無垢派か……」




そういうもんだいじゃねえ。


作品名:だいすきだいすき!に! 作家名:夏野