ねむねむぐーぐー
布団を引き剥がして現れたのは狩沢絵理華と矢霧波江、女性二人に挟まれて困りながらも寝ようとする竜ヶ峰帝人。
掛け布団を掴んだままでいる臨也に帝人は眠たげな瞳で「寒いです」と告げた。
「なに羨ましいことしてるの? 代わりなよ」
「うるさい」
揺り起こそうとする臨也の手を波江は払いのける。
強く帝人に抱きついてまぶしさから逃れるかのようだ。
「退け」
「駄目っすよ」
殺気立つ臨也に壁に寄りかかった遊馬崎が言う。
「彼女きたばっかっすから。寝せてあげて下さいよ」
自分も寝ていない癖に人を思いやるような言動は激しい違和感だ。
特に遊馬崎は現実の人間になど興味がなさそうだというのに。
「遊馬崎さんは優しいですね」
やわらかな声音で「臨也さんとは大違いですね」と直接的なトゲが付け加えられた。
遊馬崎はいつもの表情が分かりにくい細目。狙っているのか分からない。
勝ち負けは知らないが臨也が不眠のための偏頭痛で苛立ちを晒してしまっているのは事実だ。
「臨也さんが眠いのはわかりますけど……僕も眠いですから」
付き合っていられないと年下に突き返される屈辱。一瞬にして意識は空白。
「重いのは我慢しますから」
帝人がそう言って臨也に両手を差し出した。
固まっている臨也に「左右は埋まってるんだから仕方がないでしょう?」と自分の上に乗るように言ってくる。
「寝心地悪くても諦めて下さい」
「寝心地はちょーいいっすよ。保証します。羨ましいっす」
遊馬崎の言葉に帝人が自分だから言っているわけではないことを知る。
胸にわき上がるものを見定める臨也の耳に満足そうな唸り声が聞こえる。
「うふふ、いいわねぇ。どんどんみかプーにハマっちゃえばいいわ」
うふふというより、ぐふふの笑い声だ。
「ゆまっち」
「うっす! 待ってました」
身体を起こす狩沢と入れ替わりに遊馬崎が帝人の隣に滑り込む。
「臨也さん。寒いですから、早く布団ごと来て下さい」
言われて臨也は胸中の戸惑いを隠すように帝人を下敷きにする。
波江に邪魔そうに頭を叩かれる。
臨也の髪の毛が波江の顔に掛かったようだ。
「あぁ、もう少し下に。足出ちゃうっすけど胸の下とか腹に顔を埋めると気持ちいいっすよ」
遊馬崎の言葉に従えば少し息苦しいが気持ち良かった。
足は寒いが帝人の両脇の二人だって布団はほとんどかからず寒いはずだ。
臨也が居なくてもそもそも小さな布団で三人は眠れない。
「布団買おうよ」
「吐息がくすぐったいんで黙ってください」
素っ気ない。
が、そんなのは小さなことだ。
これでやっと安らかな眠りが手にはいる。