まだよく知らない
戦士じゃないから、戦いの経験が浅いから、そう言って年長者達に守られていた現状に甘んじていた。
神様同士の戦いに召喚されたって、分かっていた筈なのに。
抱えている小さな体が、時折妙に力が入る。
ちらりと見えた横顔が、ああコイツも同じ気持ちなんだなって思わせた。
「皆、もう少しだ!頑張れ!」
バッツの声に視線を前に向ける。
「次元の歪みだ、アイツ等の気配がする!」
後少し持ちこたえれば合流できると聞いて、鼻の奥がツンとした。
嬉しいからか悲しいからか、悔しいからかは解らないけど。
…きっと全部だな。
「アイツ等の気配がする!」
バッツの声は、最後尾でイミテーションに応戦していたスコールの耳にも届いた。
ならば、と言わんばかりに、彼は温存していた銃弾を弾倉に装填する。
一度立ち止まらなければ繰り出せない、火薬と特殊な弾を使った攻撃。
「砕けろ!」
ガンブレードの火薬と火力を使った強力な攻撃。
動きを止めたこちらの様子を好機と捉え一斉に飛びかかって来たイミテーションを言葉通り弾き飛ばす。
が、敵の数が多かった。
爆発から逃れ、尚もこちらに向かって武器を振りおろすモノがいる。
「来ないで!」
大きな氷塊がスコールの脇を通り抜けた。
「すまない。」
呟かれた言葉に、ティナは首を横に振る。
これで、自分達とイミテーションの間に距離を作ることが出来た。
爆発の反動を殺すために浮かせた身体が地に着く。
着地した足を軸に前を向くと、丁度バッツが歪みに飛び込む処だった。
「ティーダ、オニオンを!」
その声に一つ頷き、ティーダが抱えていたオニオンの身体をバッツに向かって投げる。
奇跡的に発見できた歪みは不安定で、人を抱えたまま通り抜けるには小さ過ぎたのだ。
歪みから伸びた二本の腕が、小さな身体をしっかりと抱き込み、引っ込む。
それに続きティーダが地面を蹴って、頭から歪みの中へ飛び込んだ。
「ティナ!スコール!」
向こう側から聞こえる声に、2人の足は速度を増す。
だがティーダ達とティナ達の間には、2人がイミテーションを倒した時に出来た短くはない距離が出来ていた。
時間にすれば5秒とない距離だが、この切羽詰まった状況では決して楽観視できない距離。
……そんな、切羽詰まり、焦った状況の後押しをするかのように、唯一の希望である小さな次元の歪みが、ふるり、と大きく震える。
次元の変化、その兆しだ。
「(まずい!)」
スコールのこめかみを汗が伝う。
「ティナ、急げ!」
そんなことは、彼女だって十分解っているだろうし、既に十二分に急いでいるだろう。
それでも、急げと叫ばずにはいられないのだ…コレ以上は速度を上げられないと解っていても。
そして、嫌なこととは重なるもの。
背後のイミテーションの気配が、近付いていた。
ガシャン、と重量のある音が背後から聞こえる…鎧を着たカオス軍勢のイミテーションだろう。
歪みの向こうには、こちらに向かって手を伸ばすバッツと、彼の必死な声も聞こえるのに。
彼の後ろに控える、泣きそうなティーダとオニオンナイトの顔も見える程、歪みに近付けたのに。
歪みはどんどん小さくなっていく。
ティナは、そんな現状をぼやける視界で移していた。
思わず、届きもしない手を伸ばす。
「いやぁあ!」
直ぐ後ろで爆発音。
それを情報として理解する前に、腹部を締めつける様な軽い衝撃。
視線を下に向ければ、腹部に回された黒い…。
突然視界が大きく回転し、周りの景色が線になる。
重力の様な突風の様な、不思議な感覚が身体を一瞬だけ襲った後、ガクン!と腹部が圧迫された。
その後、ティナの視界は黒一色に支配されてしまったので、状況が全くわからなかったが、圧迫の後に先程と同じ爆発音とザリザリと何かが擦れ削れるような音が続き、腹部の圧迫が緩まる。
「スコール!」
「ティナ!大丈夫か?!!」
聞こえた声に、ティナは顔を上げた。
ティーダとバッツだ。
2人がこちらに駆けて来る。
ティーダがティナに駆け寄り、バッツは彼女の隣、地面に蹲っているスコールの肩を揺すった。
「スコール!!」
「…っ、大丈夫だ!」
揺すられ、直ぐに身体を起こすが、彼の右頬と右耳は血で紅く染まっていた。
よく見れば倒れていた地面にも紅い線が着いていて…彼が右半身を下にして地面を転がったことが知れる。
「それより、俺のガンブレードは?!」
ティナの無事を確認しないのは彼女より武器の心配をしたからか、それとも彼女の無事を確信していたからか…。
「大丈夫!こっちに転がってるよ!」
4人から少し離れた場所―今は消えてしまった次元の歪みがあった場所だろう―で一人座りこんでいたオニオンナイトが声を張った。
少年の言葉通り、示された場所に煙を上げている武器が落ちているのを目視して、漸くスコールの肩から力が抜ける。
「ティナは怪我、ないっスか?」
「私は、大丈夫。」
緊張と恐怖で心臓が物凄い早さで脈打ってはいるものの、彼女に外傷は殆どなかった。
「バッツ!」
と、5人以外の声が空気を切り裂く。
声の方向を振り向けば、そこには探索に出かけたメンバーの姿。
皆一様に驚いた表情でこちらに駆け寄ってきていた。
「何があったんだ?」
クラウドが、座り込んだままのティナと足や顔から血を流している2人の姿を捉え、バッツに尋ねる。
「…ちょっとな。」
仲間の姿に安心したのか、溜まっていた疲れが一気に押し寄せて来たらしいバッツがヘタリと地面に腰を落とす。
「そっちは?よくおれ達がここにいるって分かったな。」
「ウォルがね。」
「ウォル?」
「探索の途中に、戦いの気配がするって言い出したんだ。」
「こっちの方に向かってる途中で、爆発音が…スコールの武器の音が聞こえて…何か、あったのかと……。」
セシルの言葉を引きついだフリオニール。
最後の方は安心の溜息にかき消されてしまっていた。
「何があったのかを把握する前に、一先ず拠点に戻ろう。オニオンとスコールは治療しなければ…。」
ウォルの言葉に、何があったのか再度尋ねようとしていたフリオニールやジタンが口を噤む。
傷の深いオニオンの足だけその場で応急処置を施し、後は拠点に戻った後に治療することとなった。
「それでは、説明してくれ。何があった?」
館に帰還し、怪我人のオニオンとスコールの治療を済ませ、消耗していたティナも含めそれぞれの個室へ押し込んだあと、ウォーリア・オブ・ライトは口火を切った。
「イミテーションの大群に襲われた。」
正確な数は把握できなかったが、30体~50体はいたのではないかと話すバッツに、ウォーリアは表情を動かさず、どこか釈然としない様子だ。
「君やティナは気付けなかったのか?」
その言葉に、痛い処を突かれたと、バッツが顔を顰める。
「恥ずかしい話、な…。」
「い、行き成りだったんス!バッツが気付くまでティナも気付けなかったし、戦闘直前の、ザワザワした感じも全然しなくて!」