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まだよく知らない

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 一つ一つが弱くても、数が増えればそれは脅威と成り得る。
 「急ぐぞ。このまま戦うのは危険だ。」
 真剣な顔のバッツに、4人は無言で頷いた。










 「はっ、はっ、はぁ……っ、」
 5人は森の中を走る。
 彼等がイミテーションの大群に気付いてから、既に2時間近く経っていた。
 本来なら、既に拠点のある聖域に戻っているはず。
 「(イミテーションが突然現れた時に気付くべきだった!)」
 バッツは内心で舌打ちをする。
 2時間程前の自分を殴ってやりたい。
 敵の数に気を取られ、不安定になった次元の変化に気付けなかった自分を。
 その結果、聖域へ帰る道を見失い、森の中を逃げ惑う現状を招いた。
 まだ、自分一人だけの時なら良い。
 自分の失態が自分に返って来るだけで、仲間に被害は及ばない。
 だが今は、今自分と一緒にいるのは、若年で発展途上の者ばかり。
 あの軍勢を相手に、何処まで逃げ切れるか…。
 「ああっ!!」
 「!!?」
 気配を研ぎ澄まし、どうやって逃げ切るか、全員が生き残る術を模索している中で聞こえた悲鳴、この声は…。
 「オニオンナイト!!」
 ティナの悲鳴に近い声が木々の間に響く。
 警戒は怠っていなかったのに!
 「オニオン!大丈夫かっ?!」
 ティーダが倒れ込んだオニオンナイトを助け起こす。
 少年の右足に、紫色の魔力の塊が深々と突き刺さっていた…。
 「これは…アルティミシア―かりそめの魔女―か!」
 「イミテーションの大群とは、距離開けれてたはずなのに!」
 眉を寄せ叫ぶ、声を聞くだけでティーダも混乱していることが解る。
 「バッツ!上から…っ。」
 ティナに言われ、バッツは上を仰ぎ見た。
 「なっ、」
 通常なら、視界に映るのは生い茂り風にざわめく葉と木々の枝だが…バッツの視界に映ったのは通常の光景を背景に、時空を歪ませ降りて来るイミテーションの姿。
 かりそめの魔女の後に続くように、虚構の兵士が、うつろいの魔人が、歪みから降りて来る。
 急がなければ、
 後ろには大群が、
 何とか、ティナ達だけでも逃がさなければ、
 生き残らねば、
 右手で、具現化させた兵士の武器を握りしめた。
 ―ガッ!
 降りて来る敵を迎え撃たんと膝を曲げた瞬間に聞こえた音。
 硬質な物質同士がぶつかる音。
 大剣を振りおろそうとしていた虚構の兵士が、視界の隅―自分の後ろ―から飛んできた塊に右手を破壊された。
 「っれでどうだ!」
 続いて光…いや、これは気だ。
 巨大な闘気の刃が、周辺の植物を撒きこみながら大勢を崩した3体のイミテーションを斬り潰す。
 「走れ!」
 そう叫んだのは、虚構の兵士の右手を破壊したのは、上から下りて来るイミテーションを斬り潰したのは、スコールだった。
 「モタモタするな!追い付かれるぞ、早く走れ!」
 そう叫ぶなり、彼はティーダに抱き起こされていたオニオンナイトを担ぎ、駆け出した。
 「っ、ティナ!ティーダ!おれ達も行くぞ!」
 「はい!」
 「っス!」
 オニオンを抱えて走るスコールに追い付くのは簡単だった。
 バッツ達3人が追い付いたのを気配で知ったのだろう。
 スコールは後ろを確認することなく、ただ一点を、前を見据えたまま口を開いた。
 「バッツ、アンタが先行しろ。」
 ややスピードを落とし、そのまま隣に来たティーダに抱えていた小さな身体を渡す。
 「お前はバッツの後に続け、オニオンは任せた。」
 素早い身のこなしが戦術の基本であるティーダにオニオンを任せる、それはティーダを戦闘から外すということだ。
 「オレだって戦える!」
 自分達の班の戦力と軍勢の力バランスを多少なりとも理解しているからこそ、ティーダはそう返した。
 他のコスモス勢と比べれば、自分が戦士として劣っているのは明白。
 だが、そんな自分でも、戦闘に加われば一人辺りの敵の数は減らせる。
 それは微小な差だが、無いよりはましな差だと思うから。
 「僕だって、僕だって戦える!足をやられたのだって僕が油断したせいだ、自分の失敗は自分で取り返す!」
 声こそ大きいが、そう言ったオニオンナイトの顔には痛みによる脂汗が浮いている。
 「戦況を考えろ!その足じゃ立つことすら困難だ、そんな奴がどうやって走る?!」
 普段の無口が嘘のよう。
 眉間のしわをより深くして、感情も露わに怒鳴るスコールにオニオンナイトの肩が大きく揺れた。
 怒声に漸く冷静さを取り戻し掛けているバッツが、スコールに声をかける。
 「スコール、皆が解るように説明してくれ。」
 「…この中じゃ、ティーダが一番速い。体力もあるからオニオンを抱えていても俺やバッツと同じかそれ以上の速度を保てる。」
 「ああ。」
 「オニオンも、移動の心配がなければ、周囲への攻撃・牽制が出来るだろう。」
 「それで、ティナじゃなくてティーダが2番目なんだな。」
 「そうだ。アンタは近距離攻撃の種類は豊富だが、法撃系はオニオンの方が多いし、威力も高い。」
 「お前じゃなくておれが先頭ってことは、気配を探りながら進めってことで良いんだな?」
 無言で一つ頷いた。
 「殿[しんがり]は消去法。ティナが後ろなのは彼女に前方・後方の補助をしてもらいたからだ。」
 ティナの魔法はどれも強力で範囲も広い。
 彼の言う通り、察知能力も高いティナなら的確な支援をしてくれうだろう。
 そして、スコールは口にしなかったがもう一つ、この並びにした理由がある筈だ。
 「スコールは大丈夫なの?」
 「…平気だ。今は敵を倒すことじゃなく、帰還することが最優先だ。必要以上に戦わないし、剣技も使わない。応戦は全て法撃で行う。それに…、」
 「…それに?」
 「前を行くのがアンタ等なんだ。そう追い付かれることもないだろう?」
 方の口角を持ち上げるだけの、笑み。
 どこか挑発めいた表情に、沸き起こるのは怒りではなく……。
 「スコール…。」
 「アンタには班全体の補助を任せることになるが…。」
 「大丈夫、任せて。」
 ティナも大分落ち着きを取り戻してきたようだ。
 「……行くぞ。」
 「ああ!後ろは任せたぜ。」
 具現化したままだった大剣を消し、敵と味方の気配と次元の歪みや変化を探るために神経を尖らせる。










 自己紹介の時、彼は自分の年齢を<17になったかならないか>だと言った。
 スポーツ選手と傭兵じゃ差があるのは当り前だが、それでもスコールを凄いと思う。
 オニオンナイトを抱え、バッツ載せを負い、その合間に振りかえった後ろ。
 複数のイミテーションと繰り出された法撃を赤いサークルで弾き飛ばす。
 ティナに援護を頼んだのに、彼女の魔力を出来るだけ温存させようとしているのが、僅かな間盗み見ただけでも解った。
 氷や電撃でこちらを追って来るイミテーションの足止をし、それ等を避け迫って来たモノに対しては腕や足を狙った剣技で応戦する。
 彼女の出番は数体のイミテーションが一度に迫って来た時くらい。
 追って来る軍勢を牽制しながら、時折こちらに指示を飛ばす。
 同い年のヤツがこんなに頑張ってるのに何でオレは、って思う。
作品名:まだよく知らない 作家名:春雲こう