東方無風伝 1
「……んぁ」
窓から差し込む陽光の眩しさに目が覚める。
ふぁ、と欠伸(あくび)を吐きながら腕を上げて大きな伸びをする。
ぼんやりとした眼差しで辺りを見渡す。
あぁそうだ。此処は幻想郷だったな。今だ寝ぼけた頭を覚ますように頭を振ってから、身体に掛けられた毛布を取る。
窓から見る外は晴れ渡っている。
何時までもアリスの世話になるわけにいかない。
アリスから人里までの道のりを教えてもらってから、其処を目指すとしよう。
扉に開ければ其処には狭い廊下。どうやら二階のようで、奥に階段が見える。
とんとんと階段を降りて行けば、「おや」二人の少女が其処にいた。
一人はアリス。その手にはティーポッドが握られている。カップに注ごうとしているところだった。
一人は魔女。白い大きなリボンが巻かれた鍔(つば)の大きなとんがり帽子。綺麗な透き通るような金色の髪。黒の服装に対称的な白色のエプロンを纏っている。その手にはクッキーが握られ、今まさに齧ろうとしているところだった。
「お、なんだアリス。男なんか誑(たら)し込んで」
「あなたが、昨日連れてきたんでしょ!」
と魔女の少女の言葉を、顔を真っ赤にして大きな声で否定するアリス。
「そうだったか?そう言えば、其処の男くらいの人間の死体を此処まで運んだ気がするな」
「生憎とそれは間違ってるな。それは死体ではなく生きた人間だ」
「あぁ、冬だからと人間の癖に冬眠を試みた人間だったか。そいつは失礼したぜ」
「君のお陰で冬眠から目が覚めてしまったよ。感謝するよ」
「そいつはどうも。なんだったらまた眠りに行くか?」
「そうしたいのは山々だが、もうすっかり眠気が無くなってしまったよ。これじゃ当分は寝れないな」
「なんだったら、私が今すぐ眠らせてやろうか?永遠にな」
「そうしたら、目覚めた時のベッドの温もりを感じられない。あれこそが至福の一時じゃないか?」
「それには同意だぜ。確かに、あのベッドの温もりがあるからこそ、睡眠はまた幸福ってものだぜ」
「愉快な人間だ」
「どういたしまして。その言葉、そっくりそのまま返すぜ」
「どういたしまして」と、彼女らが囲うテーブルに乗せられたクッキーを一枚、齧りながら言う。
うむ、愉快な会話に美味い菓子。これもまた至福の一時。