まだよく知らない
失態に自傷気味になっているバッツをフォローすべく、ティーダがその時のことを説明する。
「オニオンも、敵意とかにも敏感なスコールも気付けなかったんだ!」
だからバッツが悪いわけではない!と必死なティーダの肩を、クラウドが軽く押さえた。
「落ち着け。誰もバッツを責めているわけじゃない。」
「……うん。」
「いや、おれの失態だよ。」
自傷の気配は引っ込んだものの、やはり苦々し気な表情のまま、バッツは口を開く。
「今回おれは、補給班を任されてる立場だった。なのに、イミテーションの出現に気付けないわ、不安定になった次元に気付けないわ、年下に判断を任せちまうわ…挙げたらきりがないよ。」
「判断を…?」
セシルが首を傾げる。
「…スコールだよ。大群の出現・次元の変化に気付けなくて、最初にオニオンが足をやられた。それでおれ、パニクっちゃってさ…全員が戻ってこれたのはアイツのおかげだよ。」
「彼が……。」
「ああ。アイツ、傭兵だって言ってたけどさ。たぶん作戦指揮とかやったことあるんじゃないかな。対策練るのも指示飛ばすのも早いし的確だったし、なんだか鼓舞も上手いし。」
作戦や指示出しはともかく、鼓舞?という思いが探索組に湧く。
普段の彼の、無愛想で無表情・協調性のなさからはとてもじゃないが想像できない様子に、疑問しか出てこない。
「怪我してティーダに抱えられることになったオニオンと、戦闘に参加できないティーダを納得させて、全員に冷静さを取り戻させたんだぜ?おれもビックリしたけど。」
アイツ指導者の素質あるよと語ったバッツは漸く何時もの様子に戻った様だ。
正直で素直なティーダはともかく、天の邪鬼な気のあるオニオンナイトまでと言われると、その威力を認めざるを得ない…元々バッツの言葉を疑っていたわけではないが。
「そう言えば…スコールの怪我はどうしたんだ?オニオンのは鋭利な刃物で刺されたような傷だったが…。」
とは、怪我をした2人の手当てをしたセシルの手伝い兼部屋に押し込む係を担当したフリオニールの言葉だ。
「えーと、バッツが皆の気配探りながら先頭走って、時空の歪み見付けて…オレ達は間に合ったっスけど、スコールとティナが間に合わなくて…。」
「…バッツ、頼む。」
「了解。スコールが殿、ティナが補助で最後尾を走ってたんだ。漸く見つけた歪みも2人が通り抜ける前に塞がりそうになってさ。」
あの時はもう、本当にダメかと思ったよ。
一度そこで間を開けて、その時のことを思い起こし頭で整理しながら話す。
「走ってたら間に合わないって分かったんだろうな。空中の足技あるだろ?あれと同じ原理だよ。ティナを抱えてからジャンプして武器を爆発させて、その威力を利用して、塞がりかけた歪みを無理やり通り抜けたんだ。顔と耳の傷は、その後バランス崩して地面を転がって出来たヤツ。」
「なるほどな。オレ達が聞いた音はそん時のか…。」
「うんにゃ、それは歪みを通り抜けた後にスコールが投げた武器が暴発?した時の音だと思うぞ。」
納得顔のジタンに訂正を入れるバッツ。
「スコールが武器を投げたのか?」
毎日丁寧に武器のメンテナンスをしているだけに、非常時とはいえ武器を放るなんて信じられないと、フリオニールは驚いた様子だ。
「凄かったんスよ~。ティナを抱えたままバランス崩してさ、傾いた!と思ったら直ぐに武器手放したんだ。」
そう語るティーダの顔は自分のことでは無いのに、なぜか誇らし気で…。
「落ちた後も、ティナを抱えてた方を上にして、怪我しないように完全に抱き込んでたっス!」
「スコールのヤツもやるなぁ。」
自分よりもレディの無事を優先したと聞いて、ジタンが思わずそう洩らす。
言葉だけ聞くと冷やかしのようにも聞こえるが、常日頃からレディファーストなどと口にし、実行している彼の姿と口調が、本当に凄いと思っていることを悟らせる。
「武器を持ったまま転げたんじゃ危ないからな…。」
「それに彼の武器って爆発するしね。何て言ったっけ?」
「銃と剣の複合武器、ガンブレード…と言ったか。」
「班の割り当てとかで拗ねたり機嫌悪くしたりとまだ子供っぽい処もあるけどさ、アイツの判断力には目を見張るものがあるよ。別に今まで能力測定の結果だけで振り分けてたんじゃないって解ってるけどさ、今後の参考程度に言っとくわ。」
そう締めくくったバッツに、ジタンが付けくわえる。
「ノリ悪いし、獅子なのに一匹狼だけどな!」
先程の発言とは違い、笑いながら、尻尾を楽し気にユラユラと揺らしながら言われた言葉だったので、今回は完全に茶化しているようだ。
「あと、意外と仲間思いだな。」
そう言った時の顔が、何かを思い起こしながら言われている様子で…セシルは頬笑みながら尋ねる。
「そう確信出来ることがあったんだ?」
「敵がいるのは後方。前方はまず安全で、おれ達はセシル達と合流するか別の次元に逃げる必要があった。そう言う時にあの中で一番重要なのってティナの察知能力だろ?」
彼女の別の次元・広範囲に及ぶ察知能力は仲間の存在や様子、次元と次元の繋がりの把握にまで及ぶ。
「それなのにスコールはティナを後方の、5人全員をカバーする補助を任せた。」
何でだと思う?と言外に尋ねるバッツに、やや間を開けてクラウドが口を開いた。
「ティナのため、か…。」
「どういうコトっスか?」
「彼女の能力は高いが、不安定だ。察知能力の範囲も、平常時に確認したものであって、戦闘時にちゃんと発動できるかは解らない。」
「しかも、大群に追われて命の危機に脅かされていた…感じていた心労は大きかっただろうし。余計なプレッシャーを与えないように、能力が安定していてティナの次に気配の察知に長けたバッツを先頭に選んだってことか?」
「君の言い方からすると、彼はティナにそのことを言わないで、5人を守る役割を“頼んだ”んだね。」
「そういうこと…だと、おれは思ってる。」
「なんスか、その微妙な言い回し…。」
「だってアイツ、自分の心を探らせてくれねぇんだもん。本心から仲間を心配して信頼してああ言ったのか、“任務のために”おれ達全員の帰還を図ったのか、分からない。」
今バッツの脳裏をよぎっているのは、彼―スコール―が召喚され目覚めた時のことだろう。
世界の命運をかけた戦いだと女神から説明を受けた後、彼は元の世界へ戻ることと失った記憶を取り戻すことを“報酬”として、戦いに参加することを“任務”だと言った。
「なんか散々褒めた後に言うのもアレだけどさ。これがおれのケンカイってやつ。」
真意がどちらであったにせよ、現段階でスコールは彼等に心を開いてはいない。
未だに彼等との間に分厚い壁を築いて、一線引いたまま。
「君の見解も含め、今回の出来事は覚えておこう。」
降りてしまった沈黙を破ったのは、リーダーたる光の戦士だ。
「我々はまだ、召喚されて間もない。互いを理解できないのも致し方あるまい…。」
実際、彼以外にもまだ仲間と打ち解けられていない者、不安定な者はいる。
信頼関係を築くのは時間が掛かるものだ、と。